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【2024年05月17日16:29 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その23

正装をしたパーティメンバーは王宮を訪れていた。
謁見の間にリルガミンの中枢ともいえる群臣が集っている。
その中に見知った顔を見つけてシガンは笑った。
「お、ちょっといってくる」
「ういよ~」
適当な返事を返すレイラにシガンは手を挙げて、そして一人の中年の男、クリスタンテ司教……自分の父親の前に立った。彼はシガンを見て、瞬間嫌悪の表情を浮かべるがなんとかそれを押し殺す。
シガンはなにも言わずに彼……クリスタンテ司教……自分の父親を殴り飛ばした。
群臣がざわめく。
「静まれ。アイラス女王のおなりである」
衛士が告げた。
ざわめきがおさまった。


いまは、そのかみのことに侍べし


「ただいま~」
「ういよ~」
女王が静々と玉座に上ろうとする中、シガンがメンバーのところに戻ってくる。レイラは適当な返事をした。
そして女王は厳かに告げた。
「我、リルガミンの統治者、女王アイラス。汝らが示した勇気を称えんがため勇者の印を与えん」
人間、エルフ、ドワーフ、ノーム、ホビットの長老でリルガミンの実際の行政を取り仕切っている行政機関、五賢者のうちドワーフとノームの長老の手より階級章が下賜される。
ノームの長老はリーダー、カザルの前で一度立ち止まりカザルにだけ聞こえるように小声を出した。
「日記の内容は現在、我々が解析中である、が……恐らくもう一仕事してもらうことになるであろう。現在リルガミンでそなたらとともに実力が図抜けておるマリクらにも同じことを頼むつもりではあるが、この件は他言無用のこと。むやみに人心を惑わすのは本意ではない」
カザルは長老の言葉に目だけで頷く。
「貴方たちは命がけで戦ったのです。その結果、杖も輝きを取り戻しました。これで民も安心いたしましょう……貴方たちの行動によって民は落ち着きを取り戻したのです。そのことを誇りに思いなさい」
少し悲しげな表情の女王……恐らく五賢者から日記の内容をうすうす聞かされているのだろう。しかし群臣の前でそれをおくびに出すこともない。
いまだ確定しない不安によってむやみに民心を惑わすことをしない……立派な為政者であるといえた。
「これにて謁見は終わりぬ」
「……ぁぁっ」
女王の言葉にファールが小さく呻く。まだ『彩の王』に未練があるのだ。
しかしなんとか理性を押さえつけ黙って平伏する。
謁見は終わった。

翌日……いつもタイロッサムを打倒する前、いつもパーティが集合していた朝の時間に集めるようにカザルがパーティに告げた。

昨日までは準備する冒険者の姿がちらほらと見られたダバルプス呪いの穴の入り口。
今日からは人っ子一人見られないダバルプス呪いの穴の入り口。
「……んにゃぁ~……ねみぃ」
立ったままうつらうつらとしているファールを除いてはみな緊張した表情を浮かべていた。
ファールはいつものことなのでみな気にしていない。迷宮に入れば目を覚ますし。
「さて……ここからの冒険は王宮からの正式な依頼じゃない。一応賢者会議のポケットからある程度の報酬は出るようだが……恐らく危険に見合った金額じゃないと思う。これ以上進むのを躊躇うものはすぐに帰ってくれ。俺はそれを非難しない」
レイラは口元に笑みを浮かべて頷く。
シガンは腕まくりをして気合を入れる。
ミルーダは静かに微笑む。
ケイツは2、3度首を縦に振る。
ファールは……
……寝ていた。
「ぅ~……」
こっくりこっくりと舟をこいでいる。立ったまま。
「……お姉さまも頷いていらっしゃいます」
ミルーダが仕方なくカザルに伝えた。確かに一見頷いているように見えなくもない。
「……緊張感ねぇなぁ」
カザルががっかりしたように呟いた。

