忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2024年05月03日00:10 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その28

「ここなら誰かしら悪魔について知ってる人いそうじゃない?」
「……いや、まぁ、そうなんだが。お前、悪魔について知ってる人を探すの面倒だっただけじゃねぇのか、これ」
ファールの言葉に嘆息するカザル。
言いながら2人はリルガミン冒険者訓練場の門をくぐった。


遠からぬ世の事にや侍けん四条わたりに


「お前ら、そんな剣が通用するほど迷宮は甘くねぇぞ!」
素振りをする将来の冒険者たちの前で怒鳴り声をあげていた男にカザルが気づき、ファールを手招きする。
「お久しぶりです、師範」
「お、カザルではないか」
顔なじみの戦士教練の師範に話しかけるカザル。40代半ばのいかにもがっしりとした男は懐かしそうにカザルの肩をばしばしと叩き、カザルは迷惑そうに顔を歪める。迷惑なら話しかけなければいいのに。
「はははぁ、まだ生きていたか、この野郎」
師範にとってカザルは模範的な生徒、とはいえなかった。武門の村に生まれた彼は冒険者としての基礎などすでにもともと身につけており、ほとんど教えることがなかったからだ。師範としてこれほど教え甲斐のない生徒もいないだろう。幼いころから周りの大人たちから『目上の人間に対しての絶対服従』を刷り込まれていたために師範に対して反抗することがなかった、というのが救いといえよう。
「で、それは彼女か?」
あごでファールをさしてわはは、と笑う。もちろん背中をばんばん叩いているまま。
「いえ、彼女とか迷惑です」
にっこり笑ってファールが答えた。
「ははぁ、きついお嬢さんだ」
目の辺りを覆って天を仰いでみせる。アクションの激しい男である。
「聞いたぞ、お前らが逆賊タイロ……おめぇらさぼってんじゃねぇー!」
すごい迫力で素振りをやめてカザルと師範のやり取りを見ていた生徒たちを怒る。先に話しはじめたのは自分なのに。
「すまんすまん。で、聞いたぞ? お前らが逆賊タイロッサムを討ち取ったんだってな」
んふー、と鼻から息を吐く師範。
「俺の生徒からそんな殊勲者が出るなんざ誇らしいことじゃねぇか」
……逆賊。
この言葉に2人は顔を見合わせてから納得する。
タイロッサムの真意を知っているのは女王とそのごく一部の臣下。そしてカザルとマリクのパーティの12人の冒険者のみだった。
一般の市民にとって逆賊タイロッサムが死に、ニルダの杖が輝きを取り戻したことで、すでに今回の危機は去っており、『奥の院』などというものは想像すらしていないものであった。
「あー……で、ですね。それはともかくどなたか悪魔退治について詳しい人って訓練所にいないでしょうか?」
「ん?」
カザルの質問に首を傾げる師範。
「俺の聞いた話じゃタイロッサムのダバルプス迷宮にゃ悪魔はいなかったって聞いたんだが……なぜそんなことを聞くんだ?」
「まぁ、俺たちは冒険者ですからね。ここの仕事が終わった以上、仕事のある街に流れていこうと思ってまして……どうも海を渡ったアルマールの国に悪魔が出てるらしくて、前情報を集めとこうと思ったんですよ」
王家の希望通りこの街の危機のことをおくびにも出さず肩をすくめてごまかすカザル。
「おぉ、そうかそうか……悪魔、悪魔……そういえばデルフィム殿……ロード教練の師範はダバルプス討伐にも参加したとか聞いたな。多分悪魔とも戦ったことがあるんじゃねぇか?」
「デルフィム師範ですか。わかりました。ありがとうございます」
頭を下げるカザルにがはは、と笑う師範。
「まぁ、いいってことよ。またいつでもこい。呑みにいくぞ」
いい人なのだ。
いい人なのだが。
ばんばんと肩を叩く。
いい人なんだけどなぁ……

