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【2024年04月27日03:06 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その19

トモエが導いたドアの先。
パーティの眼前に小部屋が現れる。
その奥に小さな明かりが灯り……老人といっても差し支えない男性が机に向かっていた。
「タイロッサム殿、おつれしました」
そのトモエの言葉とともに老人が振り返り……


身はたとひ武蔵の野辺に朽ぬとも留置まし大和魂


「ご苦労様です、トモエ殿」
その老人は薄く微笑み、トモエはそれに対し一礼する。
人間族にしては大柄な体躯である。
瀟洒なローブに身を包み、長く白いひげを持った男。
タイロッサム……
彼はゆっくりと机に立てかけていた杖を握って立ち上がった。
「ようこそ、冒険者たちよ」
その柔和な声にパーティは困惑する。これが世紀の悪人と呼ばれる人間なのか……
だが……
「てめぇかぁーッ!」
1人だけ怒声を張り上げ、老人に突進する……シガン。
「待て!」
しかしカザルに羽交い絞めにされ止らざるを得ない。
「てめぇの……てめぇのせいで妹が! くそっ! タイロッサム……ぶち殺してやる!」
普段は女性のことを考えながら鼻の下を伸ばす少年のいきなりの変貌にパーティメンバーは戸惑いを隠せない。
「落ち着け! なにがあったか知らんが冷静さを失ってもろくなこたぁねぇ!」
カザルがシガンを説得しようとするが、シガンは憤怒の形相のまま前へ進もうとする。
「てめぇがっ! てめぇさえいなければ妹は死なずにすんだんだっ!」
シガンのその絶叫。タイロッサムは少し考えるそぶりを見せる。
「妹御……はて……」
「忘れたとは言わせねぇ!」
カザルが押さえていなければシガンはそのままタイロッサムに突っ込んでいくだろう。
「……その顔……なるほど。貴公はクリスタンテ家の方か。であれば妹御は……」
納得したように呟くタイロッサム。そしてパーティメンバーの誰もが予期せぬ行動を取った。

「すまぬことをした」
タイロッサムは深々と頭を下げる。

毒気を抜かれたような顔になるシガン。
タイロッサムはなおも語る。
「あの子はとてもよくわしに尽くしてくれた。ゆえにわし自身に甘えがあったのであろう……彼女であればわしがいなくてもなんとかしてくれる、という。彼女が処刑された、ということは聞き知っておる。それはすべてわしの怠慢から来ること……彼女を生かす道を考えずに行動を起こしたわしの責任である」
そして再び柔和な顔を上げた。
その顔は……
深い悲しみに彩られ、シガンはそれゆえに肩を落とした。
そしてタイロッサムは今度はパーティ全体を見回した。
「勇者たちよ、よければ貴公らがこの場へ来た理由をきかせてはくれまいか」
カザルがシガンを開放する。シガンはうなだれたまま動こうとはしないが。
そしてそのまま一歩前へ出た。
「勇者と呼ばれるため……俺がかつて愛した女と結婚するための条件でね。ま、今じゃその意味は失われてるんだが」
カザルが皮肉げに眉を歪めながら言う。
「勇者……貴公の横にはそれだけの仲間がおるではないか。勇者の名に意味はなくとも、ここまできたことに意味がないとはわしは思わぬ」
タイロッサムは小さく微笑む。
次に前へ出たのはファール。
「貴方がこの迷宮へと持ち去った楽譜をこの手で読むため。私はそのために家を出る羽目になったんでね……こんなご時世になにが楽譜だ、とか言われると非常に困るんだけど、それでも私にとっちゃなにより大事なものだからね」
ファールは肩をすくめながら語る。
「楽譜……『彩の王』」
タイロッサムが小さく頷き……
「なるほど……貴公にこの場へ来ていただくための釣り餌、であったか……かの楽譜を持っていかねばならぬ、との啓示を得ていたのだが、それは当たっていたのだな」
満足そうに頷く。
次に前へ出たのはケイツ。
「私の師匠の名はティンダ・レイ。私は彼の方に命を救われ……どれだけ感謝してもしたりないほどの恩を受けました。そして今、あの方は貴方の叛逆によって苦しんでおられます……私はあの方の心労を和らげるためにここにきました」
いつもの小声ではなく堂々と宣言する。
「なるほど。あやつの弟子であるか……よい弟子を持ったな。帰ってあれに伝えてほしい。『わしにはこの手しか思いつくことが出来なかった』と。あれにはもうわしが教えることなどない」
静かに語るタイロッサム。その口調には弟子に対する愛情が溢れていた。
ミルーダが続いて前に出る。
「よき司祭となるために……リルガミンの災厄を見過ごしていては司祭失格ですから」
ミルーダは静かに語る。
「なるほど。昨今では腐りきった神官が闊歩する中、貴公は義憤のみでここへ立ってくれたわけか。ありがたいことじゃ……じゃが……」
タイロッサムの目がミルーダを射抜く。ミルーダはぶるっと震えた。
「……貴公もわかっておるようじゃの。であれば言うことはない」
そして最後にレイラが前へ出る。
「私が私であるために」
きっぱりと宣言する。
「ははっ……なるほど」
タイロッサムは楽しげに笑い……
「貴公らの話はよくわかった……貴公らのようなものが……各々に事情があるとはいえ結果的に……リルガミンのためにここへ集ってくれたことに対してまずは感謝を」
頭を下げるタイロッサム。そして……
「この杖の先にあるはリルガミンの宝珠。これさえあればニルダの杖は再び輝きを取り戻すであろう……さぁ、勇者よ! わしを殺し、この宝珠を取り戻すがよい!」

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【2006年12月15日14:59 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは留魂録。吉田松陰ですな。

さて今日は地理。
『風よ』に以下記載があります。
『リルガミン王国は大陸の西端に位置している』また『リルガミン市の西には海が広がっている(中略)アルビシア諸島と呼ばれる大小十あまりの島々がある』と。
ちなみにアルビシア諸島の本島っつーのは『中央に緑の木々に包まれた丘陵部を持つ美しい島だった』そうですよ。
前々回の考察どおりリルガミンとトレボー城塞都市は別の国であり、リルガミンは『数百年の戦乱期ですら』独立を守り続けたそうなんで、それってつまりトレボーの侵攻にも打ち勝った、ということなんでしょうね。

さてここで思うのが大陸の西端、ということでイメージしやすいポルトガル&スペイン。トレボーによって勢力を拡大したトレボー城塞都市がスペインかな、と。
んで両国といえばやっぱ大航海時代。アルビシア諸島はカリブのイメージでいいんじゃないかと思うわけです。アメリカ大陸は存在しないもののアルビシア諸島の周りには『コルセアと呼ばれる海賊が勢力を持って』いたらしいのでパイレーツ・オブ・カリビアン?

それ以外に小説に登場する地名としてエルフの王都エイセル・エルダス、ノームの賢人の都サレム、ドワーフの地底都市ゴレア・ドゥムはそれぞれフランス、スイス、ドイツのイメージです。
また不死者の都、森の彼方の国ファールヴァルトは北欧的なイメージでひとつ。

まぁ、ぶっちゃけポルトガルサッカーのファンなんでリルガミンをポルトガルに位置づけたことにかなり満足。
【2006年12月15日 15:23】| | 上杉霧音 #9a7c4dd258 [ 編集 ]
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