忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2024年12月03日14:46 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その39

スプリガン。
この巨人はそもそも古代の財宝を守護する妖精であり、数ある妖精族の中で最も攻撃的な存在として知られていた。
財宝の守り手として知られるこのモンスターがなぜこの迷宮に存在するのかはわからない。
だがこの巨人の存在がパーティにとって驚異的である事実は変えようがなかった。


亭子のみかといまはおりゐ給ひなんとするころ


シガンの首が通常ありえない方向に曲がっている。
冒険者にとって『死』は絶対的なものではないとはいえ忌避すべきものであることは間違いない。
もうこれ以上の犠牲者を出すことは出来ない……
カザルとファールが同時に斬りかかる。
ファールの攻撃は避けられ、カザルの攻撃は微々たるダメージのみを与えるに留まった。
しかし、それはフェイント。
カザルの肩を踏み台にしてレイラがスプリガンの目の高さまで跳躍する。
『取った』と誰もが確信した絶妙のタイミングだった。
レイラの攻撃は確かにスプリガンの眉間を捉えた……ように見えたし、レイラ自身もそう確信していただろう。
しかしスプリガンの急所からはそれていたようだ。必殺の攻撃はその効果をあらわさず、スプリガンは目の前まで跳躍したレイラをハエでも追うかのように右手を振って追い払う。
「……ッ!?」
その勢いのままレイラは壁に叩きつけられ、口から血を吐き出した。
ミルーダがすぐに回復呪文を唱え始めるが、その前にスプリガンが動き出していた。
「……」
無言で毒の息を吐き出すスプリガン。
その攻撃に体力を失っていたミルーダが倒れ、また他のパーティメンバーも深刻なダメージを受けていた。
しかしそれだけではすまない。
「ん……んん」
ファールがぼうっとする頭を振ってなんとか耐えようとするものの片膝をつく。その横でカザルが床に倒れた。
睡眠のブレス。パーティ全体を相手に灼熱のダメージを与えるとともに、昏睡状態に陥らせる……恐ろしい攻撃であった。
ファールは意識朦朧としており、カザルはすでに夢の中だ。レイラはすぐに治療が必要な状態であり、動くことは出来ないが、治療が出来る人間は2人とも命を失っていた。
……考えろ。
杖を構えながらケイツが前に出る。
……考えろ。
ケイツもすでに体力の大部分を失っており、まともに立っていられる状況ではない。だがそれでもなおこのパーティで一番傷が浅いのはケイツであった。
……考えろ。
スプリガンは今なら油断している。前衛を3人とも無力化し、前に出てきたのがこんなチビの魔導師なのだから。
……考えろ。
ケイツがぎゅっと杖を握り締める。スプリガンの口の端が笑ったように持ち上がった。
……考えろ。
今の自分の武器はレベル2、3、6の魔導師魔法。レベル6に属する攻撃魔法ラダルトは吹雪を巻き起こす魔法であるが、それ一撃であいつを倒すことが出来るだろうか。
……考えろ。
それはあまりにも確実性にかけるだろう。ならば同じくレベル6に属するロカラはどうか? 相手を地割れに巻き込み一瞬で全滅させる呪文である。
……考えろ。
地割れに? 空中に浮かんでいる敵をどうやって地割れに巻き込むというのだ。しかもレイラの改心の一撃さえ致命的な傷を与えられなかったではないか。
……考えろ。
致命的な傷とはなにか? ニンジャは生物であれば必ず体中に走っている『生命の線』とも呼ぶことが出来るものを読むことが出来るという。それを一瞬で絶ち、相手を殺すのがニンジャの一撃必殺攻撃の正体であった。
……考えろ。
では先ほどの攻撃はなぜ一撃にて葬れなかったのか? それ以前になぜスプリガンはこの場所に存在しているのか?
……考えろ。
スプリガンはもともと財宝の番人。この地に財宝がないとは言わないが、すぐに手に入れられる場所にあるわけではあるまい。なのにスプリガンはここでなにを守護しているのか?
……考えろ。
なぜレイラの攻撃は効果をあらわさなかったのか? なぜスプリガンはこの場所にいるのか?
……ゆっくりとケイツは呟く。
「お前が死人だからだ」
死人であれば『生命の線』は通常の生物とは違うところを走っているだろう。悪しき呪法の末であれ、『動くもの』には『生命の線』は走っているのだから、ただレイラの予想とは違う場所だったということなのだろう。
死人だからこそ、わざわざ生き返され財宝もない場所で番をすることを『誰か』に命じられるだろう。僧侶魔法のディ、カドルトではない邪悪な法には死者を使役する呪文もあると聞いている。
「碧叢叢高挿天……」
静かに詠唱を始めるケイツ。
自分の推論を疑うわけではない。
スプリガンがなにかの予感を嗅ぎ取ったかケイツに止めを刺そうと襲い掛かる。
だが……2歩足りない。
「……ジルワン」
ケイツの唇から力ある言葉が紡がれる。それは不死者を長しえの眠りにつかせる呪文。ケイツに残された6レベル魔法。
その言葉とともにスプリガンはざぁっと音を立て塵と化した。戦闘のあとはなにも残らず……
「はぁ……」
ケイツが精神力を使い果たした顔で尻餅をついた。

PR
【2007年01月05日12:54 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは大和物語。

さて2人目死亡ですね。
それはともかくケイツのいいとこ見てみたい、ですよ。
で、見せました。ナイスケイツ。
【2007年01月05日 12:56】| | 上杉霧音 #990b6cf975 [ 編集 ]
コメントの投稿













トラックバック
トラックバックURL

前ページ | ホーム | 次ページ

忍者ブログ [PR]