第6層、タイロッサムの部屋。
「さぁって……日記に奥の院とか書いてあったし、あのお爺ちゃんも部屋の奥に地獄があるとかいってたし。じゃあ部屋の奥の扉からどっかに抜けられるってことでしょ」
室内でファールが明るく言った。
「奥、っつったら……あれか」
シガンがタイロッサムが座っていた小さな机の横の扉を指さす。
パーティは警戒しながら奥の扉を開けた。
扉の奥はT字路になっているようで、突き当りに看板がある。
「えっと……さあ、左に進むがよい。知恵の泉を求めるのだ。まさか右には行くまいな……? だって?」
看板の左右には闇が広がっていて先は見渡せそうにない。
「左、か」
「ま、待ってください」
呟くカザルにケイツが珍しく慌てた声を出す。珍しいのは慌てた声を出すことではなくみなが発言を聞いていることなのだが。
「あの日記でもあったようにタイロッサムは……ぁー……タイロッサム様はぼかした書き方をなさっておられます。つまりここは逆に考え、右が正解なんじゃないでしょうか」
「なるほど!」
ケイツの言葉に正論を感じたカザルは右に足を踏み出し……

リルガミンへの強制テレポーターだった。

「……ケイっちゃんってたまにいい発言するとへたれるね」
「はうう」
レイラの言葉にケイツは胃の辺りを押さえた。

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【2006年12月19日15:10 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その22

「……マジ疲れた」
その場にへたり込もうとするレイラは横から突き飛ばされた。
「うわぁっ!」
「楽譜っ! 楽譜は無事っ!?」
ファールだった。


はるがすみたつやおそきと山がはの岩間をくくるおと聞こゆなり


「……まったく」
苦笑を浮かべながら細い目をさらに細くして机の上の本を探すファール。
レイラは傍らに落ちていた杖を拾い上げ、ケイツに手渡した。
「ほい、宝珠」
「あ、はい」
ケイツは宝珠を受け取る前にトモエが放り投げたカタナを拾い上げ……びぐんっ、っと震えた。
「な、なんですか、これっ!?」
カタナを取り落とし、拾い上げた手を押さえながら取り乱す。
「どうした?」
カザルが心配そうにケイツの肩に手を置いた。
「む……ムラマサ」
ケイツは声を振り絞ってそのカタナの名を告げた。
はるか東の国で打たれたという妖刀。別名血を啜る刀。
かつて某国の君主は二代続けてこの刀によって殺された、であるとか、この刀には意思が存在しており刀に認められぬものは精神に異常をきたす、であるなど、まことしやかな伝説が一人歩きする伝説の武具であった。
幾多の刀匠がムラマサに挑み、そして挫折していったことだろう。その伝説が今、目の前にあった。
「あっそぉ。そこ置いといて」
だが当のサムライは『彩の王』を探すので一生懸命だった。
「……こっちよりそっちが大事なんですね」
ケイツが切なそうに呟いた。

結局この部屋でパーティが得たものはムラマサ、宝珠……
「にへ~……」
至福の表情のファールがその手に開いている楽譜。そして……
「……日記?」
シガンが手に取った書物を見て呟く。
タイロッサムが記したであろう日記……
「……どうせ街に帰ったら、これ提出しなきゃいけないだろうし。だったらここで俺らが読んどくべきかなぁ」
呟いてページを捲る。

ひたすら簡素な内容であった。
毎日に変化がまったくない。
しかし……
「……誰だこりゃ?」
疑問の声を上げるシガンの手元の日記をミルーダとケイツも覗き込んだ。
「……あの方?」

