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【2017年09月21日19:25 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その21

ゆっくり崩れ落ちるタイロッサムの体を、そこから命を奪った当人であるファールは呆然と見送った。
そのとき、それまで微動だにせず、部屋の片隅で戦いを見守っていたトモエが動いた。


實にや安樂世界より、今此娑婆に示現し


トモエは静かに前へ進み、タイロッサムの死体の前で立ち尽くしていたファールの体をパーティのほうにゆっくりと押しやり、そしてタイロッサムの体の横にしゃがみこむと今まで浮かべてすらいなかった優しい微笑を浮かべた。
「タイロッサム殿……ご立派な最期であった」
……そしてトモエはゆっくりと、今ではすでにもの言わぬタイロッサムの顔をいとおしげに抱え……
……静かにキスをした。

どれほどの時間が流れたのだろう。
トモエはタイロッサムから離れるともう一度いとおしげにタイロッサムの頬を撫でた。
「……おさらば」
そして立ち上がり、パーティのほうを向く。その姿にパーティメンバーは息を呑んだ。
顔は薄い微笑をたたえている。しかしその笑顔を形作った目からは血が流れていた。
すでに回復が終わりあばらあたりをさするカザル。
呪文を唱え終わったシガン。
恐慌から回復した3人、そしてタイロッサムを殺したファールのほうを血涙を流しながらゆっくりと見回すトモエ。
「……まずはタイロッサム殿の願いをかなえた汝らに感謝を」
笑みをたたえながらゆっくりと言葉を吐き出すトモエ。
「そして愛する男を奪われた1人の女として汝らに報復を」
トモエはゆっくりとその腰のカタナを抜く。小さな明かりに反射し銀色に光った。
メンバーはトモエの悲しみと笑みの意味を理解する。
タイロッサムがこの迷宮でなにをしていたのかはわからない。
だがなんらかの目的があってここに篭っていたのだとすれば……地上で女王の教師として力を振るった稀代の魔導師。それがこんな穴倉の小さな部屋に閉じこもり自分を殺すものの存在だけをずっと待っていたのだとすれば……
トモエはずっとその傍らに侍り、タイロッサムの思想を理解し、彼が殺されることを望みながら、それでも彼を愛してしまったがゆえにその状況を忌避する矛盾を抱えていたのだとすれば……
「愛っすかぁ……じゃあ受けないわけにはいかないねぇ。ここはトドメさした私と1対1で……」
ファールが一歩前に出ようとするが後ろから肩をつかまれ、後ろに引き戻される。
「いやぁ、バルや。ここはいっぺん殺されてる私に再戦のチャンス与えるほうが順当だろ」
細い目に笑みを浮かべてレイラが前へ出る。
ファールは横からそのレイラを少し不機嫌そうに睨みつけ……
「死んだら指さして笑ってやるからね。あと私ぁ、ファールだ」
肩をすくめて後ろに下がった。
レイラは装備を一つ一つ確かめるように脱いでいく。
その間、トモエは微動だにしない。
そして最期の靴を脱ぎ終わったレイラが立ち上がり……
「第67代トモエ、シズマ・”ムーンブレイカー”・トウドウ、参る」
その名乗りにレイラは顔を歪める。
「ぁぁぁ……なるほど、名乗るのが普通かぁ。そうかぁ……そりゃそうだよねぇ……」
頬をかき……
「レイラ・アルバレス・デ・トレボー。参ります」
そして。跳んだ。

「トレボォって……あのトレボー?」
レイラの名乗りを聞き、唖然としたファールが呟く。自分の家も名家ではあるが家格という意味で天と地ほどの開きがある。
リルガミンの隣国、トレボー城塞都市。
100年以上も前に狂王と呼ばれた男によって異常なほど勢力を拡大したこの国はかつてはリルガミンにとってもっとも危険な隣国であるといえたが現在では同盟相手として両国の交易も盛んとなっている。
「おう、あのトレボーだ」
こともなげにカザルがファールに答える。
「パーティ入りするときに本人から聞いてたしな。あとあんま特別扱いされたくないから黙っててくれって」
「ふぇ~……特別扱いとかしようがないのに」
身も蓋もないファールの言葉にカザルは苦笑を浮かべた。

トモエ……シズマのカタナがレイラを襲う。紙一重でなんとか避わすものの、その着地点を狙い鋭い突き。それを避わしても……
戦いのイニシアチブは完全にシズマが握っていた。
レイラは致命傷こそ受けてはいないものの、細かい切り傷は熱を帯び、やがてその神速を奪うことは確実であった。そうなる前に……
レイラは打開策を探る。

焦れているのはシズマも同じだった。
ニンジャには急所を見出す能力が自然と備わっている。どれだけ優位に戦いを進めていたとしても一瞬後に地に伏せるのは自分である可能性もある。一瞬の逆転……ニンジャというのはまったく厄介な敵であった。

す……
シズマのカタナが大上段に構えられる。
明らかな隙。だが……
「レイラよ、決着をつけようぞ」
もっとも攻撃力の高い構えよりの一撃により一瞬で勝負を決する。
レイラが急所に触れるほうが早いか、シズマがカタナを振り下ろすほうが早いか……

レイラが動いた。
シズマが動いた。

レイラの死を呼ぶ腕が一瞬早くシズマの急所をえぐる。

シズマは倒れなかった。なにかに寄りかかるでもなく、ただそこに立っていた。しかし……
「なんじゃ、最後の一撃は……最後まで必殺技を取っておくとは余裕ではないか……」
呆れたように呟くトモエ。
その顔には濃い死相が現れ、もはやいかなる魔法の力を用いたとしても手の施しようがないことを伺わせる。
「そこなサムライよ」
シズマが、もはやほとんど視力もないであろう目をファールの方向に向けた。
「もってゆくがよい。形見分けじゃ」
最後の力を振り絞って自分が今まで振るっていたカタナを放り……息を吐くように呟く。
「さぁ、汝らは奥の部屋へ……そして……」
トモエの命の砂の最後の一粒が零れ落ちた。

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【2006年12月17日18:06 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック(0)
コメント
無題
今回のタイトルは曾根崎心中。まぁ、チョイスは、その、うん。

さて、いよいよこのスペースに書くことがなくなった。書くことがなくなったのでこれで。
ではまた。
【2006年12月17日 18:08】| | 上杉霧音 #990b6cc909 [ 編集 ]
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