忍者ブログ
[PR]
×

[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。

【2025年03月04日08:41 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その13

「そういえばユーウェイさんが引退したそうだな」
マリクが『どうでもいいことだが思い出した』とでもいうような口調で話しかける。
第6層。
マリクたちのパーティがこの場所でキャンプを開いていた。
傍らにはハタモトたちの死体。血臭が鼻につく……が、それも悪くないとマリクは思っていた。


もの思ふことのなぐさむにはあらねども


第6層。
このマップもすでにずいぶん埋まりつつある、が、悪戒律である彼らのパーティは先を急がない。
恐らくここから先に進めばタイロッサムがいるのだろう。
だが……叛逆者? 国家の命運? そんなものを気にしていてなにになるというのだ。
近衛兵に取り立て? そのような堅苦しく王宮に束縛される生活などこちらからお断りである。
報奨金? そんなはした金などを得て満足するようなものなどいはしない。
タイロッサムは今も必死にモンスターたちを召還し続けているであろう。そしてモンスターたちはときに他のパーティを全滅させその持ちアイテムを奪い去り、ときにタイロッサムから与えられるアイテムを活用し、そのまま彼らのパーティに打ちかかっていき……返り打たれる。
そのマジックアイテムを売り払うだけで巨額の富を得ることが出来るのだ。
いつかは自分たちが正義と信じているお節介な善戒律のパーティ……カザルたちのパーティかもしれないし、それ以外のパーティかもしれない。もしかしたら目先の金と1ゴールドの価値すらない名誉に目がくらんだ悪戒律のパーティかもしれない。だがそんなことに興味はない……によってタイロッサムが打倒され、この迷宮からモンスターも駆逐され……当面の金づるを失う日も来るだろう。
だがそのときはそのとき……
今はただ得られる富のことだけを考えていればそれでよかった。
今のマリクたちには迷宮を小遣い稼ぎの場として考えることが出来るだけの実力があったのだから。

「あぁ、聞きました聞きましたぁ。ディーにお別れの言葉もなくいなくなっちゃうなんて失礼なおじさんですよねぇ」
マリクの言葉に一番早く反応したのはエルフの魔術師、ディーナだった。
「おや? ディーはユーウェイさんのことを気に入っていたのかい?」
マリクがからかうようにいう。
「えぇ、好きでしたよぅ……頑丈そうで。いくら殺しても死ななそうじゃないですか。お人形さんにはぴったり、ですよねぇ」
無邪気に笑う。だがメンバーは少女が人形と称した幾人もの男を奴隷として使役しており、また飽きた奴隷を殺していることも知っていた。死体が見つかったことはまだない。少女がどのような方法で死体の処理をしているのか、知っているものはいない。
「こえーこえー……でもおっさんいなくなったってほんとぉ? 初耳なんだけどぉ」
「本当ですよぉ。ハロゥもおじさんのこと知ってるんですかぁ?」
無邪気に笑う……仮面の裏で獲物の横取りを警戒する視線を投げかけながらディーナが半裸の神官、ハロゥに問いを向ける。
「知ってるもなにも……今のこのパーティになる前、私がリルガミンに到着してはじめてパーティ組んだのがおっさんだったからねぇ」
「あら、そうだったんですかぁ」
意外そうな顔でハロゥを見つめるディーナ。
「ま、半年くらい前の話さね。そんときの縁で……ま、いろいろ稼がしてもらったしね」
ハロゥはカザルのパーティの癒し手であるシガンが成長するまでの間、パーティが傷ついて帰還したときの回復呪文を有料で請け負っていた……のだが……
「それだけじゃなさそぉですねぇ?」
笑みを含みながらディーナがハロゥの顔を覗き込む。
「カザルって意外と上手なんよ」
ハロゥはうふふ、と笑いながらそう言った。
「あー、ディーもいい男見つけたいなぁ……ドルツ、あなたそんだけ図体大きいんだからあっちのほうもいいんでしょうねぇ? 今度どうですぅ?」
少女らしい無邪気さで……ディーナはとんでもないことをいう。
「お、おでは……いい」
ドルツは一瞥だけして、すぐに明後日の方向を向く。
この醜男の巨人は……しかし鋭い視線であたりの警戒を怠っていなかった。
「だめだめ、ドルツはあのエルフちゃんにぞっこんだからね」
「あぁ、残念ですねぇ」
ハロゥのフォローにディーナは真っ赤な顔になってぶるっと震えた。
そのドルツがエルフちゃん……ファールが殺された瞬間に立ち会ったならば、どれほど狂うことだろう。それを想像しただけでエクスタシーを感じてしまったのだ。
「おっちゃんは? なんか感慨とかないの?」
ハロゥは今まで一言も発していなかったニンジャ、ゼムンに声をかける。
「私は、それほど付き合いが長かったわけでもなかったですしねぇ。2、3度お酒にお付き合いしたくらいでしょうか」
隙がある、ない以前の話なのであろう。ゼムンは存在すら感じさせず、ただそこに立ったまま答える。
このさえない中年の男が今までなにをし、なにを求めてリルガミンへやってきたのかを知っているものはいない。
当時このパーティのメンバーでありマリクの恋人であったレイラが抜け、偶然にもそのときに街へと姿を現したゼムンがパーティ入りすることになる。最初はただの人数あわせだった。危なくなれば捨石くらいの役に立てばいい、という。しかし今では立派な主力であるといえる。
「よし、無駄話はそこまでだ。そろそろいこうか」
メンバーに声をかけてマリクが立ち上がる。
今日はまだ剣に血を吸わせ足りていなかった。