あの方が奥の院に旅立たれてからどれほどの月日が経ったことだろう。
今はよい。だが彼の地より彼らがやってきてからでは遅すぎる。

「……これだけですか?」
「……これだけだな」
尋ねるミルーダに答えるシガン。
「あの方が誰なのか、とかまったく書いてないじゃないですか。文章として三流ですよ、これ」
厳しいダメ出しだった。
「いあ、ほら……日記だから読ませるもんじゃないんだし」
シガンの反論も弱い。
「現に今、私たちが読んでるじゃないですか。タイロッサムさんがもし私たちを試していたのだとすれば当然これを読まれる可能性があるってことを考えたはずです。その上でこの文章というのは……」
「……えっと……はい」
言葉をさらに連ねて文章を貶すミルーダに、もう1人、黙って日記を読んでいたケイツが手を挙げた。
「はい、ケイツ」
「……えっと、ここに詳しく書くことが出来なかった、という説は?」
ケイツの言葉にきょとんとした顔をする2人。
「というと?」
「例えばここに記してあったらいけない名前」
聞き返したシガンにケイツは例えをする。
「書物は……今、私たちが見ているってだけじゃなくてこの先、何千年も残りますから。自分たちの恥になるようなことって書けないじゃないですか」
「恥? 恥っつってもなぁ……」
言いかけてシガンの顔から血の気が引いた。
「あ、う……嘘でしょう」
ミルーダも口元を押さえて呻くように言う。
恥。この場合、最も後世に残したくないことはなにか?
それは王家のスキャンダル。
ダバルプスはここリルガミンで魔王と呼ばれたとはいえ、マルグダ、アラビクという勇者を生んだ。
それにダバルプスも王族の出身とはいえ傍流でしかない。
さて現リルガミン女王には姉がおり……
……今は行方不明になっている。
「……まだわかんないです。もしかしたらミルーダさんが言うようにあのタイロッサムが文章へっぽこだ、って可能性だって残ってないわけじゃないですから。ただ……ひとつの可能性です」
3人は沈痛な面持ちで日記から目をそらした。

「おう、あとでお前らの推測は聞かせてもらう……として、だ。とりあえずなんか一刻の猶予もないようだしいったん地上に帰ろうと思うんだが」
カザルは青ざめた3人に声をかけてからパーティの帰還を宣言する。
「よ、っと……宝珠と日記と……」
転がったままになっていた宝珠の杖を拾い上げ……
「あ、その楽譜も返すことになるからな」
軽い口調でファールに語りかける。
「え? え? え?」
取り乱して楽譜を落としかけるファール。
「当たり前だろう。それ、タイロッサムが勝手に持ち出したもんなんだろ? さっきの話聞くと」
「あ……そ、そうね。返すのが当たり前ね。うん。あったりまえじゃん。あははははは」
ファールはガタガタと震えながら嫌な汗を流した。
精一杯の理性というやつである。

【2006年12月18日15:04 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その21

ゆっくり崩れ落ちるタイロッサムの体を、そこから命を奪った当人であるファールは呆然と見送った。
そのとき、それまで微動だにせず、部屋の片隅で戦いを見守っていたトモエが動いた。


實にや安樂世界より、今此娑婆に示現し


トモエは静かに前へ進み、タイロッサムの死体の前で立ち尽くしていたファールの体をパーティのほうにゆっくりと押しやり、そしてタイロッサムの体の横にしゃがみこむと今まで浮かべてすらいなかった優しい微笑を浮かべた。
「タイロッサム殿……ご立派な最期であった」
……そしてトモエはゆっくりと、今ではすでにもの言わぬタイロッサムの顔をいとおしげに抱え……
……静かにキスをした。

