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【2025年03月04日05:27 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その18

静かにその場に立ち……それだけでフィールドを支配するトモエにパーティは緊張する。
「あ、はは……」
レイラが笑い声のような声を漏らすが、これは彼女の性格……自分の弱いところを他人には見せたくない。どんな状況であっても余裕ぶっていたい、という思い……ゆえであろう。
その証拠にレイラの顔は引きつり、誰が見ても笑いを浮かべることに成功した、とは言いがたい。
緊張が汗となり……あごを伝って床に落ちる。


はかなくて年もかへりて


そして緊張のときはいきなり、何事もなかったかのように終わりを告げる。
「……ふぅ」
トモエの気が小さくなった。
「剣を収めよ。今は戦うつもりはない」
トモエの言葉にきょとんとする一行。
「……ぬ、聞こえなんだか……いや、もしや妾の発音が悪いのであろうか」
剣を収める様子のないパーティに困惑したようにトモエがぶつぶつと呟く。
「い、いや、聞こえている」
カザルが慌てたように答えた。しかしまだ剣は収めない。当然だが。
「なんじゃ聞こえておるのではないか……まったく。であればなんらかの反応をすればよいものを」
グチのように呟くトモエにメンバーたちは顔を見合わせた。
「あ、あの……変わったお知り合いですね?」
そのころはまだパーティに入っていなかったため初対面のミルーダがいう。
「知り合いっつーか……ねぇ?」
「んー」
ファールがレイラを見たが、レイラは腕組みして何事かを考えていた。
「……ワナ? まさか、このような意味不明なワナなどありえん……いや、むしろだからこそ、か……」
ぶつぶつと呟くカザル。このあたりは戦術家たるゆえんであろうが、だからこそ逆にトモエの考えを読みきることは出来なかった。
「あ、あのっ……武器しまってみませんか、とりあえず……?」
ケイツが提案してみるがいつものように誰も聞いていない。
「はぅぅ……」
こんな状況ではあるが戦闘中にはかわりなく、のの字を書くことも出来ず、ケイツは心で血涙を流した。
そして……
「ねーちゃん、戦わないってことは俺に惚れちゃった?」
シガンがとことこと無造作にトモエに近づき目をきらきら輝かせながらそうふざけた発言をした。
さすがのトモエもこういう反応をされるとは思わなかったのだろう、目をぱちくりとさせたまま固まっている。
場の緊張感が目に見えてなくなった。
「……あの、エロガキ」
カザルが眉間を揉みほぐしながら憎々しげに呟く。自分の戦術をずたずたにしたナチュラルっぷりに毒づく。
「ミルーダ、よ~く見とけ。あれがエロガキの本性だからなぁ」
「……これは……ひどいですね」
片眉を上げておもしろそうに話しかけるファールと、やや呆然と呟くミルーダ。
「……レイラ、やれ」
カザルがレイラを手招き。シガンを指さしてから、親指で首を掻っ切るジェスチャーをした。物騒である。
「ほいさ~」
レイラも苦笑を浮かべる。
「……いや、でも困るんだよね。俺がかっこいいのはわかるけど。愛人だったらおっけーよ。どう、あいじ……」
「シガンっ!」
呆然とするトモエになぜか嬉しそうにまくし立てるシガン、その横からレイラの声が響いた。
「へ?」
そっちの方向を見たシガンは……
「青!」
意識がブラックアウトした。

「うわぁ、最後にパンツ見られたよ……」
非常に嫌そうな顔で膝までの丈のスカートをはたはたと叩いて埃を払う。
そんな長さのスカートで側頭部に蹴りなどを見舞えば、それは見える。当然である。
「いやぁ、すんませんね」
トモエに対してレイラはへらっと笑った。
「あ、あぁ……変わった仲間だな」
いまだ硬直が解けていないのか、トモエが曖昧な表情で呟き……
「仲間とか言われるのって、結構心外です」
そしてレイラの返答に苦笑を浮かべた。

