忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2024年04月18日16:55 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その23

正装をしたパーティメンバーは王宮を訪れていた。
謁見の間にリルガミンの中枢ともいえる群臣が集っている。
その中に見知った顔を見つけてシガンは笑った。
「お、ちょっといってくる」
「ういよ~」
適当な返事を返すレイラにシガンは手を挙げて、そして一人の中年の男、クリスタンテ司教……自分の父親の前に立った。彼はシガンを見て、瞬間嫌悪の表情を浮かべるがなんとかそれを押し殺す。
シガンはなにも言わずに彼……クリスタンテ司教……自分の父親を殴り飛ばした。
群臣がざわめく。
「静まれ。アイラス女王のおなりである」
衛士が告げた。
ざわめきがおさまった。


いまは、そのかみのことに侍べし


「ただいま~」
「ういよ~」
女王が静々と玉座に上ろうとする中、シガンがメンバーのところに戻ってくる。レイラは適当な返事をした。
そして女王は厳かに告げた。
「我、リルガミンの統治者、女王アイラス。汝らが示した勇気を称えんがため勇者の印を与えん」
人間、エルフ、ドワーフ、ノーム、ホビットの長老でリルガミンの実際の行政を取り仕切っている行政機関、五賢者のうちドワーフとノームの長老の手より階級章が下賜される。
ノームの長老はリーダー、カザルの前で一度立ち止まりカザルにだけ聞こえるように小声を出した。
「日記の内容は現在、我々が解析中である、が……恐らくもう一仕事してもらうことになるであろう。現在リルガミンでそなたらとともに実力が図抜けておるマリクらにも同じことを頼むつもりではあるが、この件は他言無用のこと。むやみに人心を惑わすのは本意ではない」
カザルは長老の言葉に目だけで頷く。
「貴方たちは命がけで戦ったのです。その結果、杖も輝きを取り戻しました。これで民も安心いたしましょう……貴方たちの行動によって民は落ち着きを取り戻したのです。そのことを誇りに思いなさい」
少し悲しげな表情の女王……恐らく五賢者から日記の内容をうすうす聞かされているのだろう。しかし群臣の前でそれをおくびに出すこともない。
いまだ確定しない不安によってむやみに民心を惑わすことをしない……立派な為政者であるといえた。
「これにて謁見は終わりぬ」
「……ぁぁっ」
女王の言葉にファールが小さく呻く。まだ『彩の王』に未練があるのだ。
しかしなんとか理性を押さえつけ黙って平伏する。
謁見は終わった。

翌日……いつもタイロッサムを打倒する前、いつもパーティが集合していた朝の時間に集めるようにカザルがパーティに告げた。

昨日までは準備する冒険者の姿がちらほらと見られたダバルプス呪いの穴の入り口。
今日からは人っ子一人見られないダバルプス呪いの穴の入り口。
「……んにゃぁ~……ねみぃ」
立ったままうつらうつらとしているファールを除いてはみな緊張した表情を浮かべていた。
ファールはいつものことなのでみな気にしていない。迷宮に入れば目を覚ますし。
「さて……ここからの冒険は王宮からの正式な依頼じゃない。一応賢者会議のポケットからある程度の報酬は出るようだが……恐らく危険に見合った金額じゃないと思う。これ以上進むのを躊躇うものはすぐに帰ってくれ。俺はそれを非難しない」
レイラは口元に笑みを浮かべて頷く。
シガンは腕まくりをして気合を入れる。
ミルーダは静かに微笑む。
ケイツは2、3度首を縦に振る。
ファールは……
……寝ていた。
「ぅ~……」
こっくりこっくりと舟をこいでいる。立ったまま。
「……お姉さまも頷いていらっしゃいます」
ミルーダが仕方なくカザルに伝えた。確かに一見頷いているように見えなくもない。
「……緊張感ねぇなぁ」
カザルががっかりしたように呟いた。

第6層、タイロッサムの部屋。
「さぁって……日記に奥の院とか書いてあったし、あのお爺ちゃんも部屋の奥に地獄があるとかいってたし。じゃあ部屋の奥の扉からどっかに抜けられるってことでしょ」
室内でファールが明るく言った。
「奥、っつったら……あれか」
シガンがタイロッサムが座っていた小さな机の横の扉を指さす。
パーティは警戒しながら奥の扉を開けた。
扉の奥はT字路になっているようで、突き当りに看板がある。
「えっと……さあ、左に進むがよい。知恵の泉を求めるのだ。まさか右には行くまいな……? だって?」
看板の左右には闇が広がっていて先は見渡せそうにない。
「左、か」
「ま、待ってください」
呟くカザルにケイツが珍しく慌てた声を出す。珍しいのは慌てた声を出すことではなくみなが発言を聞いていることなのだが。
「あの日記でもあったようにタイロッサムは……ぁー……タイロッサム様はぼかした書き方をなさっておられます。つまりここは逆に考え、右が正解なんじゃないでしょうか」
「なるほど!」
ケイツの言葉に正論を感じたカザルは右に足を踏み出し……

リルガミンへの強制テレポーターだった。

「……ケイっちゃんってたまにいい発言するとへたれるね」
「はうう」
レイラの言葉にケイツは胃の辺りを押さえた。

PR
【2006年12月19日15:10 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは近代秀歌。藤原定家卿ですね。

さて今回ファールが手放した『彩の王』について。
私ぁ音楽とか全然知らん分野なので本当に『宮廷のみでの演奏が許された曲』が存在したのかとか知らんです。知らんこと書いて申し訳ない。
あってもおかしくねぇんじゃね? くらい。

あ~、でもそういうのって口伝文化のみかなぁ?
う~ん、ここらへん音楽史に詳しい人にご教授願いたいとこですね。
……書く前にご教授願えって話ですかそうですか。

ちなみに彩の王のモデルはあります。ありますがJASRACが怖いので秘密です。
西洋音楽じゃないしね。
【2006年12月19日 15:22】| | 上杉霧音 #990b6d4a2a [ 編集 ]
コメントの投稿













トラックバック
トラックバックURL

前ページ | ホーム | 次ページ

忍者ブログ [PR]