どれほどの時間が流れたのだろう。
トモエはタイロッサムから離れるともう一度いとおしげにタイロッサムの頬を撫でた。
「……おさらば」
そして立ち上がり、パーティのほうを向く。その姿にパーティメンバーは息を呑んだ。
顔は薄い微笑をたたえている。しかしその笑顔を形作った目からは血が流れていた。
すでに回復が終わりあばらあたりをさするカザル。
呪文を唱え終わったシガン。
恐慌から回復した3人、そしてタイロッサムを殺したファールのほうを血涙を流しながらゆっくりと見回すトモエ。
「……まずはタイロッサム殿の願いをかなえた汝らに感謝を」
笑みをたたえながらゆっくりと言葉を吐き出すトモエ。
「そして愛する男を奪われた1人の女として汝らに報復を」
トモエはゆっくりとその腰のカタナを抜く。小さな明かりに反射し銀色に光った。
メンバーはトモエの悲しみと笑みの意味を理解する。
タイロッサムがこの迷宮でなにをしていたのかはわからない。
だがなんらかの目的があってここに篭っていたのだとすれば……地上で女王の教師として力を振るった稀代の魔導師。それがこんな穴倉の小さな部屋に閉じこもり自分を殺すものの存在だけをずっと待っていたのだとすれば……
トモエはずっとその傍らに侍り、タイロッサムの思想を理解し、彼が殺されることを望みながら、それでも彼を愛してしまったがゆえにその状況を忌避する矛盾を抱えていたのだとすれば……
「愛っすかぁ……じゃあ受けないわけにはいかないねぇ。ここはトドメさした私と1対1で……」
ファールが一歩前に出ようとするが後ろから肩をつかまれ、後ろに引き戻される。
「いやぁ、バルや。ここはいっぺん殺されてる私に再戦のチャンス与えるほうが順当だろ」
細い目に笑みを浮かべてレイラが前へ出る。
ファールは横からそのレイラを少し不機嫌そうに睨みつけ……
「死んだら指さして笑ってやるからね。あと私ぁ、ファールだ」
肩をすくめて後ろに下がった。
レイラは装備を一つ一つ確かめるように脱いでいく。
その間、トモエは微動だにしない。
そして最期の靴を脱ぎ終わったレイラが立ち上がり……
「第67代トモエ、シズマ・”ムーンブレイカー”・トウドウ、参る」
その名乗りにレイラは顔を歪める。
「ぁぁぁ……なるほど、名乗るのが普通かぁ。そうかぁ……そりゃそうだよねぇ……」
頬をかき……
「レイラ・アルバレス・デ・トレボー。参ります」
そして。跳んだ。

「トレボォって……あのトレボー?」
レイラの名乗りを聞き、唖然としたファールが呟く。自分の家も名家ではあるが家格という意味で天と地ほどの開きがある。
リルガミンの隣国、トレボー城塞都市。
100年以上も前に狂王と呼ばれた男によって異常なほど勢力を拡大したこの国はかつてはリルガミンにとってもっとも危険な隣国であるといえたが現在では同盟相手として両国の交易も盛んとなっている。
「おう、あのトレボーだ」
こともなげにカザルがファールに答える。
「パーティ入りするときに本人から聞いてたしな。あとあんま特別扱いされたくないから黙っててくれって」
「ふぇ~……特別扱いとかしようがないのに」
身も蓋もないファールの言葉にカザルは苦笑を浮かべた。

トモエ……シズマのカタナがレイラを襲う。紙一重でなんとか避わすものの、その着地点を狙い鋭い突き。それを避わしても……
戦いのイニシアチブは完全にシズマが握っていた。
レイラは致命傷こそ受けてはいないものの、細かい切り傷は熱を帯び、やがてその神速を奪うことは確実であった。そうなる前に……
レイラは打開策を探る。

焦れているのはシズマも同じだった。
ニンジャには急所を見出す能力が自然と備わっている。どれだけ優位に戦いを進めていたとしても一瞬後に地に伏せるのは自分である可能性もある。一瞬の逆転……ニンジャというのはまったく厄介な敵であった。

す……
シズマのカタナが大上段に構えられる。
明らかな隙。だが……
「レイラよ、決着をつけようぞ」
もっとも攻撃力の高い構えよりの一撃により一瞬で勝負を決する。
レイラが急所に触れるほうが早いか、シズマがカタナを振り下ろすほうが早いか……

レイラが動いた。
シズマが動いた。

レイラの死を呼ぶ腕が一瞬早くシズマの急所をえぐる。

シズマは倒れなかった。なにかに寄りかかるでもなく、ただそこに立っていた。しかし……
「なんじゃ、最後の一撃は……最後まで必殺技を取っておくとは余裕ではないか……」
呆れたように呟くトモエ。
その顔には濃い死相が現れ、もはやいかなる魔法の力を用いたとしても手の施しようがないことを伺わせる。
「そこなサムライよ」
シズマが、もはやほとんど視力もないであろう目をファールの方向に向けた。
「もってゆくがよい。形見分けじゃ」
最後の力を振り絞って自分が今まで振るっていたカタナを放り……息を吐くように呟く。
「さぁ、汝らは奥の部屋へ……そして……」
トモエの命の砂の最後の一粒が零れ落ちた。

