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【2024年04月20日00:34 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その28

「ここなら誰かしら悪魔について知ってる人いそうじゃない?」
「……いや、まぁ、そうなんだが。お前、悪魔について知ってる人を探すの面倒だっただけじゃねぇのか、これ」
ファールの言葉に嘆息するカザル。
言いながら2人はリルガミン冒険者訓練場の門をくぐった。


遠からぬ世の事にや侍けん四条わたりに


「お前ら、そんな剣が通用するほど迷宮は甘くねぇぞ!」
素振りをする将来の冒険者たちの前で怒鳴り声をあげていた男にカザルが気づき、ファールを手招きする。
「お久しぶりです、師範」
「お、カザルではないか」
顔なじみの戦士教練の師範に話しかけるカザル。40代半ばのいかにもがっしりとした男は懐かしそうにカザルの肩をばしばしと叩き、カザルは迷惑そうに顔を歪める。迷惑なら話しかけなければいいのに。
「はははぁ、まだ生きていたか、この野郎」
師範にとってカザルは模範的な生徒、とはいえなかった。武門の村に生まれた彼は冒険者としての基礎などすでにもともと身につけており、ほとんど教えることがなかったからだ。師範としてこれほど教え甲斐のない生徒もいないだろう。幼いころから周りの大人たちから『目上の人間に対しての絶対服従』を刷り込まれていたために師範に対して反抗することがなかった、というのが救いといえよう。
「で、それは彼女か?」
あごでファールをさしてわはは、と笑う。もちろん背中をばんばん叩いているまま。
「いえ、彼女とか迷惑です」
にっこり笑ってファールが答えた。
「ははぁ、きついお嬢さんだ」
目の辺りを覆って天を仰いでみせる。アクションの激しい男である。
「聞いたぞ、お前らが逆賊タイロ……おめぇらさぼってんじゃねぇー!」
すごい迫力で素振りをやめてカザルと師範のやり取りを見ていた生徒たちを怒る。先に話しはじめたのは自分なのに。
「すまんすまん。で、聞いたぞ? お前らが逆賊タイロッサムを討ち取ったんだってな」
んふー、と鼻から息を吐く師範。
「俺の生徒からそんな殊勲者が出るなんざ誇らしいことじゃねぇか」
……逆賊。
この言葉に2人は顔を見合わせてから納得する。
タイロッサムの真意を知っているのは女王とそのごく一部の臣下。そしてカザルとマリクのパーティの12人の冒険者のみだった。
一般の市民にとって逆賊タイロッサムが死に、ニルダの杖が輝きを取り戻したことで、すでに今回の危機は去っており、『奥の院』などというものは想像すらしていないものであった。
「あー……で、ですね。それはともかくどなたか悪魔退治について詳しい人って訓練所にいないでしょうか?」
「ん?」
カザルの質問に首を傾げる師範。
「俺の聞いた話じゃタイロッサムのダバルプス迷宮にゃ悪魔はいなかったって聞いたんだが……なぜそんなことを聞くんだ?」
「まぁ、俺たちは冒険者ですからね。ここの仕事が終わった以上、仕事のある街に流れていこうと思ってまして……どうも海を渡ったアルマールの国に悪魔が出てるらしくて、前情報を集めとこうと思ったんですよ」
王家の希望通りこの街の危機のことをおくびにも出さず肩をすくめてごまかすカザル。
「おぉ、そうかそうか……悪魔、悪魔……そういえばデルフィム殿……ロード教練の師範はダバルプス討伐にも参加したとか聞いたな。多分悪魔とも戦ったことがあるんじゃねぇか?」
「デルフィム師範ですか。わかりました。ありがとうございます」
頭を下げるカザルにがはは、と笑う師範。
「まぁ、いいってことよ。またいつでもこい。呑みにいくぞ」
いい人なのだ。
いい人なのだが。
ばんばんと肩を叩く。
いい人なんだけどなぁ……

「お待たせした。私がゼー・デルフィムと申す」
教練場の一室に先に通されていた2人の前に現れたのは1人の老人であった。
胸まで届く長いひげは、彼が戦ってきた年月を示すように白く染まり、白髪も長く後ろに伸ばしている。
鎧ではなく清潔な白いシャツを身にまとった柔和な表情の男。しかしその筋ばった手を見れば彼が柔和なだけな存在ではないことは容易に知れた。
「悪魔についてなにか知りたいことがあるとか……私がダバルプス討伐に参加したのはもう30年も前になることゆえ忘れていることもありましょうが出来る限り協力はいたしましょう」
目下である2人に対し頭を下げてみせ、逆にカザルが慌てる。
「あっ、うわ、頭を上げてくだされ。ご教授願うのはこちらでございます」
「いや、このリルガミンを救った勇者に対する当然の礼と心得る」
頭を下げたままの老ロード。
「いや、いけませんってば。ほんとほんと顔を上げてください」
ファールも困った声を上げる。
「では失礼する」
にっこりと笑う老ロード。
「そちらにも時間はおありであろうから無駄話は省かせていただくとして……私も悪魔と確かに戦ったことがある。どうやらあやつらにもあやつらなりの階級があるようでしてな、序列が上のものの魔力はたとえようがありませぬ」
「上のもの……」
カザルが考え込む。
「えっと……これは例えば、例えばですが……空間に裂け目を作って、そこから別世界へ行き来できるようなことができるような悪魔ってどれくらいのレベルだと思われますか?」
「はは、具体的なたとえですな」
笑うデルフィム……だがその目は例えたファーナを睨みつけた。
「そう。その裂け目がどの程度のものかは存じませんが、人間を軽く凌駕することは確かでしょう」
「なるほど」
考え込むカザル。
老ロードはそれを見て再び頭を下げた。
「私はすでに冒険者としては役に立たぬ身。このリルガミンのことはあなた方にお任せいたします」
ファールの質問によってすべてを察してなおなにも言わない老ロードに2人は苦笑した。
「ばればれだなぁ」
「だな」

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【2006年12月24日12:30 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは松帆浦物語。

さて、前回のコスタ老といい今回のゼー・デルフィムといい名前のモデルがあるわけですがね。ま、サッカーネタです。
ゼー、ってのはジョゼの愛称なのでポルトガル人として現在最も成功している国際的な監督であるチェルシー監督ジョゼ・モウリーニョからとってます。
コスタ老のほうはもっとロコツでルイ・マヌエル・セサル・コスタ……えっと、ポルトガル産ファンタジスタルイ・コスタですね。
多分コスタ老はタイロッサムとなにかと比較されていろいろ言われてたんでしょうが、とか、ここまで書いててネタを思いついたよっ!
あれだ、芸術的とまでいえる技術を披露しながらタイトルに恵まれなかったルイ・コスタが語った言葉がまんまコスタ老に当てはまるかもしれんね。

リルガミン人である限り、宮廷魔術師である限り、セサル・コスタが王冠を手にすることは無い。
しかしファンタジスタの背中には天使の羽が生えている。それだけで十分だ……

あ、明日更新分は急遽予定変更してクリスマス特番をお送りする予定です。です。
【2006年12月24日 12:49】| | 上杉霧音 #9a7c4e74d0 [ 編集 ]
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