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【2024年04月20日03:02 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その32

「ん?」
ドアを開けようと手を伸ばそうとしたマリクが顔を上げる。
「どうした?」
「いや、多分、気のせいだとは思うんだけど……」
ラグラノールの問いにマリクは複雑な顔をして答える。
「今、なにかが倒れるような音がしなかったかい?」


さりがたき人の哥よむやうをしへよと度々仰せられ候へども


奥の院第5層。
カザルたちだけでなくマリクたちのパーティもこの階層を探索していた。
そして見つけたのはシークレットドア……ではなくダークゾーンの奥に隠された普通の扉。
「まさかこんなところに扉があるとはねぇ」
口の端に笑みを浮かべて小さく呟くマリク。
「悪魔どもがリルガミンに攻めてくるのならどうしても出入りというのは必要になるからな。そして侵入者を規制するために隠しておくのも理解できる……実に理にかなった位置だと思うが?」
「確かにその通りだ」
軍師役のラグラノールの分析に小さく頷き……
「……っと」
ドアの向こうの玄室、その中にいた人影に不意をつくように斬りかかる。
人影の数は5体……斬りかかった瞬間にマリクたちには正体もわかっていた。
「ふん、悪魔に心を売った騎士どもか」
不意をうたれた騎士……ワイヤードナイトたちは隊列を整えることも出来ず……
「まず1人!」
マリクのサーベルの突きによって首を貫かれ一瞬で絶命する。
「ご、あああああ!」
カタナを構えたドルツの斬撃は避けられたものの、素早いゼムンの攻撃は相手に致命傷を与えることなく、しかし確実に体力を奪ってゆく。
「ディー、すっごくヒマじゃないですかぁ?」
「ヒマだったら呪文の1つでも唱えたらぁ? ……あ」
あくびをするディーナに、髪をいじりながら返答するハロゥ。枝毛を見つけて不機嫌そうだ。
もはや前衛だけで終了することがわかりきった戦いで多少の疲労をすることも嫌った態度である。あきらかに余裕、といえた。
「マリク。1人は残しておいてくれ」
「あぁ、わかったよ」
やはり戦いに参加もせずに腕組みし、壁にもたれかかっていたラグラノールがマリクに注文をつけ、マリクも気軽に答えながらワイヤードナイトの剛剣を半身で避けてみせる。
「ふっ」
気の抜けたような気合の声。
しかしゼムンはハデさこそないものの確実に相手を追い詰めてゆく。それはまさに戦意を失わせる戦い方。もし仮に『もう一度戦うことがあったとしたら』もうその時点で相手に『勝てない』と思わせる戦い方だ……もっとも『もう一度戦う』という時点でナンセンスなのだが。
「ぬああっ!」
ドルツが大上段からの一撃を見舞う。
ワイヤードナイトは余裕を持って剣で受けようとし……
「はい、真っ二つ」
「あはは。赤っていいですよねぇ」