「お待たせした。私がゼー・デルフィムと申す」
教練場の一室に先に通されていた2人の前に現れたのは1人の老人であった。
胸まで届く長いひげは、彼が戦ってきた年月を示すように白く染まり、白髪も長く後ろに伸ばしている。
鎧ではなく清潔な白いシャツを身にまとった柔和な表情の男。しかしその筋ばった手を見れば彼が柔和なだけな存在ではないことは容易に知れた。
「悪魔についてなにか知りたいことがあるとか……私がダバルプス討伐に参加したのはもう30年も前になることゆえ忘れていることもありましょうが出来る限り協力はいたしましょう」
目下である2人に対し頭を下げてみせ、逆にカザルが慌てる。
「あっ、うわ、頭を上げてくだされ。ご教授願うのはこちらでございます」
「いや、このリルガミンを救った勇者に対する当然の礼と心得る」
頭を下げたままの老ロード。
「いや、いけませんってば。ほんとほんと顔を上げてください」
ファールも困った声を上げる。
「では失礼する」
にっこりと笑う老ロード。
「そちらにも時間はおありであろうから無駄話は省かせていただくとして……私も悪魔と確かに戦ったことがある。どうやらあやつらにもあやつらなりの階級があるようでしてな、序列が上のものの魔力はたとえようがありませぬ」
「上のもの……」
カザルが考え込む。
「えっと……これは例えば、例えばですが……空間に裂け目を作って、そこから別世界へ行き来できるようなことができるような悪魔ってどれくらいのレベルだと思われますか?」
「はは、具体的なたとえですな」
笑うデルフィム……だがその目は例えたファーナを睨みつけた。
「そう。その裂け目がどの程度のものかは存じませんが、人間を軽く凌駕することは確かでしょう」
「なるほど」
考え込むカザル。
老ロードはそれを見て再び頭を下げた。
「私はすでに冒険者としては役に立たぬ身。このリルガミンのことはあなた方にお任せいたします」
ファールの質問によってすべてを察してなおなにも言わない老ロードに2人は苦笑した。
「ばればれだなぁ」
「だな」

PR
【2006年12月24日12:30 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その27

「ってわけで、だ」
「……どんなわけですか」
シガンの言葉にミルーダが順当にツッコんだ。


昔たんごの國普甲寺といふ所に、深く淨土を願ふ上人ありけり


リルガミンの市中を走る大通り。夜の帳もそろそろ落ちようとする中、ギルガメシュの酒場から先に撤退した2人が歩いていた。
「……どこにいくんですか? シガン」
ミルーダが不審そうにシガンに尋ねる。普段、他の人に対しては『様』をつけて呼んでいるのにシガンに対して呼び捨て、ということを姉に聞かれた日には一生からかわれることが目に見えているので2人きりのときにしかそうは呼ばないが。
「いや、あれだ」
「だからどれですか」
再び順当なツッコミ。
「ソコルディって知ってるか?」
「……えぇ、まぁ」
いきなり話題が飛んだシガンに不審そうな目を向けるミルーダ。
ソコルディ。
中位レベルの魔導師魔法。魔界より悪魔を召還し、使役する魔法である。
この魔法の歴史は非常に浅く、真言語よりこの魔法が体系化され確立されたのがわずか5年前。ワードナやダバルプスの時代には存在しなかった魔法の1つであった。
「……不肖にして私はまだ使いこなすことは出来ませんが、それがどうかしましたか?」
「ん、ソコルディ作った人に聞けば悪魔のこともわかるんじゃねぇかな、ってね」
シガンの返答を聞き、いったんは納得するミルーダ。しかしすぐに首を傾げる。
「なるほど。先ほどの酒場での話しに戻るわけですね。確かにソコルディを作った方がいれば有意義なお話をうかがうことは出来るでしょうが……そのような方がいるのですか?」
「あぁ、なるほど。ミルーダはこの街の出身じゃないから知らんのだな」
訳知り顔のシガン。
「マヌエル・セサル・コスタ。コスタ老って言ったほうが通りがいいけどね。あのタイロッサムと同期同門の人で、双璧と称されたお方だよ……うちの実家のつてで一応知り合いなんだよなぁ」