【2006年12月17日18:06 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その20

タイロッサムが杖を構え、何事かを詠唱する。
「待て! 俺たちがここにきたことに礼を言うほどのあんたがなぜ戦おうとする!? その宝玉が再び杖に光をともさせるものであればそれをただ返してくれればいい! 女王はきっとあんたを許すだろう!」
カザルの言葉。
「……わしもわしなりにリルガミンを愛しておる。だがもはや言葉のみで解決するには時間がかかりすぎた……女王陛下がわしを許したとしてもわしはわしを許さぬ」
詠唱を一度切り、タイロッサムが静かに呟く。


東路の道のはてよりも、なほ奧つかたに生ひ出たる人


タイロッサムの詠唱が終わり、何者かが召還される。
小柄で色とりどりの服を身にまとった男……
その姿を見た瞬間、ケイツが息を呑んだ。
道化師のような服装……だがよく見るとその服は血や得体の知れないもので薄汚れている。そしてなによりもその顔。
人間ではない。獣のような毛の生えたその顔に薄い笑みを張り付かせている。
その目に宿るのは限りない獣性……
「フラック……!」
地獄の道化師と呼ばれるこのモンスターの正体は明らかになっていない。ワードナの迷宮にも存在していたと文献には載っているが、それ以外はなにもわからない、謎のモンスターである。
「なぜあんたが戦いを望むんだ!」
さらに説得をしようとするカザル。
「……わし程度を殺すことすら出来ずリルガミンの勇者になろうとは片腹痛い話よ。勇者よ。真にその名に相応しいのであれば実力を持ってそれを証明してみせよ!」
タイロッサムが手を横に広げると同時にフラックが息を大きく吐き出した。
吹雪のブレス。
あたりの気温が下がり、吐いた息が凍りつくほどの息吹に体温が奪われていく。
「く、ぉぉ……」
誰も死にはしなかったようだが連続で食らってはひとたまりもない。
ケイツは次のブレス対策にコルツ……魔法障壁の詠唱をはじめ、またシガンとミルーダは回復魔法を唱えだす。またファールもなにかの呪文の詠唱を始めたようだ。
だったら……
カザルはレイラに視線を送る。
レイラもそれに気づき、小さく頷いた。
「おぉっ!」
かじかむ体を無理に動かし、カザルはフラックに剣を繰り出す。その意図を理解したようにレイラも横から大きく剣を振りかぶった。
しかし……
ガキーンッ!
硬質音を立ててぶつかり合ったのはカザルとレイラの剣。
フラックはどのように逃れたものかすでに数歩後ろの位置に立っていた。
「……」
不気味な面相に嫌悪感を誘う笑みを浮かべるフラック。
「ちっ」
舌打ちをして再び剣を構えるカザルとレイラ。
そのとき後衛の呪文詠唱が終わり、体力に乏しいレイラとミルーダの回復が行われたようだ。また不可視の障壁がパーティ全体を覆う感覚……ケイツのコルツも問題なく効果を発揮したらしい。
そして……
「春眠不覚暁、処処聞啼鳥……カティノっ!」
ファールの力ある言葉とともに崩れ落ちるフラック。
眠りの呪文が効果を発揮し、フラックを一瞬で眠りに落ちさせたのだ。
「……うわ、効いちゃった」
自分でも驚いたように呟くファール。
崩れ落ちようとするモンスターをそのまま見送る前衛ではない。
レイラは右から、カザルは左から剣を繰り出し、その息のあった攻撃によりフラックは息絶えた。
「さぁ、あとはあんただけだ……もう戦う意味はないだろ……ッ!」
カザルがタイロッサムのほうを向こうとし、魔法によって振り下ろされた拳によって吹き飛ばされる。
神の拳とも呼ばれるツザリクの魔法。ケイツの張った魔法障壁をやすやすと破るその一撃はカザルの体を吹き飛ばす。
「ぐあぁっ!」
壁に叩きつけられ口から血を溢れさせるカザル。骨が内臓を傷つけたらしい……すぐにシガンが回復魔法の詠唱を始める。
「……このっ!」
カザルを一蹴し、一瞬動揺を浮かべるレイラだったがすぐに立ち直りタイロッサムに剣を繰り出そうとする。だがタイロッサムの呪文のほうが早い。
「去年落一牙、今年落一齒……マモーリス」
パーティメンバーの動きが遅くなる感触……そして……
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「……あ、ぁぁ」
レイラとケイツ、そしてミルーダを激しい恐怖が襲う。一瞬の間を作ることで間合いを支配する……やはりタイロッサムは稀代の術者であった。
「……どうした。その程度ではこのわしを殺すことなど出来んぞ」
カザルは重傷を負い、シガンはその治療に追われている。そしてレイラたち3人は激しい恐慌に陥っていた。
「ほら、うちらって優しすぎるからね」
ちら、とシガンの様子を横目で見ながら軽口を叩くファール。しかしタイロッサムはその時間稼ぎに付き合うことをしない。
「わしを殺さずに……その覚悟なしにこの先に進むことは出来ぬ」
「この先……にはなにがあるの?」
タイロッサムの言葉に問いを返すファール。
「地獄、じゃよ」
そして机に向けて手をかざすタイロッサム。
「わしを殺し、覚悟を見せるのじゃ。さもなくば……啼鵑催去又声声、丹青旧誓相如札……」
そして小声で詠唱を始めるタイロッサム。しかしこの呪文は……ラハリト? 炎を敵に浴びせかける……あまりにも初歩の魔法であるといえる。これでは傷ついているとはいえパーティの誰の命を失わせることは出来ないだろう。また呪文を向ける方向も机……机?
机の上にはタイロッサムの蔵書が、蔵書が、蔵書が……