きょとん、とした顔で楽しそうに自分を見ながら笑っているハロゥとディーナを見るワイヤードナイト。
そしてそのまま後ろに倒れた。
ドルツのカタナはワイヤードナイトの剣をへし折り、かぶとを叩き割り、そのまま地面に叩きつけるように縦に1本の線を引いていた。恐ろしいほどの膂力である。
「うああああああッ!」
これだけの戦い方を見せられながら、それでも自分の戦意を鼓舞するかのように大声をあげてマリクに向かって突貫するワイヤードナイト。しかし……
「っ!?」
マリクは余裕を持って、床にあった『モノ』を突貫するワイヤードナイトに向かって蹴りつける……先ほどまで彼の仲間であった、その死体を。
死体とはいえ自分で斬りつけるのは躊躇したのか、ワイヤードナイトが仲間であった『モノ』を受け止め……
「キミ、本当に悪魔に魂を売ったのかな? あんまり悪くなさそうなんだよねぇ」
そのマリクの小ばかにしたような言葉を聞くこともなく死体ごと腹をマリクのサーベルによって貫かれ絶命した。
「おや、私が最後ですか?」
バックステップでワイヤードナイトの間合いから離れながら意外そうにゼムンが問いかける。
「そうだね。1人は残しとくよう言われてるから、それが最後だね」
「了解しました」
その瞬間、ゼムンに対していたワイヤードナイトは彼の姿を見失った。最後に見えたものは……
「ふぅ、こんなもんでしょうか」
掌底を顔面に叩きつけられたワイヤードナイトはそのままずるずると倒れる。
「さて、あと1人、だけど……」
残った1人は震えながら、それでも必死で剣を構えている。これだけの実力差を見せ付けられ、それでも抗おうとしていた。しかし……
「あっ?」
間の抜けた声を上げるワイヤードナイト。横からいつの間にか接近していたハロゥに武器を取られてしまったからだ。
「なぁにぃ、これ? 超安物」
バカにしたように剣を後ろに放り投げるハロゥ。これで億が一にも彼の勝ち目はなくなっていた。
「さて、この迷宮のダンジョンマスターの名前を聞いておこうか」
退路を塞ぎながら肩をモーニングスターで叩き、ラグラノールが問いかける。
「……」
ワイヤードナイトがふん、と横を向いた瞬間……
白いものと赤いものが飛び散った。白いものは歯。赤いものは血。ラグラノールが手加減なしの一撃をワイヤードナイトに見舞ったからだ。
「貴様の選択肢は2つ。楽に死ぬか、苦しんで死ぬか、だ」
言いながらもモーニングスターを顔面に叩きつけ続けるラグラノール。
「ん?」
やがて不自然なほど力の抜けたワイヤードナイトを前に不思議そうな声を出した。
「ふん……舌を噛み切ったか」
つまらなさそうに最後の一撃を脳天に。
「さぁ、いこうか。次は回復呪文を使ってでも聞き出してみよう」
そのラグラノールの言葉にドルツは渋い顔をする。
「どうしたんですかぁ?」
「お、おでは、こういうの、すかない」
ディーナの言葉に嫌悪感を剥き出しにして答えるドルツ。
迷宮にディーナの笑い声が響いた。