「痛いよぅ……ミルーダちゃん、ディオスちょうだい、ディオス」
「……お姉さま、あの方……トモエ様とおっしゃいましたか……なにを考えておられるのでしょうか?」
側頭部を押さえながら涙目でミルーダに訴えかけるシガンは露骨に無視された。
すでに戦闘、という雰囲気ではなかった。その意味でシガンの功績は大きい。誰も功績として認めていないけれど。
「質問がある」
剣を収めたものの……それでもなんとか緊張感を持続させようと、努力だけはしたままカザルがトモエに問いかけた。
「なぜ俺たちに、この前のように戦闘を仕掛けんのだ?」
「それは妾が門番だからじゃ」
トモエが静かに答える。シガンすらも黙ってその一言一句に聞き入っていた。
「先日の主らは……慢心、増長……およそ道を通るに値せなんだため灸をすえてやっただけのこと。妾は門番。資格のあるものは通すが役目」
カザルたちは顔を見合わせる。
「さぁ、このドアを開けるがよい……タイロッサム殿が待ちかねておる」
すっと自分の後ろのドアを指し示すトモエ。
「妾は門番……残念ながらそれ以上でもそれ以下でもない」
なぜか悔しげに……そして悲しげにそう呟いた。

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【2006年12月14日13:01 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その17

かつーん……かつーん……
迷宮に靴音が響く。
この一歩が、この一歩が、この一歩が、この一歩が。
あいつに近づいていく。
シガンは暗闇を睨みつけた。


桜もちるに嘆き、月はかぎりありて


第6層。パーティはすでにこの階層の構成をおおまかに、ではあるがつかんでいた。
迷宮外周部に玄室と、それを繋ぐ回廊があり、そこからでは決して中央に進むことは出来ない。玄室の1箇所にテレポーターがあり、そこから進入することの出来る場所が中央、と思われる配置だった。
そしてパーティの眼前に暗いもやのようなものが広がっている。
テレポーター。
ここに足を踏み出せば恐らくは中央……タイロッサムへの道が開けるのであろう。
「いくぞ」
カザルが短く言って、一歩を踏み出した。

妹は可憐な少女だった。
妹は他人の悪意からも遠い存在だと思えた。
妹が結婚して、自分以外に彼女を守ることが出来るやつができるまではずっと、ずっと守ってやろうと思っていた。
だけど……
……妹は殺された。

シガンはカドルト神を祀るカント寺院の司教の息子であり、リルガミンでも最高クラスの発言力を持つ名門に生まれた。
彼が生まれて2年後に生まれた妹ともに、両親と周囲の愛情を受けながらなに不自由なく育った。
シガンは生まれたころからすでに敷かれていた、親のあとを継いで司教になるというレールをなんの疑いを挟むことなくまっすぐに進み、カント寺院に出入りするようになる。
妹は将来よい伴侶になるように、女性としての教育を施されていた。
それは将来になんの心配もしていなかった日々のこと。
遠い昔の日々のこと。

「そういやさぁ、シガンよぉ」
「なんですか?」
乱暴な女性の言葉にシガンはそっちの方向を向こう、として真っ赤になってそっぽを向いた。
司教の息子として、同年代の僧たちから敬遠されがちなシガンにたった1人だけ声をかけてくる女性、ハロゥ……しかしその服装はあまりにも大胆なものであり、腰などほとんど見えているではないか。当時純粋だったシガンには直視できない類のものだった。
「妹さん……なんつったっけ? なんとかちゃん」
「えぇ……どうしました?」
なぜハロゥから妹の話題が出るのか……妹も寺院に出入りしており彼女も妹とは面識があるのは確かではあるが。
シガンは不思議そうな顔をする。
「妹さん、なんで王宮におんの?」
ハロゥの質問の意味を理解するまでたっぷり10秒かかった。
「……は? なんのことでしょう?」
「や。この前、司祭様のお使いで王宮にいったんだけど妹さんが働いててねぇ。ちょっと話したんだけど……いやぁ、そういうのとは無縁のお嬢様だと思ってたからびっくりだねぇ」
頭が真っ白になった。

