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【2024年03月30日00:43 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その15

どしゃっ……
湿った、残酷な音を立てて彼の剣が閃き、迷宮の闇に飲まれた哀れな司祭がどす黒い血を撒き散らしながら湿度の高い石畳の床に倒れる。
最後の力を振り絞って、司祭は彼に向かって指を必死に這わせながら……
「呪いを……」
言葉を投げかけた。
撤退することはあっても負けることはない。彼はいつしかリルガミンの冒険者の中でも屈指の戦術家として知られるようになっていた。
彼はしかし、ただ英雄になりたかっただけだった。たとえ英雄と呼ばれる意味は失われていたとしても。


つくば山の見まほしかりし望をもとげ


彼……カザルはリルガミンからはるか北の貧しい村で生まれた。そこは土地も貧しく、農作物に適していなかったため武門として機能する村であった。
農村であれば農作物を作りそれを売ることを産業として成り立っている村である。
漁村は漁をし獲った魚を売ることを産業として成り立っている村である。
武門とは、生まれた子供に戦闘術を身につけさせ、傭兵として派遣することを産業として成り立っている村であった。
その村で生まれた子供たちは徹底的に上下関係を植えつけられる。目上の人間の言葉に逆らえば気絶するまで殴られ、また従ったとしても満足できる結果が得られなければまた殴られる。軍隊において上官の言葉は絶対だからだ。規律を乱す傭兵を輩出しない……それにおいてこの村の傭兵は一流であり、だからこそ『売れる』人間が成長するのだった。
カザルもこの村のことが世界の当たり前と信じ、上官の言葉に絶対服従し、また戦闘術においても同年代の誰よりも優れた資質を示していた。
天賦の才、というほどのものではない。ただ村の誕生からこの世代までの教育方法が整っていたことの証左であろう。
ある日、カザルに声をかける娘があった。
娘はやはり村人であり、カザルよりほんの2歳年下だった。
「がんばってるのね」
「あぁ」
会話はたったそれだけ。
だがそれは毎日のように続いた。
いつしかカザルは彼女のことしか考えることが出来なくなっていた。
彼が触れようと手を伸ばすと彼女は蝶のようにその手から逃れながら、それでもカザルの周りをひらひらと舞い歩く。
ある日、カザルは村長に面会を求めた。彼女と所帯を持つ、その許しを得るために。
村長はカザルの情熱をヒゲをしごきながら黙って聞いていた。
そしてゆっくりと口を開く。
「お前とあの娘の婚姻を許さぬわけではない。だがお前は初陣もすませてはおらぬ未熟者。まだ村で一人前と認めることは出来ぬ……折りよく傭兵の依頼が舞い込んでおる。これに生きて戻ればお前とあの娘との婚姻を認めよう」
カザルは村長の言葉に飛び上がって喜び、すぐに彼女に会いにいった。
彼女は……いつもカザルが手を伸ばすと逃げようとする彼女がその日だけはカザルの手から離れていかなかった。
「必ず……生きて戻ってきてね」
彼女は目に涙を浮かべ、カザルの手をとってそれだけを言った。
俺は彼女に完全にやられちまった……それがそのときのカザルの正直な思いだった。

初陣の舞台はある山の中。
ここに近隣の住民を襲う山賊がいるということであり、カザルが借り出されたのはその地の領主による山賊掃討のための山狩りということだった。
村から派遣されたのはカザルと同じ年代の若い層だった。貴族の正規兵とあわせて全員が初陣という若い軍……それが恐れを知らず山の中を征く。

「……ん」
夜半、カザルは目を覚ます。これが終われば彼女と結ばれる……その興奮に夕食すら摂ることが出来なかったが、それでも疲れのためかいつの間にか寝てしまったようだ。
カザルが最初に感じたのはあまりの静けさであった……ゆっくりとテントから這い出し、そして驚愕する。
不寝番すらが眠っていたからだ……夕食に薬を盛られたか! カザルが歯噛みする。夕食を食べることがなかったため自分だけが助かったのだ……となると敵の次の手は……
カザルが思うのと同時に周りから鯨波の声があがった。

どう戦ったのかは覚えていない。ただカザルだけが生き残った。

夜陰に紛れて村に帰還する。山賊たちに村の場所を知られるわけにはいかない。生き残って、まず思ったのは彼女に会いたい、というただそれだけだった。
カザルは夜闇の中、彼女の家に近づき……
なにかの声……
不審を感じたカザルはそっと彼女の家の窓から中の様子を伺う。

彼女は村長の体の上で淫靡に腰を振っていた。
その顔は快楽で染まり……その瞬間、カザルにはわかってしまった。
彼女もまた武門の人間だということ……腕っ節で戦うのではなく、その体で村の利益を計っているということ。自分を誘惑して好きなように操っていたのだ、ということ。
そして自分は村長に見捨てられたのだ、ということ……思えば戦闘経験のある人間が誰ひとりいないところからして奇妙だったのだ。恐らく山賊討伐とは名ばかりであり、山賊に扮してあの軍を壊滅させたのはこの村の人間だったのだろう……実地訓練で村人を鍛えることができ、またバカな貴族が再び、いもしない山賊討伐を企てたときに金を吹っかけることが出来る。

そしてカザルは村から逃げ出した。

ギルガメシュの酒場……今日も生き残った。
カザルはエールを飲みながら仲間の顔を見渡す。
……タイロッサムを打倒したものを近衛兵として取り立てる、か。苦笑。
英雄になる意味などもうないというのに……しかし……
カザルは再び仲間たちの顔を見回して宣言した。
「明日、タイロッサムの首を取る」

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【2006年12月11日14:05 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは白河記行~。

しっかしこのPT、たいがいが不幸やんなぁ。う~ん……

ソードワールド リュクラナ・キドフェイト(ハロゥ)
これは、もともとは礼儀正しい人だったんですけどねぇ。生まれは傭兵だったんでたまに地が出る感じの人。
まぁ、悪戒律なんで地オンリーでやってみました。うぬ。
【2006年12月11日 14:10】| | 上杉霧音 #986e0d8ddb [ 編集 ]
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