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【2006年12月29日02:11 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その31

「ここって……どういう階層なんだよっ!?」
前触れなくファールがぶち切れた。
気持ちはわかる。
ここ、奥の院第5層は外側にダークゾーンやら落とし穴、そしてテレポーターやらの存在する通路。
どうやら、中央部分があるようなのだがそこへの道がわからない。
「これ、邪魔だと思わないっ!?」
ファールが憎々しげに自分の後ろにあるであろう壁を手の甲で叩く。
「……俺、邪魔か?」
叩かれていたのは壁ではなくカザルだったわけだが。


大和歌は、天地未だ開けざるより其のことわりおのづからあり


うざったいほどの落とし穴とダークゾーン。
そしてなにより……

「あひぃぃぃぃぃぃっ!?」
ファールが叫び声をあげる。
目の前には一見して蜘蛛……老人の顔が頭に当たる部分についていて、また人間よりも大きい動物をそう呼ぶのならば、だが。
間違いなく魔性の静物であった。
「糸ーっ!? 糸がーっ!?」
蜘蛛の糸に絡めとられて大はしゃぎのファール。体中が糸まみれで満足に動くことすら出来てはいない。武器を抜くなどもってのほかである。
天井からの奇襲によって動きを封じられたのが1人、というのはまぁ、運がよかったといえよう。
しかしムラマサという、近接戦最大火力を失ったのはパーティにとって大きな痛手であった。
「にちゃにちゃするーっ!?」
「なにやってんだ、お前はー!?」
思わずツッコもうともしたが戦闘中であり、満足なツッコミも出来ない。まぁ、ファールのほうでもそれを期待はしていないだろうが。
「あぁもう! 仕方がねぇな!」
「うぅ、すまん……」
ハルバードを構えたシガンが前に出る。
「せッ!」
そのまま鋭い突きを放つものの魔物はあざ笑うかのように横に避けた。なかなか素早い。
「むっかぁー!」
そして横に避けながら『キキキっ』と鳴く。
「うわぁ!」
後ろに下がったはずのファールが叫び声をあげた。
「どうした!」
「いや、仲間が出てきた……こっちから」
後方から出現した蜘蛛の魔物の前足での攻撃を糸に絡まったままで身をよじって避けるファール。なかなか器用ではあるが、そう何度も出来ることではないだろう。
「ちっ! 私はこっちぃ!」
レイラが後方に下がり突きを放つ。簡単に避けられたものの敵の目を釘付ける、という意味では成功であった。
「中原父老莫空談……バコルツ」
「麗宇芳林對高閣……ディルトです!」
ケイツが相手の呪文を封じる魔法を、ミルーダが敵の足を止める魔法を唱え蜘蛛の動きも鈍ったように見える。が……
「それでも2匹だもんなぁ」
カザルがぼやく。
シガンが前衛として戦えるとはいえ、挟み撃ちされている状況。しかもファールはほぼ戦線離脱状態だ。
カザルがカシナートの剣を繰り出すと蜘蛛は避けようとする、が……
「ぎぎぃ!」
ミルーダによって素早さを奪われた敵の皮膚を切り裂いた。あたりに緑色の体液が飛び散る。
「ちッ! 浅い!」
しかしカザルも歯噛みをした。さっきのは致命傷でもなんでもない。逆に敵を怒らせてしまっただけだ。
「ぎちぎちぎち……」
不気味に歯を鳴らすカザルの前にいる蜘蛛。その瞬間、パーティを猛烈な吹雪が襲った。
「ラダルトっ!? こんな高位の魔法を使いこなすなんて!」
ケイルのバコルツの障壁をものともせず、現れたその効果にミルーダはすぐに回復魔法を唱えだす。
「レイラ! 後ろのやつなんぞとっととクリティカルで沈めて、こっちのフォローに回ってくれ!」
クリティカル……ニンジャのみに伝わる相手の急所をつく致命的な一撃。
「そんな簡単に出るもんじゃ……でちゃった」
グチりながら蜘蛛の頭に手刀を落としたレイラがかわいい声を出した。
狙っていなかったくせに、手ごたえは完璧なクリティカルヒットだった。後方の蜘蛛は一撃で沈む。あとは前方の1匹……
しかし後方の1匹が死んだことで動揺しているのか、その動きは著しく鈍い。
「今度こそっ!」
シガンの繰り出す二度目のハルバード。それで決着がついた。

「いやぁ、ごめんごめん」
苦笑しながら糸からようやく開放されるファール。
「ま、さっきのは仕方ねぇけどな」
苦笑で返すカザル。
延々と周囲を巡っているパーティにも彷徨う悪魔たちは容赦をしない。前に進んでいるのかいないのかすらわからない中での無意味ともいえる戦闘……これが冒険者たちの今、一番の敵であるといえた。
無意味であるがゆえに出来る限り避けたい……しかしなかなか相手も逃がしてくれない。そして敵の強さもハンパではなく、常に死と隣り合わせ。この状況に精神をすり減らさぬものなどいないのだから。
「あー、うわ」
糸から開放されて立ち上がったファールがふらふらと立ち上がる。
「うげ、平衡器官狂ってるみたい……」
「おいおい、大丈夫かぁ?」
ふらふらとするファールにシガンが呆れたような声を出す。
ふら……バターン!
音を立ててファールが消えた。いや、消えたのではない。手をつこうとした壁が消えて、ファールがその奥に倒れたのだ。
「シークレットドアか……ファール、でかした」
カザルが感心したように言う中……
「ふにゅう……」
ファールはお尻を突き出した格好で倒れ、かわいい声を出していた。

【2006年12月28日01:00 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その30

翌日、パーティの集合場所。
レイラが伴った婦人にケイツ以外のパーティメンバー全員が『誰これ?』という目を向ける。
「あなたがリーダー?」
婦人……アデールが背負っていた皮袋を地面に置き、カザルのほうを向く。