「どういうことなんだ!」
シガンはハロゥの話を聞いたあといても立ってもいられず実家に戻り妹を問い詰める。
妹はにっこり笑って答えた。
「先日、ソークス姫殿下のお茶会に招かれまして、そこでお話をさせていただきましたの……女が家に閉じこもっていてはダメだ……姫様はそうおっしゃいました。外に出て働くことの大切さを語られるあの方に賛同いたしまして、お父様とご相談して王宮で働かせていただこうと思ったんですの」
なるほど。そういうことだったか……シガンは肩の力が抜けるのを感じながら、それでも妹が立派な考えを持っていることを喜ばしく思った。

しばらくして王宮の妹から手紙が届けられる。今、妹はソークス姫殿下、アイラス姫殿下の顧問魔術師だったタイロッサム様に仕えて、その雑用を任されているらしい。
……大変だけれど働き甲斐があります。これこそが生きているということなのでしょう。
手紙にはそう書かれていた。それが最後の手紙だった。

しかしタイロッサムが叛逆したことにより幸せな日々は終わりを告げる。
シガンの実家はタイロッサムに近しい人間であった妹を即座に切り捨て、妹すらも叛逆者として処刑してしまったからだ。
シガンがそのことを知ったときには妹はすでに処刑されたあとだった。
家が憎かった。
権力が憎かった。
働くことを薦めたソークスが憎かった。
……しかし妹が死ぬことがわかっていながらそれに対し、なんの対策をとることなく叛逆したタイロッサムはもっと憎かった。
「……俺が、仇をとってやるからな」
墓を立てることすら許されない妹のことを思いながらシガンはそう呟く。
シガンが自分のことを『俺』と呼んだのはこのときが初めてだった。

「シガン、ぼんやりすんなよ」
「あ……し、してねぇって」
カザルの言葉に答えながらシガンは内心苦笑を浮かべる。さすがにリーダーだ。よく見てる……
「よし、じゃあ……いくぞ」
カザルの前には扉がある。地形から考えてこの扉か……その次くらいにはタイロッサムのところに行き着くことになるのだろう。パーティに緊張が走る。
どかっ。
音を立てて扉が蹴破られ……その中にいたのは……
「ようこそ、冒険者」
トモエは静かに佇んでいた。

【2006年12月13日22:30 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その16

「♪」
あの時一度だけ聞いたあの歌を口ずさみながらアドベンチャラーズインのエコノミールームから足を踏み出す。
あの歌を聞いたとき鳥肌が立った。こんな歌を作ることが出来る人間がいるなんてことが信じられなくて、だから感動した。
だからこそ……
だからこそファールはタイロッサムに逢わなければならなかった。


それ和歌は、兩儀剖判ののち、萬物未だ成らざる以來


「おう、今日は早いな」
いつも待ち合わせ場所への集合順番は後ろから数えたほうが早く、眠そうな顔を引きずりながらやってくるファールが眠気を見せず、一番にそこで待っていたことにカザルは少なからず驚いた。
「まぁね。今日で願いがかなうかもしれんのだからね」
「願い? ……タイロッサムか?」
ご機嫌なファールに問い返すカザル。
ファールはふふふー、と笑った。

