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【2024年04月26日08:13 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その5

ず、ず、ずぅぅぅん……
第6層で爆弾を爆発させることによって頭上から落盤の音が響いてくる。
「生き埋めにならんだろうな……?」
カザルが不安そうに天井を見るが、今のところその心配はなさそうだ。
第5層にあった、あのもろい壁も崩れているかもしれない。その奥になにがあるのかは知れたものではないのだが。
「このやり方、スマートじゃないよね」
ファールが肩をすくめて第5層への階段に向かって歩き出した。


月にはかられて、夜深く起きにけるも


予想通りというべきか、意外にもというべきか、もしくは『なぜか』と疑問符でも発するべきか……
第6層へ向かうもうひとつの下り階段は第5層、もろい壁の向こう側に存在していた。

そして1週間、一行は第6層の探索を開始していた。

「あぁッ! 朽ち果てやがれッ!」
カザルの全体重をかけた渾身の上段斬りを受けることが出来ず、キメラが不気味な悲鳴を上げ血煙の中へ倒れ伏す。すばやく仲間のフォローに入ろうとするが、仲間たちもすでにおのおのの目の前の敵を打ち倒したところだった。
「……ふぅ、この階層のやつらはなかなか手ごわいな」
カザルは剣を鞘に納めながら息をついた。
「まぁ、もっかしたらここが終着点かもしれんからね。ある程度手ごわくないと拍子抜けしちゃうってばさ」
レイラがニヤニヤ笑いながらいう。
「……手ごわいよりも楽なほうがいいですよ」
ケイツが小さな声で呟くが案の定、誰も聞いていない。
ケイツが泣きそうな顔をするのもいつもどおり。
いつもどおり、であった。ここまでは……
「よし、じゃあ次の玄室にいこうか」
カザルの声でメンバーが立ち上がる。

扉の前……
「……じゃあいつもどおり。ユーウェイが扉を蹴り開けた瞬間に俺、ファール、レイラが室内に侵入する。ユーウェイはそのまま姿を消しつつ奇襲を狙って……シガンとケイツはモンスターを確認してから適宜行動だ。マジックユーザーが大量にいたときは2人ともカティノから頼むぞ」
カザルが玄室の中にいるであろうモンスターたちに気取られないように小声で作戦を伝え、メンバーはそれに頷く。
「じゃあいくぞッ!」
カザルの声とともに蹴り開けられる扉。
しかしその中からパーティに襲い掛かったのはモンスターではなく目も開けていられないほどの灼熱の熱風であった。
「ティルトウェイト、ですって……?」
ケイツが熱波の波動から使用された呪文を割り出す。
「う……ッ!?」
ファールが目を灼かれないように腕をあげてかばいながら中の様子を探ろうとする。
やがて長く続いた熱波がようやくにしておさまり……視界が晴れていく。そこにいたのは……
「ここのモンスターは僕たちがいただいたよ」
赤く染まった視界に立つ青い鎧を身につけた金髪の優男、マリク。
そしてそのパーティたち。
カザルたち善戒律のパーティと行動を共にすることすらないが冒険者として同じ迷宮に潜っている以上、そこで鉢合わせるというのもありえる話であった……珍しいことであるのは事実だが。
「連戦で嫌になるものだね?」
マリクは微笑すら浮かべつつ、恐らくこの階層で拾ったのであろうサーベルを鞘に納める。
「確かにな……成果はあがってるか?」
「いや、まったくだね。強制テレポーターのおかげで帰還が楽だ、ってくらいかな。そっちはどうだい?」
カザルとマリク。リーダー同士が短い会話で情報交換する。確かにこの第6層ではいたる場所にリルガミンへ強制的に連れ戻されるテレポーターが配置されていた。
「こっちも似たようなもんさ」
苦笑しながらカザルは玄室に集ったメンツを眺めた。
「シガン~。童貞捨てた? 童貞」
「ぶっ! なにいってんすかぁッ!」
ハロゥは相変わらずの薄着に軽くローブを肩から羽織っただけの姿でシガンの髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回しながらからかっている。エロガキとエロ神官では勝負にもなるまい。
奥でローブについた埃を片手で払っている、耳より少し下あたりで明るい茶色の髪を切りそろえたエルフの少女はディーナ。先ほどティルトウェイトを放ったのも彼女であろう。すべての魔術師魔法を使いこなす高位の魔術師であり……
……にこっ。
カザルの視線に気づいたか顔を上げてにっこりと微笑むディーナ。しかしその瞳の奥には血に飢えた猛獣と同じ色が見え隠れしている。自分の一見な天真さを武器とする、恐るべき少女であった。
「ふぁ、ふぁーな、ざん」
不明瞭な発音でファーナに近づく大男。ドルツ。ユーウェイと同じほどの逞しい体を持つサムライ……しかしそれ以上に目を見張るのは彼の外見のあまりにも醜いところであろう。
顔中を腫れ物が覆い、じくじくと膿を吐き出している。
「ご、ごれ……」
しかし彼の大きな手に握られていたのは可憐な花。それをドルツはファーナに手渡そうとしていた。
「私に? 嬉しい。ありがとう!」
素直に受け取るファーナにドルツは醜い顔で、それでも精一杯の笑顔を浮かべる。彼にとって、リルガミンにやってきてから自分を汚物扱いしないでくれたのは彼女が初めてだった。
「……もうよかろう。とっとと先に進むぞ」
今までずっとメンバーの一挙手一投足を逃さず観察していたくせに、タイミングを見計らったようにやや青みがかった黒髪の僧衣の男が口を開く。
高位の為政官の家系に生まれ、その才能で将来の大臣位を嘱望されながらも、あっさりとその地位を捨て、後の世に邪教と呼ばれ弾圧されることになる牙の教団に入信し司祭へと上り詰めた男、ラグラノール。
その言の葉はすべて計算で埋め尽くされている。彼の言葉はこれ以上自分たちから情報を引き出す価値がないと見切ってのことだろう、とカザルは納得する。
「そうだな。いこうか」
マリクが手を上げると、そのパーティは次の部屋へ向かい始める……ドルツだけはファーナともっと話したいようではあったが。
そして……
最後に40歳くらいであろう、人間の小男がレイラに小声で話しかける。
灰色の髪はもはや薄く頭頂部がやばいことになっている、一見して貧相な風采の男である……が、この男がレイラがマリクのパーティから抜けたあとに、そのあとを継いだニンジャ、ゼムンであった。
「追いかけなくていいの?」
「追いかけますよ。それよりも、レイラさん……右からの斬撃に気をつけてください。嫌なビジョンが見えるので」
ゼムンはそれだけいうとマリクを追って迷宮の闇に消えていった。
レイラは右眉を上げ、微妙な表情をする。

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【2006年12月01日14:59 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは堤中納言物語。
まだ有名、な古典、ですかね? ね?

さて、今回で悪戒律PTも登場したんでご紹介。

マリク ♂ 22歳 Hu-e-Fig
ドルツ ♂ 25歳 Hu-n-Sam
ゼムン ♂ 38歳 Hu-e-Nin
ハロゥ ♀ 19歳 Hu-e-Pri
ラグラノール ♂ 23歳 Hu-e-Bis
ディーナ ♀ 14歳 El-e-Mag
【2006年12月01日 15:07】| | 上杉霧音 #984cf59873 [ 編集 ]
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