いたづらに明しくらす春秋は


「えぇ……?」
アデールの意図がつかめず、返事をしたもののいぶかしそうな口調のカザル。
その瞬間、アデールが動く。

アデールはカザルの腰の剣を引き抜き斬りかかった。

無手、と油断させておいてのいきなりの行動。しかも相手の腰の剣を抜くことで相手の武器を封じることになる。
しかしカザルの行動も早かった。
アデールの抜き手を止めることは出来なかったものの、斬りかかられる前にその間合いから離脱する。
それは一瞬の攻防であった。
「……」
「……ふふっ」
斬撃を避わされたアデールは笑みを漏らす。カザルが間合いをはずしたのは自分がなんとかしなくてもパーティメンバーがアデールを倒してくれることを信じているからだ。
それはチームとして完成されていることの証明であろう。
自分が迷宮に潜らなくなり、年月が剣を振るう敏捷性の翼を奪っていたとしても、先ほどの一撃は紛れもなく今の彼女にとって最高の一撃だった。それを避けることの出来るリーダー。そしてこのチーム。
「ごめんなさいね、試させてもらったの」
笑顔で剣を返却するアデール。
「レイラさんは、私たちの国にとって大事な人だからね」
「あぁ、なるほど」
カザルが少し呆然という。
レイラはリルガミンの王族なのだから当然彼女に死んでもらっては困るものも存在するだろう。だからそれとともに行動するものがどの程度の腕なのか、試す気持ちはよくわかるし、カザルはそれに対して怒りなどまったく感じない。
自分が武門の生まれであったがゆえに『あらゆるものを武器として使え。女に生まれたからには体すらも武器とせよ』という教えは頭の中に当然のこととして根付いていた。
アデールの斬撃に反応できたのもその外見に惑わされることがなかったのもひとえにそのころの教えの賜物である。
「合格ですかね?」
「ぎりぎり不合格、ね」
カザルの問いにアデールは簡単に切り返す。
「道具にこだわれ、とは言わないけどこの剣で守れるものはあまりにも少なすぎる」
カザルの剣はボルタックでも取り扱っていないような本当に安物の剣であった。
「あぁ……いや、子供のころから『道具にはこだわらないよう。その場にあるものを武器として使え』って育てられたもんで」
苦笑を浮かべるカザル。
「それにしてもあまりにもひどいわよ、これは……だから……」
アデールが地面に置いた皮袋に手を入れる。
「これを差し上げるわ」
その中から取り出した一振りの剣。
「……こりゃあ」
カザルはアデールから剣を受け取り、鞘から抜いてその剣の奇妙な形に唖然とする。
回転しそうな3本の刃。その刃はあくまで鋭く、こんなものが回転していたらと思うとぞっとする。
「カシナートの剣よ」
「これが……」
その愉快な形状に反比例するような恐ろしい威力を秘めた武具。ワードナの迷宮においては戦士にとっての最高の武器と呼ばれた逸品であった。
「こんなものを、どうして……」
「言ったでしょう? このレイラさんは大事な体ですから帰ってきてもらわないと困るの。あなたの武器がよくなれば彼女が生きられる確率は上がるでしょう?」
アデールがいたずらっぽく笑う。
「武器による生き残りの確率なんてもんは、ほんの微々たるもんだと思いますが……」
「あら、命にかかわる確率だもの。少しでも上げておくに越したことはないでしょう? ……だから、それはあなたを試すなんて無礼を働いた私の謝罪とでも思って受け取ってちょうだい」
カザルの苦笑交じりの発言にアデールは小首を傾げて答える。
「わかりました。いただいておきます」
カザルは笑って剣を受け取った。

アデールを見送り……そして一行は迷宮の中へと入る。
「レイラ……お前、怖い知り合いがいるなぁ」
「あの人……今でも私が頭が上がらない人よ」
カザルがグチのようにこぼしたセリフに、レイラは真顔でそう答えた。