「うわ」
屋敷の前にきたミルーダは思わず声を出した。思ったよりはるかに大きな屋敷がそびえていたからだ。
リルガミンにおける高級住宅地の一角、その中でもかなり広大な土地を占拠するその屋敷は屋敷の主の権勢を物語っていた。
屋敷のほうを見るミルーダを尻目にシガンは門番に声をかけ、何事かを交渉している。
やがて門が静かに開いた。
「よし、いこうぜ」
「はい」
ミルーダも頷いて一歩を踏み出す。屋敷の大きさに感心するとはいっても2人とも超上流階級の出身ではあるので、中に入ったときにはすでに堂々とした顔つきをしていた。

「クリスタンテの若君がいかなる御用か」
迷宮で矍鑠としていたタイロッサムとは違い、コスタ老はベッドに寝たきりの老人であった。耳は長くエルフ族であることがわかる。だが寝たきりではあってもその眼差しは鋭く、確かにタイロッサムと並び証された若いころを思い起こさせた。
「本日は御老に質問があってまいりました」
頭をたれるシガン。彼も上流階級の出身なので礼儀を必要とされる場所においてはそれなりの言動が出来るのであろう。
「ほう、この死に損ないに聞きたいこと、とな……言うだけ言ってみるがよい」
「はい、実は……」
コスタ老の許しを得て口を開いたシガンだったが寝室のドアが開けられたことで言葉を止めた。
「お爺様、今戻りましたわぁ」
たたたっ、と走ってベッドの老人に抱きつく少女……それは……
「あら……」
少女……ディーナは一瞬殺意すら帯びた目で2人を睨みつけたもののすぐにそれを消して艶やかな笑顔を浮かべた。
「シガン、ミルーダ。ディーの家にようこそ、ですぅ」
「こ、ここ……お前の家だったの?」
意外そうな顔でディーナを見るシガン。
悪戒律のマリクのパーティにおいて、その最大火力を司る、現在のリルガミンにおいてかなり上位に位置する魔力を持つエルフの少女。
コスタ老のことを『お爺様』と呼ぶように直系の孫であるとするのならば、この少女のあまりにも強大な魔力も頷けることではあった。
「ふ~ん」
腕組みして頷くシガン。
「ディーや、どうしたんだい? おもちゃが壊れてしまったのかの?」
先ほど2人に向けた鋭い視線ではなく優しい目をディーナに向けるコスタ老。その視線から彼女のことを溺愛していることが感じられた。
「ディーのおもちゃたちはみんな丈夫ですもの、大丈夫ですわぁ」
蛇が笑みを浮かべるとすれば、このディーナの笑顔こそがそれに近いのだろう。舌を出して笑って見せるその顔は邪悪そのもので……だからこそ『おもちゃ』に対して『頑丈』ではなく『丈夫』という言葉を使ったことが耳についた。
「それよりもお爺様、よろしいんですの? 2人が寂しそうですよぉ?」
「あぁ、かまわんかまわん。ディーさえおればそれでよい」
そう言いながらディーナの頭を撫でる老人。
「……ここは出直したほうがよさそうですね。神殿の蔵書室などにも資料はあると思いますし」
ミルーダのぼやきにシガンは肩をすくめてそれに答えた。

【2006年12月23日19:49 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その26

「うむぅ~ぅ~?」
レイラが不機嫌そうに辺りを見回す。
「どうしたん? 姫ちゃん」
「ちゃんってゆうな!」
ファールの発言にレイラが噛み付いた。
「……姫のほうはいいんだな」
微妙な表情でカザルが呟く。


千里に旅立て、路糧をつゝまず


奥の院の回廊。
「なぁんか……見られてる気がするんだよねぇ」
首筋辺りを撫でながらレイラがぼやく。その言葉にカザルは肩をすくめた。
「そりゃ見られてるって当たり前だろ。俺には魔法のことはわからんが戦いで最も重視すべきは敵の情報だ。世界を繋げるくらいの魔力の持ち主だったら、俺が敵の親玉ならここに侵入したヤツの一挙手一投足を観察してなにも見逃さねぇよ」
「ふむ」
なるほど、と頷いてシガンが一歩踏み出す。
「ぶーす! ぶーす! ぶーす! ぶ……!」
「うるさいよ」
レイラの蹴りがシガンの延髄を砕いた。