彩の王が!

気づいたときにはファールの刀がタイロッサムの腹を貫いていた。
タイロッサムは薄く笑みを浮かべ……
「ありがとう」
それが稀代の大魔導師の最期の言葉だった。

【2006年12月16日19:04 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その19

トモエが導いたドアの先。
パーティの眼前に小部屋が現れる。
その奥に小さな明かりが灯り……老人といっても差し支えない男性が机に向かっていた。
「タイロッサム殿、おつれしました」
そのトモエの言葉とともに老人が振り返り……


身はたとひ武蔵の野辺に朽ぬとも留置まし大和魂


「ご苦労様です、トモエ殿」
その老人は薄く微笑み、トモエはそれに対し一礼する。
人間族にしては大柄な体躯である。
瀟洒なローブに身を包み、長く白いひげを持った男。
タイロッサム……
彼はゆっくりと机に立てかけていた杖を握って立ち上がった。
「ようこそ、冒険者たちよ」
その柔和な声にパーティは困惑する。これが世紀の悪人と呼ばれる人間なのか……
だが……
「てめぇかぁーッ!」
1人だけ怒声を張り上げ、老人に突進する……シガン。
「待て!」
しかしカザルに羽交い絞めにされ止らざるを得ない。
「てめぇの……てめぇのせいで妹が! くそっ! タイロッサム……ぶち殺してやる!」
普段は女性のことを考えながら鼻の下を伸ばす少年のいきなりの変貌にパーティメンバーは戸惑いを隠せない。
「落ち着け! なにがあったか知らんが冷静さを失ってもろくなこたぁねぇ!」
カザルがシガンを説得しようとするが、シガンは憤怒の形相のまま前へ進もうとする。
「てめぇがっ! てめぇさえいなければ妹は死なずにすんだんだっ!」
シガンのその絶叫。タイロッサムは少し考えるそぶりを見せる。
「妹御……はて……」
「忘れたとは言わせねぇ!」
カザルが押さえていなければシガンはそのままタイロッサムに突っ込んでいくだろう。
「……その顔……なるほど。貴公はクリスタンテ家の方か。であれば妹御は……」
納得したように呟くタイロッサム。そしてパーティメンバーの誰もが予期せぬ行動を取った。