彼女の父親はリルガミンにおいてもかなり強大な発言力を持つ修道院長だった。
広大な荘園を所有し、召使たちは彼女を姫君と敬う……彼女はずっとこんな贅沢な日々が続くのだと信じて疑わなかった。
見渡す限り彼女の家の土地であり、その中で彼女は紛れもない女王だった。
彼女と1歳年下の妹はなんの不自由もなくすくすくと温室で育った。
彼女の母は信仰心の厚い女性で厳格な人柄だった。妹は母のほうに懐いていたようだが彼女は父のほうが好きだった。
彼女の父は自身が芸術的な素養には恵まれなかったものの、その才能を持つものに惜しげもなく財を与えるパトロンであった。
彼女は父の膝に抱かれながらよい絵画を鑑賞し、よい舞台を見……そしてよい曲を聴いていた。そのときはまだ彼女はその道に自分が踏み入れるなど予想だにしていない。

ある冬の日。
いつものように父が招いた楽団の演奏を彼女は聞き、目を見開いたまま動くことが出来なくなった。
自分の頬を無意識の涙が伝うのを感じる。もしもこの曲を歌いきることが出来たのならどれほど幸せなことだろう。
そのためならなにもいらなかった。

夜更けすぎ、彼女は彼女の家に泊まることになった楽団の座長の部屋に父にも内緒で忍んでいった。
座長は楽団のメンバーの1人と酒を酌み交わしていたものの、パトロンのお嬢さんが夜更けすぎにとももつれずにこんなところに来ることに驚いていたが、彼女の言葉にそれ以上の驚愕を感じる。
「私を一緒に連れて行って!」
家を捨てて楽団に入る……
それは幸せなことではない。
王室お抱えのオーケストラであれば実入りは大きいものの、彼らのような小楽団は解散と常に隣り合わせである。ましてや彼女の父は彼らのパトロンであり……彼女を連れて行くということは彼女の父の怒りを買うことは覚悟せねばなるまい。彼女の父の怒りを買うというのはすなわち彼らはも生きていく術がなくなるということなのだった。
座長は多少取り乱しながらも彼女に一緒に来ることを諦めるよう説得する。
しかし彼女は泣きじゃくり、連れて行ってくれなければ死ぬ、と言い放った……座長はほとほと困ってしまったようだった。
「座長、まずは彼女がなぜ我々についてきたいのか、それを聞いてみましょう」
座長とグラスを交わしていた男が助け舟を出さなければ事態はまとまっていなかったかもしれない。
彼女はしゃくりあげながら、先ほど聴いた曲に感銘を受けたことを話す。
「わかりました。では今日はお眠りなさい。明日我々と一緒に行きましょう」
男が彼女に微笑みかける。彼女はこれで道が開けた、と思った。
だが……
……彼女が目を覚ましたときには楽団はすでに旅立ったあとだった。

彼女の父親は激怒した。
座長が彼女の言動を父親に報告していたからだ。
父親は彼女を半分幽閉するように部屋に閉じ込める。それからしばらくの間、彼女の生活に彩りは存在しなかった。
1人でとる食事。
会話のない毎日。
それでも彼女の思いはあの曲にだけ注がれていた。

ある春の日。
家族は彼女1人を残して王家の招きでリルガミンへと旅行をしていた。
残った召使も数人しかおらず、静まり返った広い屋敷。
家を出るのは今しかなかった。
家を出た彼女が向かったのはリルガミンだった。
純粋培養のお嬢様である彼女は悪意を持った人間にだまされ、奴隷商人に売られそうになりながらもこの街にたどり着けたのは奇跡的としかいいようがあるまい。
彼女はこの街で自分の記憶の中だけの曲を探すことからはじめた。

彩の王。

その曲名にやっとの思いで辿り着いたとき、彼女は希望と絶望を同時に味わった。
本来ならばこの曲は王室のオーケストラのみにしか演奏することが許されないいわくつくの曲だったからだ。
あの楽団がなぜこの譜面を持っていたのか、それはわからない。恐らくなんらかの非合法な方法を使ったのだろうということが想像されるだけだった。
だが彼女はまだ諦めなかった。まだ……王室のオーケストラとして雇われる道が残っていたからだ。
彼女は安宿を借りて音楽の勉強をしながら、夜は酒場で用心棒として働いた。幼いころ教わった剣術が役に立つことに彼女は苦笑を禁じえなかったのだが……