「舌噛んだー! 舌噛んだー!」
後頭部を押さえながらごろごろと転がりまわるシガン。
「仕方がないですねぇ」
ミルーダは嘆息しながら回復呪文を唱え、それからカザルに向き直った。
「カザル様、回復呪文が残り少ないですしそろそろ帰還いたしませんか?」
「おう、そうだな。そろそろ帰るか」
カザルの言葉にファールは立ち上がりながら、床に突っ伏したままのシガンをつま先でつつく。
「帰るぞ、エロガキ~」
それを見てケイツがぼやく。
「最近……シガンさんの扱いが酷いですよね」
酷いからといって止めようとはしていないが。

「さて、敵の情報が必要だ」
ギルガメシュの酒場でテーブルに着いたカザルはエールに手をつけることもなく他のパーティメンバーに言った。
「あぁ……うん」
ファールが無感動に答える。
顔はカザルの方向を向いているものの、体はすでにステージの方向に向かおうとしている。歌いたいらしい。
「ファール、着席」
眉間を揉み解しながらカザルが言う。
「きゅう」
喉から変な音を出してファールがしぶしぶ着席した。
「きゅうって……かわいいな、おい」
驚いたように呟いたシガンをミルーダが睨みつけた。

「で、敵の情報だ」
「よし、情報だね! わかった! 解散!」
カザルの議題にファールは力強く宣言し、いそいそとステージに向かおうとしてカザルに思い切り頭を叩かれた。
「い、いたぁ……」
「痛くしたんだ」
拗ねたように再度着席するファール。
「悪魔の情報……ねぇ?」
シガンが腕組みして考える。
「悪魔なんて見たことないしなぁ」
首をひねるパーティメンバー。
「実際に戦ったことがある人は……探せばいくらでも見つかると思います」
ケイツが控えめに手を挙げながら発言する。
「ほら、ダバルプス戦役ってしょせん私たちの親の世代くらいの話じゃないですか。ダバルプスが悪魔公を召還した、って記録も残ってますし、だったら当時の冒険者さんも、もちろん悪魔と戦ってたような人も探せば見つかるんじゃないでしょうか……って、うわぁー、こんな長話を全部無視されてるとは思いませんでしたぁ」
長々と説明して、顔を上げた瞬間、メンバーが普通に話をしていたのでケイツは愕然とするより前に脱力した。
ケイツの肩に置かれる手。ミルーダ。
「あの、ケイツ様、私は聞いてましたよ? えっと……ナイスガッツ」
親指を立てて激励。ケイツもとりあえず勢いで親指を立てて答えてみせるが冷静に考えてさっきのケイツの発言にガッツは存在しなかった。
「じゃあこうしようぜ」
シガンの挙手。全員がシガンに注目する。
「各自、それぞれの方法で情報収集。別にそんなん1人でも出来るし、ニュースソースはいくつあっても不足はないし。むしろ情報を集めまくって総合的に考えればいいんじゃね? 俺はよく話しに聞くサキュバスのことについて専門的に調べたいなぁ。お兄さんよっていかなぁいとか言われちゃってどうしようみたいな、そんなことはちぃっとも思ってないぞぉう」
発言の後半辺りからミルーダに地獄の業火すらも生ぬるい笑顔で見つめられて無理やり発言を修正するエロガキ。
「うむ、それしかないか……じゃあ明日は各自情報収集してみてくれ」
「よしっ、解散っ!」
カザルの出した結論にファールが嬉しそうに食いつく。
カザルは苦笑して頷いた。