奥の院。
ケイツがデュマピックを唱える。
「……第5層、なぁ」
シガンが目を細めて頭上に浮かぶ地図の地形を見た。
「ダバルプス呪いの穴の5層から奥の院の5層にきた、ってことは……対応してるんでしょうか?」
ケイツも自分が唱えたデュマピックの効果を見ながら呟く。
「まぁ、5層っていうくらいだから、この上に最低でも4つ階層があるってことね……この下に第6層があるなんて考えたくもないわ」
肩をすくめるファール。
「まぁまぁ、この上に4つの階層があったとしても敵の大ボスが一番上にいるとは限らないんだし?」
ポジティブシンキングのレイラ。
「とりあえず今はこの階層の探索を進めましょう」
正論のミルーダ。
確かにバランスの取れたいいパーティだ。誰が1人欠けても成り立ちはしない。
「よし、いこうか」
カザルは腰からカシナートの剣を引き抜き、宣言した。

【2006年12月27日03:36 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その29

「なにか調べるあてとかってあるんですか、レイラさん?」
「ないっ!」
不安そうに聞くケイツにレイラは上機嫌に答えた。答えたまま足を止めない。
どこへ歩いていこうというのか。


大物の船櫓はうら波競ふ猛將の忠臣


「あの……まともに情報収集とかしま……レイラさん?」
前を歩いていたレイラに注意しようとして……ケイツは急に立ち止まったレイラを見た。
どうやら前を見てるようだ。
私が後ろ歩いてるのにぃ……
若干憤慨しながらレイラの正面に回る。
「レイラさん、聞いてくだ……!」
ケイツはレイラの顔を見て発しようとした言葉を飲み込んだ。
レイラの顔に浮かんでいたのはあまりにも純粋な驚愕。
「ひ……姫将軍閣下?」
レイラの視線を追うケイツ。
1人の……50歳なかばくらいであろうか、上品そうな身なりの金髪の婦人。
レイラとケイツの視線に気づいたか、婦人が2人のほうを向き、恐らくレイラを見て、だろう……少し驚いた顔をしたあとにっこりと微笑んだ。
「お久しぶりですね……立ち話もなんだからどこかでお茶をしたいのだけど、どこかいい場所はあるかしら?」
2人に近づきながら笑いかけ、場所を聞くのに小首をかしげる婦人。
「は、はいっ! ご案内しますっ!」
レイラが大声で宣言した。ケイツが珍獣でも見たような顔をしてレイラを見た。