しかし状況が一変する。タイロッサムの叛逆。幾多の貴重な魔法書とともに『彩の王』の譜面も彼の逆臣に持ち去られたという。
……タイロッサムのところまでいけば藍の王の譜面をこの指で触ることが出来る……
彼女はその日、迷宮に向かうことを決意した。

「……よし、そろそろいこうか」
パーティメンバーが揃ったことを確認してカザルが声をかける。
「よっし!」
ファールは腕をぐるぐる回して気合を入れた。

【2006年12月12日11:42 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その15

どしゃっ……
湿った、残酷な音を立てて彼の剣が閃き、迷宮の闇に飲まれた哀れな司祭がどす黒い血を撒き散らしながら湿度の高い石畳の床に倒れる。
最後の力を振り絞って、司祭は彼に向かって指を必死に這わせながら……
「呪いを……」
言葉を投げかけた。
撤退することはあっても負けることはない。彼はいつしかリルガミンの冒険者の中でも屈指の戦術家として知られるようになっていた。
彼はしかし、ただ英雄になりたかっただけだった。たとえ英雄と呼ばれる意味は失われていたとしても。


つくば山の見まほしかりし望をもとげ


彼……カザルはリルガミンからはるか北の貧しい村で生まれた。そこは土地も貧しく、農作物に適していなかったため武門として機能する村であった。
農村であれば農作物を作りそれを売ることを産業として成り立っている村である。
漁村は漁をし獲った魚を売ることを産業として成り立っている村である。
武門とは、生まれた子供に戦闘術を身につけさせ、傭兵として派遣することを産業として成り立っている村であった。
その村で生まれた子供たちは徹底的に上下関係を植えつけられる。目上の人間の言葉に逆らえば気絶するまで殴られ、また従ったとしても満足できる結果が得られなければまた殴られる。軍隊において上官の言葉は絶対だからだ。規律を乱す傭兵を輩出しない……それにおいてこの村の傭兵は一流であり、だからこそ『売れる』人間が成長するのだった。
カザルもこの村のことが世界の当たり前と信じ、上官の言葉に絶対服従し、また戦闘術においても同年代の誰よりも優れた資質を示していた。
天賦の才、というほどのものではない。ただ村の誕生からこの世代までの教育方法が整っていたことの証左であろう。
ある日、カザルに声をかける娘があった。
娘はやはり村人であり、カザルよりほんの2歳年下だった。
「がんばってるのね」
「あぁ」
会話はたったそれだけ。
だがそれは毎日のように続いた。
いつしかカザルは彼女のことしか考えることが出来なくなっていた。
彼が触れようと手を伸ばすと彼女は蝶のようにその手から逃れながら、それでもカザルの周りをひらひらと舞い歩く。
ある日、カザルは村長に面会を求めた。彼女と所帯を持つ、その許しを得るために。
村長はカザルの情熱をヒゲをしごきながら黙って聞いていた。
そしてゆっくりと口を開く。
「お前とあの娘の婚姻を許さぬわけではない。だがお前は初陣もすませてはおらぬ未熟者。まだ村で一人前と認めることは出来ぬ……折りよく傭兵の依頼が舞い込んでおる。これに生きて戻ればお前とあの娘との婚姻を認めよう」
カザルは村長の言葉に飛び上がって喜び、すぐに彼女に会いにいった。
彼女は……いつもカザルが手を伸ばすと逃げようとする彼女がその日だけはカザルの手から離れていかなかった。
「必ず……生きて戻ってきてね」
彼女は目に涙を浮かべ、カザルの手をとってそれだけを言った。
俺は彼女に完全にやられちまった……それがそのときのカザルの正直な思いだった。

