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【2024年04月20日14:02 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その29

「なにか調べるあてとかってあるんですか、レイラさん?」
「ないっ!」
不安そうに聞くケイツにレイラは上機嫌に答えた。答えたまま足を止めない。
どこへ歩いていこうというのか。


大物の船櫓はうら波競ふ猛將の忠臣


「あの……まともに情報収集とかしま……レイラさん?」
前を歩いていたレイラに注意しようとして……ケイツは急に立ち止まったレイラを見た。
どうやら前を見てるようだ。
私が後ろ歩いてるのにぃ……
若干憤慨しながらレイラの正面に回る。
「レイラさん、聞いてくだ……!」
ケイツはレイラの顔を見て発しようとした言葉を飲み込んだ。
レイラの顔に浮かんでいたのはあまりにも純粋な驚愕。
「ひ……姫将軍閣下?」
レイラの視線を追うケイツ。
1人の……50歳なかばくらいであろうか、上品そうな身なりの金髪の婦人。
レイラとケイツの視線に気づいたか、婦人が2人のほうを向き、恐らくレイラを見て、だろう……少し驚いた顔をしたあとにっこりと微笑んだ。
「お久しぶりですね……立ち話もなんだからどこかでお茶をしたいのだけど、どこかいい場所はあるかしら?」
2人に近づきながら笑いかけ、場所を聞くのに小首をかしげる婦人。
「は、はいっ! ご案内しますっ!」
レイラが大声で宣言した。ケイツが珍獣でも見たような顔をしてレイラを見た。

ケイツはテーブルについた婦人を観察する。
白い肌と青い目。どこかの貴族なのだろう、しかしどこまでも柔らかい雰囲気を持っていた。
「リルガミンは久しぶりだから迷ってしまっていたのよ。恥ずかしいわ」
困ったように微笑む婦人。レイラは石化したように背筋を伸ばしている。それが珍しいようにケイツは婦人とレイラを順番に眺めた。
「ひ、姫将軍閣下がなぜここにいらっしゃるのですか?」
「もう、いやだわ。レイラさん、ここは城塞ではありませんよ。誰に聞かれるともわかりませんし、その呼び方はやめてください……レイラさんだって姫殿下と呼ばれたくはないでしょう?」
いたずらっぽく笑い、そして婦人はケイツのほうを向いた。
「それよりこちらの方を紹介していただきたいわ」
「あ、はい! これはケイツです!」
即答するレイラ。相当緊張している。
「……でも『これ』はないですよねぇ」
明後日の方向を向きぼやくケイツ。
「ふふふ、レイラさんのお仲間の方なのね……私はアデレード・フォン・ショーンガウアー。長いでしょう? だからアデールって呼んで頂戴ね」
笑みを浮かべて握手を求める婦人。その名前にケイツは思わず婦人……アデールの顔を見上げた。
アデレード・フォン・ショーンガウアー。その名は魔術師として師についていたころ、歴史上の人物として教わっていた。
狂王トレボーの腹心の1人であり、一時期その狂王から不興をこうむりワードナの迷宮の探索を命じられ……後世の史家は『狂王は腹心中の腹心をわざと死地に置いたようにみせかけ、その後、彼女に接触した人間を逆賊として処断していったのであろう』と推測している……見事にワードナを打ち倒し魔よけを城塞に持ち帰って以降は、選定侯たちによるトレボー王暗殺、各地の反乱とその中で実父ヘンドリックの戦死……彼こそがトレボー暗殺の計画者であった、という説もある……など数々の試練を乗り越え、城塞を繁栄させ続けたロードの中のロード。
後世の史家に言わせれば『彼女はいつでも王位を僭称し、しかもそれが支持される位置にいた。しかし彼女はそれをまったくしなかった……これこそがアデレード・フォン・ショーンガウアーのもっとも素晴らしいところであるといえる』と絶賛されるリビングレジェンド。
城塞の守護者、猛き姫、金髪の美将軍……幾多の二つ名に含まれる賞賛と畏怖。
それが彼女、アデールだった。
「あ、は、はいっ! ケイツですっ!」
握手に差し出された手を両手で握る。
「ふふっ、よろしくね、ケイツさん」
あたふたするケイツ……あたふたしながら、それでもなんとか頭は働いていた。
「あ、で、でも……かっかー、じゃなくてアデール様は、なぜこちらに?」
アデールは城塞の人間。ここはリルガミン。
現在は休戦協定が結ばれ、表面的には友好的であるとはいえ潜在敵国であることにはかわりない。
「あぁ、昔のなじみと久しぶりに旧交を暖めにきたのだけれど……」
ほぅ、と外を見て溜め息をつくアデール。若いころはその美貌で幾人もの人間を虜にしたのだろう、と思えるほど色っぽい。
「……なかなかだめね。ここまできて彼にどんな顔をしてあえばいいのかわからなくなってしまうの」
30年ぶりだものね、と肩をすくめてひっそりと笑うアデール。
30年ぶり……彼女がワードナの迷宮に潜っていたころの時期であろう。恐らくはその戦友がこの街にいて、ということなのだろう……アデールは懐かしそうに目を細める。
「レイラさん、失礼を承知で言わせていただくわ」
アデールがそのままレイラに語りかける。
「いいお友達をたくさん作りなさい。そして貴重な体験をたくさんさせてもらいなさい……その経験はきっとあなたが生まれた街のためにもなるでしょう」
生まれた街のため……きっとトレボー王家の血を引くものとして立派な為政者になれ、といっているのだろう。レイラは苦笑を浮かべてアデールに答えた。
「……それはガラじゃないです。友達はたくさんできましたし、いい経験もさせていただいてますけどね」

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【2006年12月26日00:27 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
はい、今回のタイトルは義經千本櫻~。

ってわけでアデール閣下の登場です。ゲストとしての登場を快く許可してくださったりこぴんドロップス様には深い陳謝を!
というか私じゃアデールを生かしきれんかったよ! もうご本人様の描かれるアデールは美麗でねぇ、えぇ……
とりあえず気になった人は本家へGO!
http://olddominion.easter.ne.jp/index.html

あ、ちなみにアデールにとって30年ぶりの人、ってのは……えぇ、まぁ、その人ですよ。えぇ。
【2006年12月26日 00:31】| | 上杉霧音 #9a7c4dd1c8 [ 編集 ]
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