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【2024年04月26日02:24 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その30

翌日、パーティの集合場所。
レイラが伴った婦人にケイツ以外のパーティメンバー全員が『誰これ?』という目を向ける。
「あなたがリーダー?」
婦人……アデールが背負っていた皮袋を地面に置き、カザルのほうを向く。


いたづらに明しくらす春秋は


「えぇ……?」
アデールの意図がつかめず、返事をしたもののいぶかしそうな口調のカザル。
その瞬間、アデールが動く。

アデールはカザルの腰の剣を引き抜き斬りかかった。

無手、と油断させておいてのいきなりの行動。しかも相手の腰の剣を抜くことで相手の武器を封じることになる。
しかしカザルの行動も早かった。
アデールの抜き手を止めることは出来なかったものの、斬りかかられる前にその間合いから離脱する。
それは一瞬の攻防であった。
「……」
「……ふふっ」
斬撃を避わされたアデールは笑みを漏らす。カザルが間合いをはずしたのは自分がなんとかしなくてもパーティメンバーがアデールを倒してくれることを信じているからだ。
それはチームとして完成されていることの証明であろう。
自分が迷宮に潜らなくなり、年月が剣を振るう敏捷性の翼を奪っていたとしても、先ほどの一撃は紛れもなく今の彼女にとって最高の一撃だった。それを避けることの出来るリーダー。そしてこのチーム。
「ごめんなさいね、試させてもらったの」
笑顔で剣を返却するアデール。
「レイラさんは、私たちの国にとって大事な人だからね」
「あぁ、なるほど」
カザルが少し呆然という。
レイラはリルガミンの王族なのだから当然彼女に死んでもらっては困るものも存在するだろう。だからそれとともに行動するものがどの程度の腕なのか、試す気持ちはよくわかるし、カザルはそれに対して怒りなどまったく感じない。
自分が武門の生まれであったがゆえに『あらゆるものを武器として使え。女に生まれたからには体すらも武器とせよ』という教えは頭の中に当然のこととして根付いていた。
アデールの斬撃に反応できたのもその外見に惑わされることがなかったのもひとえにそのころの教えの賜物である。
「合格ですかね?」
「ぎりぎり不合格、ね」
カザルの問いにアデールは簡単に切り返す。
「道具にこだわれ、とは言わないけどこの剣で守れるものはあまりにも少なすぎる」
カザルの剣はボルタックでも取り扱っていないような本当に安物の剣であった。
「あぁ……いや、子供のころから『道具にはこだわらないよう。その場にあるものを武器として使え』って育てられたもんで」
苦笑を浮かべるカザル。
「それにしてもあまりにもひどいわよ、これは……だから……」
アデールが地面に置いた皮袋に手を入れる。
「これを差し上げるわ」
その中から取り出した一振りの剣。
「……こりゃあ」
カザルはアデールから剣を受け取り、鞘から抜いてその剣の奇妙な形に唖然とする。
回転しそうな3本の刃。その刃はあくまで鋭く、こんなものが回転していたらと思うとぞっとする。
「カシナートの剣よ」
「これが……」
その愉快な形状に反比例するような恐ろしい威力を秘めた武具。ワードナの迷宮においては戦士にとっての最高の武器と呼ばれた逸品であった。
「こんなものを、どうして……」
「言ったでしょう? このレイラさんは大事な体ですから帰ってきてもらわないと困るの。あなたの武器がよくなれば彼女が生きられる確率は上がるでしょう?」
アデールがいたずらっぽく笑う。
「武器による生き残りの確率なんてもんは、ほんの微々たるもんだと思いますが……」
「あら、命にかかわる確率だもの。少しでも上げておくに越したことはないでしょう? ……だから、それはあなたを試すなんて無礼を働いた私の謝罪とでも思って受け取ってちょうだい」
カザルの苦笑交じりの発言にアデールは小首を傾げて答える。
「わかりました。いただいておきます」
カザルは笑って剣を受け取った。

アデールを見送り……そして一行は迷宮の中へと入る。
「レイラ……お前、怖い知り合いがいるなぁ」
「あの人……今でも私が頭が上がらない人よ」
カザルがグチのようにこぼしたセリフに、レイラは真顔でそう答えた。

奥の院。
ケイツがデュマピックを唱える。
「……第5層、なぁ」
シガンが目を細めて頭上に浮かぶ地図の地形を見た。
「ダバルプス呪いの穴の5層から奥の院の5層にきた、ってことは……対応してるんでしょうか?」
ケイツも自分が唱えたデュマピックの効果を見ながら呟く。
「まぁ、5層っていうくらいだから、この上に最低でも4つ階層があるってことね……この下に第6層があるなんて考えたくもないわ」
肩をすくめるファール。
「まぁまぁ、この上に4つの階層があったとしても敵の大ボスが一番上にいるとは限らないんだし?」
ポジティブシンキングのレイラ。
「とりあえず今はこの階層の探索を進めましょう」
正論のミルーダ。
確かにバランスの取れたいいパーティだ。誰が1人欠けても成り立ちはしない。
「よし、いこうか」
カザルは腰からカシナートの剣を引き抜き、宣言した。

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【2006年12月27日03:36 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
タイトルは中務内侍日記より。

さて、前回に引き続きアデールさん登場ですが、これはあんまいい役どころではないね、一般的に。
いや、私、こういう試し役ってダイスキなんですよ、カザルにも代弁させてますけど『気持ちはわかる』んでね?
ただまぁ、世間一般ではあんまいい印象がもたれる役ではないなぁ、と。うん。

いあ、アデール閣下にはこれっぽっちの悪意もないですよ?
【2006年12月27日 03:39】| | 上杉霧音 #9379ebe9d6 [ 編集 ]
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