酒場でグラスを傾けるカザル。
酒場の喧騒の中に響くのはファールの歌声。
「あいつ、いつでも冒険者廃業できんじゃねぇか」
苦笑してつまみに注文したアサリのにんにく炒めを口に運ぶ。
ミルーダとシガンはすでに2人揃って夜の闇の中に消えており、レイラがだらしなくひじをついた格好でピピースと呼ばれる砂肝のソテーを口に運ぶ。唐辛子とパプリカで味付けされておりちょっと辛い。どちらにしてもここリルガミンでよく見られる料理である。
「でもファールに抜けられたら困るくせにぃ」
にやっと笑いながらレイラがピピースを口に放る。
「綺麗な歌、ですよね」
愛するものが遠くに去ってしまった時に感じる愛しさと寂しさを歌い上げるファールにケイツがほぅ、と溜め息をついた。
「あれ? ケイっちゃん、まだいたの?」
「……それ、今日で一番酷いです」

【2006年12月22日13:30 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その25

「うひゃ~あ~、よく斬れるねぇ、これ」
翼を持った悪魔たちは数瞬後、すべて斬り伏せられていた。
まさに熱したナイフをバターに当てるかのようにファールの一撃は悪魔たちを屠る。
「……さすがムラマサですよね」
戦闘中はなにもすることがなかったミルーダが悪魔の放った呪文による治療の魔法を唱えながら感心したように呟く。
「あ、そうそう。ムラマサムラマサ」
ファールは今、名前を思い出したように頷いた。
「お前……いくら道具に執着しないっつっても程があるぞ」
シガンが呆れた。


子どもあつまりて、おあん様、むかし物がたりなされませといへば


「やぁ、待たせたかい」
「いや、それほどでもねぇ」
ギルガメシュの酒場。
『奥の院』の存在を確認したカザルはいったんの帰還を宣言し、リルガミンに戻っていた。
そして今、酒場で彼と待ち合わせをしていたのだった。
……青鎧の戦士マリク。
悪戒律のパーティを率いる金髪の伊達男は優雅にカザルの前に座る。
「まずはタイロッサム打倒おめでとう」
右手を軽く上げて祝福してみせる。その仕草に悔しさはまったくない。
タイロッサム打倒よりも、迷宮がもたらす財貨を重んじる彼らしい態度といえた。
「賢者からの話は聞いたよ。僕たちもその迷宮に進むことにしようじゃないか」
にっこりと笑うマリク。
「儲かる保証はねぇんだぜ?」
「僕たちは冒険者だ。必要なのは保証じゃなくて可能性だろう?」
マリクの言葉にカザルは大声で笑った。
マリクはエールを注文し、しばらく黙りこくる。テーブルに沈黙が訪れた。
「あぁ……うん……我らがトレボーの姫君は元気かい?」
言いづらそうにカザルに尋ねるマリク。
トレボーの姫君……レイラ。
もともとレイラは悪戒律のニンジャであり、マリクのパーティメンバー……そして彼の恋人だった。
「あぁ、元気だぜ。別れたっつっても会ってやってもいいんじゃねぇか?」
カザルの言葉にマリクは肩をすくめる。

それはまだ彼らが恋人であったころのこと。
今となっては昔のこと。

「よし、そろそろいこうか」
マリクはメンバーが揃ったのを見計らって探索の開始を宣言した。
自分が先頭。
恋人のレイラがその右後ろ。サムライの醜男ドルツが左後ろを固める。
後衛には司祭のラグラノール、魔術師のディーナ……
そして最後尾に僧侶のカイリがいた。
カイリ……種族は人間。年齢は20代後半であろう。
美人ではない。醜いわけでもない。ただの女。
彼女がマリクに好意を寄せていることは彼自身なんとなく感じてはいたが、彼にとってそのとき誰よりも大事だったのはレイラだったし、愛想のない年増女などにまったく興味がもてなかった。
ただのパーティメンバー。それはまったくの無感情。
後ろを振り返るとカイリがレイラを睨みつけていた。