「すまぬことをした」
タイロッサムは深々と頭を下げる。

毒気を抜かれたような顔になるシガン。
タイロッサムはなおも語る。
「あの子はとてもよくわしに尽くしてくれた。ゆえにわし自身に甘えがあったのであろう……彼女であればわしがいなくてもなんとかしてくれる、という。彼女が処刑された、ということは聞き知っておる。それはすべてわしの怠慢から来ること……彼女を生かす道を考えずに行動を起こしたわしの責任である」
そして再び柔和な顔を上げた。
その顔は……
深い悲しみに彩られ、シガンはそれゆえに肩を落とした。
そしてタイロッサムは今度はパーティ全体を見回した。
「勇者たちよ、よければ貴公らがこの場へ来た理由をきかせてはくれまいか」
カザルがシガンを開放する。シガンはうなだれたまま動こうとはしないが。
そしてそのまま一歩前へ出た。
「勇者と呼ばれるため……俺がかつて愛した女と結婚するための条件でね。ま、今じゃその意味は失われてるんだが」
カザルが皮肉げに眉を歪めながら言う。
「勇者……貴公の横にはそれだけの仲間がおるではないか。勇者の名に意味はなくとも、ここまできたことに意味がないとはわしは思わぬ」
タイロッサムは小さく微笑む。
次に前へ出たのはファール。
「貴方がこの迷宮へと持ち去った楽譜をこの手で読むため。私はそのために家を出る羽目になったんでね……こんなご時世になにが楽譜だ、とか言われると非常に困るんだけど、それでも私にとっちゃなにより大事なものだからね」
ファールは肩をすくめながら語る。
「楽譜……『彩の王』」
タイロッサムが小さく頷き……
「なるほど……貴公にこの場へ来ていただくための釣り餌、であったか……かの楽譜を持っていかねばならぬ、との啓示を得ていたのだが、それは当たっていたのだな」
満足そうに頷く。
次に前へ出たのはケイツ。
「私の師匠の名はティンダ・レイ。私は彼の方に命を救われ……どれだけ感謝してもしたりないほどの恩を受けました。そして今、あの方は貴方の叛逆によって苦しんでおられます……私はあの方の心労を和らげるためにここにきました」
いつもの小声ではなく堂々と宣言する。
「なるほど。あやつの弟子であるか……よい弟子を持ったな。帰ってあれに伝えてほしい。『わしにはこの手しか思いつくことが出来なかった』と。あれにはもうわしが教えることなどない」
静かに語るタイロッサム。その口調には弟子に対する愛情が溢れていた。
ミルーダが続いて前に出る。
「よき司祭となるために……リルガミンの災厄を見過ごしていては司祭失格ですから」
ミルーダは静かに語る。
「なるほど。昨今では腐りきった神官が闊歩する中、貴公は義憤のみでここへ立ってくれたわけか。ありがたいことじゃ……じゃが……」
タイロッサムの目がミルーダを射抜く。ミルーダはぶるっと震えた。
「……貴公もわかっておるようじゃの。であれば言うことはない」
そして最後にレイラが前へ出る。
「私が私であるために」
きっぱりと宣言する。
「ははっ……なるほど」
タイロッサムは楽しげに笑い……
「貴公らの話はよくわかった……貴公らのようなものが……各々に事情があるとはいえ結果的に……リルガミンのためにここへ集ってくれたことに対してまずは感謝を」
頭を下げるタイロッサム。そして……
「この杖の先にあるはリルガミンの宝珠。これさえあればニルダの杖は再び輝きを取り戻すであろう……さぁ、勇者よ! わしを殺し、この宝珠を取り戻すがよい!」

【2006年12月15日14:59 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
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