ケイツはテーブルについた婦人を観察する。
白い肌と青い目。どこかの貴族なのだろう、しかしどこまでも柔らかい雰囲気を持っていた。
「リルガミンは久しぶりだから迷ってしまっていたのよ。恥ずかしいわ」
困ったように微笑む婦人。レイラは石化したように背筋を伸ばしている。それが珍しいようにケイツは婦人とレイラを順番に眺めた。
「ひ、姫将軍閣下がなぜここにいらっしゃるのですか?」
「もう、いやだわ。レイラさん、ここは城塞ではありませんよ。誰に聞かれるともわかりませんし、その呼び方はやめてください……レイラさんだって姫殿下と呼ばれたくはないでしょう?」
いたずらっぽく笑い、そして婦人はケイツのほうを向いた。
「それよりこちらの方を紹介していただきたいわ」
「あ、はい! これはケイツです!」
即答するレイラ。相当緊張している。
「……でも『これ』はないですよねぇ」
明後日の方向を向きぼやくケイツ。
「ふふふ、レイラさんのお仲間の方なのね……私はアデレード・フォン・ショーンガウアー。長いでしょう? だからアデールって呼んで頂戴ね」
笑みを浮かべて握手を求める婦人。その名前にケイツは思わず婦人……アデールの顔を見上げた。
アデレード・フォン・ショーンガウアー。その名は魔術師として師についていたころ、歴史上の人物として教わっていた。
狂王トレボーの腹心の1人であり、一時期その狂王から不興をこうむりワードナの迷宮の探索を命じられ……後世の史家は『狂王は腹心中の腹心をわざと死地に置いたようにみせかけ、その後、彼女に接触した人間を逆賊として処断していったのであろう』と推測している……見事にワードナを打ち倒し魔よけを城塞に持ち帰って以降は、選定侯たちによるトレボー王暗殺、各地の反乱とその中で実父ヘンドリックの戦死……彼こそがトレボー暗殺の計画者であった、という説もある……など数々の試練を乗り越え、城塞を繁栄させ続けたロードの中のロード。
後世の史家に言わせれば『彼女はいつでも王位を僭称し、しかもそれが支持される位置にいた。しかし彼女はそれをまったくしなかった……これこそがアデレード・フォン・ショーンガウアーのもっとも素晴らしいところであるといえる』と絶賛されるリビングレジェンド。
城塞の守護者、猛き姫、金髪の美将軍……幾多の二つ名に含まれる賞賛と畏怖。
それが彼女、アデールだった。
「あ、は、はいっ! ケイツですっ!」
握手に差し出された手を両手で握る。
「ふふっ、よろしくね、ケイツさん」
あたふたするケイツ……あたふたしながら、それでもなんとか頭は働いていた。
「あ、で、でも……かっかー、じゃなくてアデール様は、なぜこちらに?」
アデールは城塞の人間。ここはリルガミン。
現在は休戦協定が結ばれ、表面的には友好的であるとはいえ潜在敵国であることにはかわりない。
「あぁ、昔のなじみと久しぶりに旧交を暖めにきたのだけれど……」
ほぅ、と外を見て溜め息をつくアデール。若いころはその美貌で幾人もの人間を虜にしたのだろう、と思えるほど色っぽい。
「……なかなかだめね。ここまできて彼にどんな顔をしてあえばいいのかわからなくなってしまうの」
30年ぶりだものね、と肩をすくめてひっそりと笑うアデール。
30年ぶり……彼女がワードナの迷宮に潜っていたころの時期であろう。恐らくはその戦友がこの街にいて、ということなのだろう……アデールは懐かしそうに目を細める。
「レイラさん、失礼を承知で言わせていただくわ」
アデールがそのままレイラに語りかける。
「いいお友達をたくさん作りなさい。そして貴重な体験をたくさんさせてもらいなさい……その経験はきっとあなたが生まれた街のためにもなるでしょう」
生まれた街のため……きっとトレボー王家の血を引くものとして立派な為政者になれ、といっているのだろう。レイラは苦笑を浮かべてアデールに答えた。
「……それはガラじゃないです。友達はたくさんできましたし、いい経験もさせていただいてますけどね」

【2006年12月26日00:27 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その他

外は大荒れ。雷も鳴り響いている。
それもそのはず、普段リルガミンでは秋から冬にかけては雨季。
だからみな、気にせずに騒いでいた。


Some of my little friends say there is no Santa Claus.


大荒れの天候の中、しかも夜だというのにギルガメシュの酒場では喧騒が絶えなかった。いや、今日はこのまま喧騒が絶えることはないだろう。
それもそのはず、今日はナタル! 聖人の聖誕祭である。
酒場にも『プレゼピウ』と呼ばれる聖人誕生を祝った模型が飾られ、ムードを盛り上げる。
日が変わったら教会に礼拝に出かける。それがナタルの光景、なのだが……