初陣の舞台はある山の中。
ここに近隣の住民を襲う山賊がいるということであり、カザルが借り出されたのはその地の領主による山賊掃討のための山狩りということだった。
村から派遣されたのはカザルと同じ年代の若い層だった。貴族の正規兵とあわせて全員が初陣という若い軍……それが恐れを知らず山の中を征く。

「……ん」
夜半、カザルは目を覚ます。これが終われば彼女と結ばれる……その興奮に夕食すら摂ることが出来なかったが、それでも疲れのためかいつの間にか寝てしまったようだ。
カザルが最初に感じたのはあまりの静けさであった……ゆっくりとテントから這い出し、そして驚愕する。
不寝番すらが眠っていたからだ……夕食に薬を盛られたか! カザルが歯噛みする。夕食を食べることがなかったため自分だけが助かったのだ……となると敵の次の手は……
カザルが思うのと同時に周りから鯨波の声があがった。

どう戦ったのかは覚えていない。ただカザルだけが生き残った。

夜陰に紛れて村に帰還する。山賊たちに村の場所を知られるわけにはいかない。生き残って、まず思ったのは彼女に会いたい、というただそれだけだった。
カザルは夜闇の中、彼女の家に近づき……
なにかの声……
不審を感じたカザルはそっと彼女の家の窓から中の様子を伺う。

彼女は村長の体の上で淫靡に腰を振っていた。
その顔は快楽で染まり……その瞬間、カザルにはわかってしまった。
彼女もまた武門の人間だということ……腕っ節で戦うのではなく、その体で村の利益を計っているということ。自分を誘惑して好きなように操っていたのだ、ということ。
そして自分は村長に見捨てられたのだ、ということ……思えば戦闘経験のある人間が誰ひとりいないところからして奇妙だったのだ。恐らく山賊討伐とは名ばかりであり、山賊に扮してあの軍を壊滅させたのはこの村の人間だったのだろう……実地訓練で村人を鍛えることができ、またバカな貴族が再び、いもしない山賊討伐を企てたときに金を吹っかけることが出来る。

そしてカザルは村から逃げ出した。

ギルガメシュの酒場……今日も生き残った。
カザルはエールを飲みながら仲間の顔を見渡す。
……タイロッサムを打倒したものを近衛兵として取り立てる、か。苦笑。
英雄になる意味などもうないというのに……しかし……
カザルは再び仲間たちの顔を見回して宣言した。
「明日、タイロッサムの首を取る」

【2006年12月11日14:05 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その14

そして1週間……
探索は遅々として進まなかったもののシガンは後衛よりの攻撃と補助に、ミルーダは適切な呪文の行使に、連携面においてパーフェクトとはいえないまでも一定の満足できる戦力としてパーティは仕上がってきていた。
そして再び第6層へ……


このころ友人何がし、一書を懷にして來きたつて是見よ


「う……ここは……」
第6層の空気を嗅いだ瞬間、呻くような声を出すミルーダ。
「殺意が……四方から感じられます」
「なんだぁ、それ感じ取れるなんてなかなかやるじゃん。姉譲りの感覚ってやつ? やつ?」
感心したようにレイラがミルーダの後ろから抱きついた。。
「きゃっ」
「あっ! この! そういうことは俺がしたいのに!」
ミルーダが驚いた声を上げ、シガンがぶっちゃける。
その言葉を聞き、ミルーダはさらに真っ赤になった。
その様子をファールは見ながら呆れたように肩をすくめ……そして視線をさらに後ろに向けた。
「ケイツ、緊張してんの?」
いつにも増して口数の少ないドワーフの少女に声をかけた。
「そう、見えますか?」
「見える見える。そうとしか見えないくらい」
ファールの言葉に苦笑するケイツ。
「なら、残念。緊張じゃないですよ……武者震い、ってやつです」
「ふぅん?」
「ほら、私ってタイロッサムの弟子の弟子……つまりあの男の直系なんですよね……」
ケイツは吐き捨てるように語りだした。