第4層。いたるところに存在するダークゾーンとテレポーターが冒険者の足を阻む地。
探索を続ける彼らに室内で待ち構えて、襲い掛かってきたのは闇に落ちた処刑執行人たちだった。
「ちっ! ……数が多いな!」
3人の処刑執行人と5匹の暗い影。人数だけでいえばパーティを上回っていた。
レイラとドルツが前進する。マリクも暗い影を足止めするために前進した。
「グールか!」
暗い影の正体を見極めマリクは叫ぶ。グール……油断しなければそう怖い相手ではない。油断さえしなければ……
2匹のグールを瞬く間に斬り伏せ、調子付くマリクの背に3匹目のグールが……ただ、触れた。
「ぐっ……がっ!」
マリクの体が硬直する。麻痺……腐敗した体を持つグールの最も恐ろしい武器がそれであった。
マリクの動きが封じられたと見た1人の処刑執行人が大剣を振りかぶって襲い掛かる。
レイラは残り2人の処刑執行人たちに足止めされ動けず、ドルツは必死でフォローに入ろうとするが……間に合いそうにない。
……あぁ、ここで終わりか。
マリクは、ただ、そう思った。
しかし次の瞬間倒れたのはマリクではなく、マリクと処刑執行人の間に割り込んだ人影……カイリ。
血まみれのカイリは満足そうに微笑み、最後にマリクに抱きついてから、そのまま崩れ落ちた。
ドルツが処刑執行人にカタナを叩きつけるが彼女はもう……
マリクは麻痺した体で彼女の最後の笑みだけを思い出していた。

カイリはカント寺院の力をもってしてもこの世に戻ってくることが出来ず、この世から完全に消滅した。
その日からマリクはレイラを抱くことが出来なくなる。抱こうとすると頭に浮かぶあの顔……
そしてマリクはレイラと別れた。
最期の彼女のあの顔は……
最期の彼女のあの顔は……
最期の彼女のあの顔は……
マリクが最も愛していたのはレイラ、それは間違いない。だが彼の心に最も焼きついた顔は、あの死に臨もうとする笑顔だった。
彼女は最期の行動によってマリクを縛り付ける。
それはまさしく『呪い』だった。

ギルガメシュの酒場。目の前にはカザル。
「まぁ、いろいろあるんだよ」
あの血まみれの微笑を頭から追い出すように、マリクは苦笑してエールをあおった。

【2006年12月21日21:12 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その24

「さて、『左』にいくぞ!」
マロールで転移して再び訪れた第6層。
どすどすと足音を立てて左側の通路に足を進めるカザル。
「……は、はぅぅ~」
ケイツは胃に穴があいてゆく感覚を思う存分味わっていた。


むかし、かべのなかよりもとめ出でたりけむふみの名をば


左に先行していたカザルの姿がいきなり消える。
「?」
「……あ、テレポーターか。ここにきて仕掛けしなくてもいいのに」
苦笑するファール。そしてメンバーは続々とカザルが消えたあたりに足を踏み入れた。

