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【2024年04月26日21:52 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その31

「ここって……どういう階層なんだよっ!?」
前触れなくファールがぶち切れた。
気持ちはわかる。
ここ、奥の院第5層は外側にダークゾーンやら落とし穴、そしてテレポーターやらの存在する通路。
どうやら、中央部分があるようなのだがそこへの道がわからない。
「これ、邪魔だと思わないっ!?」
ファールが憎々しげに自分の後ろにあるであろう壁を手の甲で叩く。
「……俺、邪魔か?」
叩かれていたのは壁ではなくカザルだったわけだが。


大和歌は、天地未だ開けざるより其のことわりおのづからあり


うざったいほどの落とし穴とダークゾーン。
そしてなにより……

「あひぃぃぃぃぃぃっ!?」
ファールが叫び声をあげる。
目の前には一見して蜘蛛……老人の顔が頭に当たる部分についていて、また人間よりも大きい動物をそう呼ぶのならば、だが。
間違いなく魔性の静物であった。
「糸ーっ!? 糸がーっ!?」
蜘蛛の糸に絡めとられて大はしゃぎのファール。体中が糸まみれで満足に動くことすら出来てはいない。武器を抜くなどもってのほかである。
天井からの奇襲によって動きを封じられたのが1人、というのはまぁ、運がよかったといえよう。
しかしムラマサという、近接戦最大火力を失ったのはパーティにとって大きな痛手であった。
「にちゃにちゃするーっ!?」
「なにやってんだ、お前はー!?」
思わずツッコもうともしたが戦闘中であり、満足なツッコミも出来ない。まぁ、ファールのほうでもそれを期待はしていないだろうが。
「あぁもう! 仕方がねぇな!」
「うぅ、すまん……」
ハルバードを構えたシガンが前に出る。
「せッ!」
そのまま鋭い突きを放つものの魔物はあざ笑うかのように横に避けた。なかなか素早い。
「むっかぁー!」
そして横に避けながら『キキキっ』と鳴く。
「うわぁ!」
後ろに下がったはずのファールが叫び声をあげた。
「どうした!」
「いや、仲間が出てきた……こっちから」
後方から出現した蜘蛛の魔物の前足での攻撃を糸に絡まったままで身をよじって避けるファール。なかなか器用ではあるが、そう何度も出来ることではないだろう。
「ちっ! 私はこっちぃ!」
レイラが後方に下がり突きを放つ。簡単に避けられたものの敵の目を釘付ける、という意味では成功であった。
「中原父老莫空談……バコルツ」
「麗宇芳林對高閣……ディルトです!」
ケイツが相手の呪文を封じる魔法を、ミルーダが敵の足を止める魔法を唱え蜘蛛の動きも鈍ったように見える。が……
「それでも2匹だもんなぁ」
カザルがぼやく。
シガンが前衛として戦えるとはいえ、挟み撃ちされている状況。しかもファールはほぼ戦線離脱状態だ。
カザルがカシナートの剣を繰り出すと蜘蛛は避けようとする、が……
「ぎぎぃ!」
ミルーダによって素早さを奪われた敵の皮膚を切り裂いた。あたりに緑色の体液が飛び散る。
「ちッ! 浅い!」
しかしカザルも歯噛みをした。さっきのは致命傷でもなんでもない。逆に敵を怒らせてしまっただけだ。
「ぎちぎちぎち……」
不気味に歯を鳴らすカザルの前にいる蜘蛛。その瞬間、パーティを猛烈な吹雪が襲った。
「ラダルトっ!? こんな高位の魔法を使いこなすなんて!」
ケイルのバコルツの障壁をものともせず、現れたその効果にミルーダはすぐに回復魔法を唱えだす。
「レイラ! 後ろのやつなんぞとっととクリティカルで沈めて、こっちのフォローに回ってくれ!」
クリティカル……ニンジャのみに伝わる相手の急所をつく致命的な一撃。
「そんな簡単に出るもんじゃ……でちゃった」
グチりながら蜘蛛の頭に手刀を落としたレイラがかわいい声を出した。
狙っていなかったくせに、手ごたえは完璧なクリティカルヒットだった。後方の蜘蛛は一撃で沈む。あとは前方の1匹……
しかし後方の1匹が死んだことで動揺しているのか、その動きは著しく鈍い。
「今度こそっ!」
シガンの繰り出す二度目のハルバード。それで決着がついた。

「いやぁ、ごめんごめん」
苦笑しながら糸からようやく開放されるファール。
「ま、さっきのは仕方ねぇけどな」
苦笑で返すカザル。
延々と周囲を巡っているパーティにも彷徨う悪魔たちは容赦をしない。前に進んでいるのかいないのかすらわからない中での無意味ともいえる戦闘……これが冒険者たちの今、一番の敵であるといえた。
無意味であるがゆえに出来る限り避けたい……しかしなかなか相手も逃がしてくれない。そして敵の強さもハンパではなく、常に死と隣り合わせ。この状況に精神をすり減らさぬものなどいないのだから。
「あー、うわ」
糸から開放されて立ち上がったファールがふらふらと立ち上がる。
「うげ、平衡器官狂ってるみたい……」
「おいおい、大丈夫かぁ?」
ふらふらとするファールにシガンが呆れたような声を出す。
ふら……バターン!
音を立ててファールが消えた。いや、消えたのではない。手をつこうとした壁が消えて、ファールがその奥に倒れたのだ。
「シークレットドアか……ファール、でかした」
カザルが感心したように言う中……
「ふにゅう……」
ファールはお尻を突き出した格好で倒れ、かわいい声を出していた。

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【2006年12月28日01:00 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは風雅和歌集。和歌集の序文はこんなんばっかですね。

さて、何気に純正なWizとしての戦闘シーンは初めてじゃね? とか思うわけですが。ほら、今までのはなんだかんだでまじりっけありましたし?
まぁ、ファールが役に立ってないのもご愛嬌。男は度胸。関係ないですか。そうですね。ではまた。
【2006年12月28日 01:03】| | 上杉霧音 #986e0d3ccc [ 編集 ]
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