「ナタルってのぁ普通は家族と過ごすもんっしょー?」
ファールがエールをあおりながら言った。すでにかなり飲んでいる。
テーブルについているのはカザル、レイラ、ミルーダ、シガン、そしてファール。パーティの中ではケイツ以外の全員が揃っている。
「家族おらんの、キミらは?」
「おう、家を捨ててきたしな」
ファールの素朴ともいえる疑問にカザルは胸を張って答えた。武門の村の生まれでありながら、その村を捨ててこの街にやってきたカザルにとって帰る場所など本当に存在しなかった……もっとも武門の村では家族、という意識自体が希薄な上、ナタルを祝うという習慣すらなかったのだが。
「そーでもないっ」
シガンも胸を張って答える。彼の家族はここリルガミンに住んでおり会いにいこうと思えばいつでも会いにはいけるのだが……まぁ、彼の場合は妹の一件で家族の誰もを恨んでおり、下手に帰省した日には血の雨が降るかもしれないので仕方ない、といえば仕方ないのかもしれない。
「あたしゃ家、遠いからねぇ」
しみじみとレイラがエールを飲む。トレボー城塞王家の姫である彼女がなぜリルガミンで冒険者をしているのか、は誰も知らないことだが、どちらにしても距離が遠いことは確かであり、帰ろうと思ってもなかなか帰ることが出来るものではなかった。
3人の答えを聞き、ファールは『ふ~ん』という顔をしてから再びだらしない格好でエールを飲む。
「……で、あんたは?」
一口、二口エールを口に含んでからファールは妹に向き直った。
彼女たち姉妹の実家はリルガミン近郊であり帰省しようと思えばいつでも帰省できる距離にある。
またファールは家出した、という経緯があるものの妹にはそのような事実はない……ないはず、少なくとも妹の性格から考えて……ため彼女だけでも家に戻るのが筋のはずだった。
「あら、お姉さまだって私の家族ですわ。一緒にいてもおかしくないでしょう?」
ミルーダはにっこりと笑って切り返す。そこには邪気などかけらもなかった。姉妹の家には大勢の使用人がおりミルーダが帰らなくてもにぎやかであるはずだった。ならば姉の側にいたほうがいい、という判断なのであろう。
「あ、そいえばケイっちゃんは?」
レイラが気づいたように周りを見回す。
「だってあいつは弟たちいるじゃん。一緒にすごしてんじゃねぇかなぁ?」
シガンの答えに納得するレイラ。だが……
「すっ、すいません、遅れました」
聞きなれたケイツの声にパーティメンバー全員が振り返る。
そこに雨の雫を払いながらケイツが立っていた。
「外もずいぶん小降りになってますよ。ミサの時間帯には雨もあがってるかもしれませんね」
よいしょ、といいながら椅子に座るケイツ。
「あ、や……それはいいんだけど……なんであんたここにおんの? 弟さんたちは?」
呆然としながら尋ねるファール。
ケイツはその言葉に照れたように笑う。
「あ、弟たちはですね……あれ?」
振り返り間抜けな声を出す。
「みんな、こっちよ! お姉ちゃんの大事な仲間さんだから失礼しないようにね!」
酒場の入り口で固まっていた3人の子供に声をかけ……パーティメンバーの前に並ばせた。
「えっと、連れてきちゃいました」
照れたように笑う。
「おー、そうかそうか。にぎやかなのはいいことだな」
カザルが歓迎してみせる。
「みんな、自己紹介なさい」
「えっと……ボックです。いつもお姉ちゃんがお世話になってます」
お姉さんの顔になったケイツの言葉に促されるように3人の中ではもっとも年長なのであろう少年がまず口を開く。
「ミウーです」
「ミカーです」
次に口を開いたのは男女。すごくよく似ている。
「ミウーとミカーは双子なんです」
ケイツが解説した。
「お姉ちゃんにはお世話になってます。ミルーダです。よろしくお願いしますね」
ミルーダが目線を合わせるようにしゃがんで握手を求める。その手をおずおずと、まずボックが、そしてミウーとミカーも握り返す。
それを皮切りにメンバーのほうも自己紹介をはじめ、カザルはカウンターに向かって子供用の高い椅子を注文した。
その様子をほほえましそうに眺めていたケイツは不意に窓の外に目をやる。
「あ、雨あがりましたね」
「おー、やっぱナタルはそうじゃなきゃね!」
ファールがグラスをあげてみせた。
リルガミンではめったに雪が降ることはないが、だからといってこの聖なる夜の雰囲気が損なわれるわけではない。
「フェリスナタル!」
カザルが大声で祝杯を挙げた。

【2006年12月25日00:12 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
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