少女はそのリルガミン近郊のその小さな荘園の中の比較的裕福な農民の家に生まれ育った。
愛する家族に囲まれ、3年後に弟の誕生、その2年後には妹と弟の双子の誕生。そのころ家族は幸せに満ちていた。
少女が10歳になった年、村にある家族が移り住んでくる。その家族は一家揃っておかしな顔色をしており、あまり健康そうには見えなかったものの、よく気のつく働き者であり、村人としても阻害することはなく一見よい関係が続いていた。
しかしなにか思うところがあったのだろう、父親は少女に弟たちを連れ、リルガミンまで遊学に出るように命令する。
父親には荘園領主に対する責任と、また自分の家で管理している農奴たちへの責任があり、母親には父親を命をかけて補助しようとする折れない気持ちがあった。
リルガミンの街は少女とその弟たちにとってはじめてみるものでいっぱいだった。
少女とその弟たちを受け入れた初老の貴族は、荘園を経営する領主であり、少女が持っていた父親からの手紙を受け取ったり読んだあと、ずいぶん難しい顔をしてはいたが、しばらくして優しい顔になり少女たちに『いつまでもここにいていいから』ということを言った。
優しい貴族様と家族に囲まれて、少女は自分のことをなんて幸せな人間なのだろうと思った。

そして少女の村は一晩にして疫病で全滅した。

沈痛な顔の貴族から事の真相を聞いたのはすべてが終わったあとだった。
少女は『私の養子になればいい』という貴族の手を振り切って弟たちの手をとって村へと向かった……そこは無人の街だった。
つい今まで生活していた痕跡のある村、しかし誰もいない村。少女たちはその村をさ迷い歩き……無常な現実を見つめざるを得なかった。
こんな状況であっても日はまた昇り、生きていかなければならない。自ら手を振り払った貴族のもとへなど帰ることは出来なかった。
少女は弟たちを養うために弟たちには内緒で体を売った。リルガミンほどの大きな街であれば少女のようなものが街娼をしていたとしてもおかしくはない。
はじめての男は全身傷だらけの男だった。
かけらも優しさの存在しない動きに少女は泣き叫び、男はそれが気に食わないと少女を殴り倒した。少女が抵抗をやめるまで男の暴力は続き、そして再び腰を動かす。
行為が終わり、涙も涸れ果てた少女に男は唾とともに数枚の銀貨を投げ捨てる。それが彼女の報酬。服を着ることすらせず、小さな手で銀貨を握り締める少女に罵声を浴びせ男は立ち去る。
そのお金で少女は弟たちにご飯を買った。弟たちは本当に嬉しそうで……少女はそのときだけつらさを忘れられた。

その男……ティンダ・レイが街娼の少女を見出したのは偶然としかいいようがない。
路地で立っているその街娼を見たとき彼の頭に魔力が迸るのが感じられた。彼はその街娼を買い取り、そして魔法使いとしての教育を施す。また自分の家の手伝いをさせ安いとはいえ、少女に賃金を渡した。
少女は暴力から開放された。
しかし彼女の幸せはそう長くは続かない。
自分に魔法を教えた師匠の、その師匠タイロッサムの叛逆。師は憂いに満ちた顔で頭を抱えることが多くなった。少女には……自分を救ってくれた恩人にそんな顔をさせるタイロッサムを許すことなど決して出来なかった。

「……今の私があるのって……師匠のおかげですから。マリクさんたちがタイロッサムを殺してくれるのならそれでかまわない、と思っていましたけど……あの人たちがやらないのなら……私たちがやるしかないですから」
笑うケイツ。
「そっか」
ファールはケイツの肩を優しく叩く。
「だったら、生きて帰らなきゃ、ね」
「はい」
ケイツはにっこりと笑った。

【2006年12月10日13:15 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
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