そこは小さな部屋だった。
ケイツがきょろきょろと辺りを見回しながらデュマピックの詠唱をはじめる。パーティメンバーの頭上に地図が浮き出す。
「第5層? ……そっかここが足を踏み入れられなかった場所なんだ」
レイラが納得したような声を上げた。
第5層南東部。分厚い壁に阻まれ内部に侵入することが出来なかった場所はタイロッサムの部屋の奥から行き着くことの出来る場所だったのだ。
きょろきょろと珍しそうに見回していた一行に小さな影がにじり寄ってきた。
「……みなさん」
「うわぁっ!」
驚いて武器を構える一行。
声をかけたのは小さな老人だった。
シガンは危うく斬りつけるところだった。
「……」
老人は腰を抜かしたように目を見開いてへたりこんでいる。どうやらモンスターではなさそうだ。
「あ、あっぶないなぁっ! もうサービスしてやろうと思ったけどしてやらんっ!」
ぷりぷりと怒って部屋の隅を指差す。
そこには……
……空中に裂け目がただ浮かんでいた。
「な、なんだこりゃあっ!?」
「きもっ!」
口々に感想を言い合う一行。
裂け目の向こう側は暗くてよくわからない、がどうやら通り抜けることが出来そうだ……出来そうではあるのだが。
「これが……タイロッサム様がおっしゃってたことなんでしょうか」
ケイツが首をひねりながら呟く。
「日記に書いてあった奥の院……まぁ、そうなんだろうなぁ」
シガンもまじまじと裂け目を見る。どういう仕組みでこのようなものが存在しているのかがよくわからない。
「こ、こんなこと、人間には出来ませんよ……あ、ドワーフなら出来るとかそういう意味じゃなくて。こんなことできるとすれば魔族だけです……!」
ケイツが自分の発言に天啓を得たように口に手を当てて固まった。
「け、ケイツ様……確かに魔族であれば納得は出来ますが」
冷や汗をかきながらミルーダも絶句する。
「しかし、この迷宮には今まで悪魔はいませんでした」
必死に抗弁するミルーダ。しかしケイツは首を横に振る。
「……もともとのダバルプス呪いの穴にも魔族はいたって文献が残されてますし、それに今ではダバルプスの時代に存在しなかった魔法の復元……つまり悪魔を召還する魔法があって、中級以上の魔法使いだったら使いこなせるものなんです。私にだって使えるくらいですから……だからこそむしろタイロッサム様が魔族の召還を行っていなかったことに疑問を抱くべきだったんですね」
顔をしかめて裂け目を見るケイツ。
「つまりケイツの考えじゃ裂け目の向こう側……『奥の院』にゃ魔族がいるってことか」
こくり、と頷くケイツ。
「そ、それからもうひとつ……魔族の住む世界とこの世界というのは通常だと行き来できるものじゃないんです。誰かがこちらの世界から呼ばなきゃいけない……こんな裂け目を作り出すことが出来るくらい強い魔族が呼べる術者は……もしかしたらタイロッサム様以上の魔力を持っているかもしれません」
ケイツの説明にパーティを嫌な沈黙が覆う。
「……確かにあの爺さんで手に負える程度だったら、こんな迷宮に篭るなんてことはせずにあの爺さん自身が動いてるだろうしな。だがそれも推論だ。いってみよう」
カザルが決断を下し、裂け目に足を踏み入れた。

「ここが……奥の院」
暗い通路。その壁は石のような……しかしまったく別の材質のようである。
あたりは静まり返り『静謐』という言葉こそが相応しい。だが……
「……う~ん」
「あ、気づいた?」
顔をしかめるレイラにファールが苦笑を浮かべた。
辺りから感じられるのは剥き出しの悪意。ここに足を踏み入れたことによる嫌悪の感情。
それがパーティに叩きつけられていた。
「……ここで立ち止まってても仕方ない。いこうか」
自分の後ろに裂け目があることを再確認し、退路を確保したことを確認してからカザルが声をかけ……しかし足を踏み出すことなく、耳をすます。
……
蝙蝠の羽音に似た音が通路の奥から響いてくる。
一行は武器を持つ手に力を込める。
そしてその生き物が現れた。

3匹の……どう説明したらよいのだろう。
緑色の肌。背には蝙蝠のような翼。鳥のような嘴。しかし体躯は決して鳥ではなく人間を悪趣味にデフォルメしたようないびつな体格。手には鋭い爪がはえている。
「……クァァァァァァっ」
怪鳥音とともに吐き出される炎。
「ま、マハリトっ!?」
炎に焼かれながらミルーダが驚愕の叫びをあげる。呪文の効果を発動させるには必ずその呪文の方程式を言葉に出さなくてはならない。
1足す1と唱えることによって2という答えが姿を見せるのだ。だからこそ本来魔法使いに対し、沈黙の呪文を唱えることさえ出来れば呪文が効果をあらわすことはない……だがこいつらには……
……まったく違う法則があるということか。
「これが魔族かぁっ!」
ファールがムラマサを構えて走った。

【2006年12月20日20:58 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
前ページ | ホーム | 次ページ

忍者ブログ [PR]