忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2024年04月25日21:07 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その他

外は大荒れ。雷も鳴り響いている。
それもそのはず、普段リルガミンでは秋から冬にかけては雨季。
だからみな、気にせずに騒いでいた。


Some of my little friends say there is no Santa Claus.


大荒れの天候の中、しかも夜だというのにギルガメシュの酒場では喧騒が絶えなかった。いや、今日はこのまま喧騒が絶えることはないだろう。
それもそのはず、今日はナタル! 聖人の聖誕祭である。
酒場にも『プレゼピウ』と呼ばれる聖人誕生を祝った模型が飾られ、ムードを盛り上げる。
日が変わったら教会に礼拝に出かける。それがナタルの光景、なのだが……

「ナタルってのぁ普通は家族と過ごすもんっしょー?」
ファールがエールをあおりながら言った。すでにかなり飲んでいる。
テーブルについているのはカザル、レイラ、ミルーダ、シガン、そしてファール。パーティの中ではケイツ以外の全員が揃っている。
「家族おらんの、キミらは?」
「おう、家を捨ててきたしな」
ファールの素朴ともいえる疑問にカザルは胸を張って答えた。武門の村の生まれでありながら、その村を捨ててこの街にやってきたカザルにとって帰る場所など本当に存在しなかった……もっとも武門の村では家族、という意識自体が希薄な上、ナタルを祝うという習慣すらなかったのだが。
「そーでもないっ」
シガンも胸を張って答える。彼の家族はここリルガミンに住んでおり会いにいこうと思えばいつでも会いにはいけるのだが……まぁ、彼の場合は妹の一件で家族の誰もを恨んでおり、下手に帰省した日には血の雨が降るかもしれないので仕方ない、といえば仕方ないのかもしれない。
「あたしゃ家、遠いからねぇ」
しみじみとレイラがエールを飲む。トレボー城塞王家の姫である彼女がなぜリルガミンで冒険者をしているのか、は誰も知らないことだが、どちらにしても距離が遠いことは確かであり、帰ろうと思ってもなかなか帰ることが出来るものではなかった。
3人の答えを聞き、ファールは『ふ~ん』という顔をしてから再びだらしない格好でエールを飲む。
「……で、あんたは?」
一口、二口エールを口に含んでからファールは妹に向き直った。
彼女たち姉妹の実家はリルガミン近郊であり帰省しようと思えばいつでも帰省できる距離にある。
またファールは家出した、という経緯があるものの妹にはそのような事実はない……ないはず、少なくとも妹の性格から考えて……ため彼女だけでも家に戻るのが筋のはずだった。
「あら、お姉さまだって私の家族ですわ。一緒にいてもおかしくないでしょう?」
ミルーダはにっこりと笑って切り返す。そこには邪気などかけらもなかった。姉妹の家には大勢の使用人がおりミルーダが帰らなくてもにぎやかであるはずだった。ならば姉の側にいたほうがいい、という判断なのであろう。
「あ、そいえばケイっちゃんは?」
レイラが気づいたように周りを見回す。
「だってあいつは弟たちいるじゃん。一緒にすごしてんじゃねぇかなぁ?」
シガンの答えに納得するレイラ。だが……
「すっ、すいません、遅れました」
聞きなれたケイツの声にパーティメンバー全員が振り返る。
そこに雨の雫を払いながらケイツが立っていた。
「外もずいぶん小降りになってますよ。ミサの時間帯には雨もあがってるかもしれませんね」
よいしょ、といいながら椅子に座るケイツ。
「あ、や……それはいいんだけど……なんであんたここにおんの? 弟さんたちは?」
呆然としながら尋ねるファール。
ケイツはその言葉に照れたように笑う。
「あ、弟たちはですね……あれ?」
振り返り間抜けな声を出す。
「みんな、こっちよ! お姉ちゃんの大事な仲間さんだから失礼しないようにね!」
酒場の入り口で固まっていた3人の子供に声をかけ……パーティメンバーの前に並ばせた。
「えっと、連れてきちゃいました」
照れたように笑う。
「おー、そうかそうか。にぎやかなのはいいことだな」
カザルが歓迎してみせる。
「みんな、自己紹介なさい」
「えっと……ボックです。いつもお姉ちゃんがお世話になってます」
お姉さんの顔になったケイツの言葉に促されるように3人の中ではもっとも年長なのであろう少年がまず口を開く。
「ミウーです」
「ミカーです」
次に口を開いたのは男女。すごくよく似ている。
「ミウーとミカーは双子なんです」
ケイツが解説した。
「お姉ちゃんにはお世話になってます。ミルーダです。よろしくお願いしますね」
ミルーダが目線を合わせるようにしゃがんで握手を求める。その手をおずおずと、まずボックが、そしてミウーとミカーも握り返す。
それを皮切りにメンバーのほうも自己紹介をはじめ、カザルはカウンターに向かって子供用の高い椅子を注文した。
その様子をほほえましそうに眺めていたケイツは不意に窓の外に目をやる。
「あ、雨あがりましたね」
「おー、やっぱナタルはそうじゃなきゃね!」
ファールがグラスをあげてみせた。
リルガミンではめったに雪が降ることはないが、だからといってこの聖なる夜の雰囲気が損なわれるわけではない。
「フェリスナタル!」
カザルが大声で祝杯を挙げた。

PR
【2006年12月25日00:12 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
フェリスナタル! クリスマス特番ですよー!
ってわけで今回のタイトルはバージニア・オハンロンの手紙から! これは『サンタクロースっているんでしょうか?』で有名だと思います。

今回はポルトガルの風俗を交えながらクリスマス書いてみました。ほとんどポルトガル語です。
まぁ、たまにはいいよね、こういうのも。

ではみなさん、よい聖夜を!
【2006年12月25日 00:16】| | 上杉霧音 #9a7c4e74d0 [ 編集 ]
コメントの投稿













トラックバック
トラックバックURL

前ページ | ホーム | 次ページ

忍者ブログ [PR]