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【2024年04月19日20:51 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その26

「うむぅ~ぅ~?」
レイラが不機嫌そうに辺りを見回す。
「どうしたん? 姫ちゃん」
「ちゃんってゆうな!」
ファールの発言にレイラが噛み付いた。
「……姫のほうはいいんだな」
微妙な表情でカザルが呟く。


千里に旅立て、路糧をつゝまず


奥の院の回廊。
「なぁんか……見られてる気がするんだよねぇ」
首筋辺りを撫でながらレイラがぼやく。その言葉にカザルは肩をすくめた。
「そりゃ見られてるって当たり前だろ。俺には魔法のことはわからんが戦いで最も重視すべきは敵の情報だ。世界を繋げるくらいの魔力の持ち主だったら、俺が敵の親玉ならここに侵入したヤツの一挙手一投足を観察してなにも見逃さねぇよ」
「ふむ」
なるほど、と頷いてシガンが一歩踏み出す。
「ぶーす! ぶーす! ぶーす! ぶ……!」
「うるさいよ」
レイラの蹴りがシガンの延髄を砕いた。

「舌噛んだー! 舌噛んだー!」
後頭部を押さえながらごろごろと転がりまわるシガン。
「仕方がないですねぇ」
ミルーダは嘆息しながら回復呪文を唱え、それからカザルに向き直った。
「カザル様、回復呪文が残り少ないですしそろそろ帰還いたしませんか?」
「おう、そうだな。そろそろ帰るか」
カザルの言葉にファールは立ち上がりながら、床に突っ伏したままのシガンをつま先でつつく。
「帰るぞ、エロガキ~」
それを見てケイツがぼやく。
「最近……シガンさんの扱いが酷いですよね」
酷いからといって止めようとはしていないが。

「さて、敵の情報が必要だ」
ギルガメシュの酒場でテーブルに着いたカザルはエールに手をつけることもなく他のパーティメンバーに言った。
「あぁ……うん」
ファールが無感動に答える。
顔はカザルの方向を向いているものの、体はすでにステージの方向に向かおうとしている。歌いたいらしい。
「ファール、着席」
眉間を揉み解しながらカザルが言う。
「きゅう」
喉から変な音を出してファールがしぶしぶ着席した。
「きゅうって……かわいいな、おい」
驚いたように呟いたシガンをミルーダが睨みつけた。

「で、敵の情報だ」
「よし、情報だね! わかった! 解散!」
カザルの議題にファールは力強く宣言し、いそいそとステージに向かおうとしてカザルに思い切り頭を叩かれた。
「い、いたぁ……」
「痛くしたんだ」
拗ねたように再度着席するファール。
「悪魔の情報……ねぇ?」
シガンが腕組みして考える。
「悪魔なんて見たことないしなぁ」
首をひねるパーティメンバー。
「実際に戦ったことがある人は……探せばいくらでも見つかると思います」
ケイツが控えめに手を挙げながら発言する。
「ほら、ダバルプス戦役ってしょせん私たちの親の世代くらいの話じゃないですか。ダバルプスが悪魔公を召還した、って記録も残ってますし、だったら当時の冒険者さんも、もちろん悪魔と戦ってたような人も探せば見つかるんじゃないでしょうか……って、うわぁー、こんな長話を全部無視されてるとは思いませんでしたぁ」
長々と説明して、顔を上げた瞬間、メンバーが普通に話をしていたのでケイツは愕然とするより前に脱力した。
ケイツの肩に置かれる手。ミルーダ。
「あの、ケイツ様、私は聞いてましたよ? えっと……ナイスガッツ」
親指を立てて激励。ケイツもとりあえず勢いで親指を立てて答えてみせるが冷静に考えてさっきのケイツの発言にガッツは存在しなかった。
「じゃあこうしようぜ」
シガンの挙手。全員がシガンに注目する。
「各自、それぞれの方法で情報収集。別にそんなん1人でも出来るし、ニュースソースはいくつあっても不足はないし。むしろ情報を集めまくって総合的に考えればいいんじゃね? 俺はよく話しに聞くサキュバスのことについて専門的に調べたいなぁ。お兄さんよっていかなぁいとか言われちゃってどうしようみたいな、そんなことはちぃっとも思ってないぞぉう」
発言の後半辺りからミルーダに地獄の業火すらも生ぬるい笑顔で見つめられて無理やり発言を修正するエロガキ。
「うむ、それしかないか……じゃあ明日は各自情報収集してみてくれ」
「よしっ、解散っ!」
カザルの出した結論にファールが嬉しそうに食いつく。
カザルは苦笑して頷いた。

酒場でグラスを傾けるカザル。
酒場の喧騒の中に響くのはファールの歌声。
「あいつ、いつでも冒険者廃業できんじゃねぇか」
苦笑してつまみに注文したアサリのにんにく炒めを口に運ぶ。
ミルーダとシガンはすでに2人揃って夜の闇の中に消えており、レイラがだらしなくひじをついた格好でピピースと呼ばれる砂肝のソテーを口に運ぶ。唐辛子とパプリカで味付けされておりちょっと辛い。どちらにしてもここリルガミンでよく見られる料理である。
「でもファールに抜けられたら困るくせにぃ」
にやっと笑いながらレイラがピピースを口に放る。
「綺麗な歌、ですよね」
愛するものが遠くに去ってしまった時に感じる愛しさと寂しさを歌い上げるファールにケイツがほぅ、と溜め息をついた。
「あれ? ケイっちゃん、まだいたの?」
「……それ、今日で一番酷いです」

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【2006年12月22日13:30 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは松尾芭蕉の野ざらし紀行っすね。

さて今回はリルガミンのモデル、と私が思ってるポルトガルの風俗を盛り込んでみました。
ピピースとかアサリのにんにく炒めなんかはポルトガル料理ですしね。
ファールが歌ってるのもファド(ポルトガル民俗音楽)っぽく、って感じです。ただファドの成立は19世紀らしいのであくまで『ぽく』ですね。ホンモノじゃないです。
愛しくて寂しい感情ってのはポルトガル風俗を語る上で欠かせない『サウダージ』って感情です。これは……多分日本語とか他の言語に訳しにくいことなんでしょうね。ポルトガルに生まれた人間が持ってるもの、というか。訳しにくさって意味で多分日本語における『侘』とか『寂』の感覚に近いんだと思います。あんなん他の言語に訳せるんかね。
あ、あとポルトガルには一般的にファドを聞かせるレストランってのが存在してるんで、まぁ、そんな感じです。
【2006年12月22日 13:39】| | 上杉霧音 #93641662ee [ 編集 ]
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