PR
【2006年12月09日22:12 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その12

「きゃっ」
魔法の炎にひるんで後退するミルーダを横から突き飛ばしてファールが突進する。
「ぼんやりすんな、新入りぃッ!」
そのままカタナを袈裟に斬りおろす。
「……これが……戦場」
モンスターの断末魔を聞きながらミルーダは呟いた。


呉竹の一夜に春の立つ霞


「それでは達者でな」
3日間にも及ぶギルガメシュの酒場での別れの宴を経て、その言葉とともにユーウェイが実家へと帰っていったのが今朝のことだ。
ダンジョンに潜っているのに達者もなにもないもんだ、とそのときはそう思っていたのだが……
あれは自分に対しての言葉だったのだ。
第3層。パーティは名を失われた古代神を祀る地下寺院周辺でロードに転職したばかりのシガンとビショップになったばかりのミルーダに戦い方を教えていた。
戦争に敗れこの迷宮に逃げ込んだまま、迷宮の闇に飲み込まれてそのままモンスター化してしまったサムライ、落ち武者を倒し、その戦闘後、パーティはキャンプを張っていた。
自分と同じ立場であるはずのシガンは戦闘での役には立たなかったものの自分のすることだけは理解しており、立派に戦闘に参加していた。
では自分は……
しゃがみこんだままうつろな表情を石の床に向けるミルーダ。
「ミルーダちゃん、初陣おつかれ~」
シガンがにぱっと笑いながら声をかけてくる。
「いやぁ~、つらいもんだねぇ。やっぱもうちょっと慣れるまでなんもできんわ。ここは一発我々、ムノーモノ同盟を結成し、一緒にショージンすべきだと思うんだけどどう?」
明らかに使い慣れない言葉を無理して使いました、という発音でシガンが笑う。
「シガン様は……ご立派でしたよ」
ミルーダも無理して笑いながら言う。
多少は自分にだって才能があると思っていた。姉の役に立つ、どころか姉に必要だといってもらえると思っていた。それがこのざまだ。
なんの役にも立たないのならまだいい。だが自分は明らかに足を引っ張っていた。
ミルーダの笑みに自虐的なものが混じる。
「……いやいや、いかんよ、ミルーダちゃん。最初は誰だってそんなもんだって。むしろ上出来じゃねぇ?」
その言葉にもミルーダの表情が明るくなることはない。
「……ぅー……ほら、あれだ。俺なんてすごいよ? はじめて迷宮に潜ったとき! 急にションベンしたくなっちゃって、そこらへんでやってたらそこをモンスターに襲われちゃって……パーティメンバーが必死になって戦ってるから俺だけパンツの中にしまうのもあれなんで出したまま呪文唱えてたんよ? ぶら~んって! きゃー! 俺、恥ずかしーっ!」
大げさな身振り手振りで必死にミルーダを笑わせようとするシガン。
だがそのエピソードは当時ビショップ、現役ロードとしていかがなものか。明らかに人の模範となるようなエピソードではない。
「ぶら~んって出したままだったからモンスター、というかイヌみたいなヤツだったんだけど噛まれるところでした! これは危ないよ! マジ危ないですよ! どうして危ないとこだったか説明したほうがいい!?」
そこまで説明するとセクハラである。
「それにひきかえミルーダちゃんはすごい! なぜならパンツからはみださせてない! 俺としてははみ出してたほうが眼福で嬉しいので、俺にとってはしょんぼりです! でも冒険者としてはすごい!」
すごいか?
「だからあれだ、自信を持とう! あ、おしっこしたくなったらいつでも言ってね」
ゴン。
後ろから近寄っていたレイラに殴られた。
「いてぇ! だろ! なにすんだ、レイラー!」
「はいはい、なにすんだ、とかじゃないの。というか変態かお前は……っと、ミルファちゃん、落ち着いたら鑑定お願いしていい? あんま無理しなくていいからね。はじめてなんだからいくら時間かけてもかまわないよ」
「くす……はいっ」
必死で下ネタを連発するシガンとやはり名前を間違えているレイラに、ようやくミルーダの口から笑みが漏れる。多少ぎこちないものではあったが……

ミルーダにアイテムを渡し、そのままファールに近寄るレイラ。
「ミルファちゃん、なんとかやれそうだねぇ」
「まぁね……あんだけ大口叩いてくれたんだからやってくれないようだったら指さして笑ってやるところよ」
ファールが憎まれ口を叩きながら、少し離れたところでミルーダとシガンを見る。
「素直じゃないなぁ」
にやにや笑いながらレイラがツッコミを入れる。
「……ボーイ・ミーツ・ガールって感じよね」
「あぁ~? シガンにゃミルファちゃんはもったいなくね?」
エロガキと清楚なエルフ。また種族もシガンは人間であり釣り合うものではない……とはいえ人間とエルフはもともと価値観もそれほど離れているわけではなく人間とエルフのカップルも珍しいとはいえ、存在しないわけではないのだが。
シガンとミルーダが何事か話しているのを見ながらファールがもらした呟きにレイラが眉をひそめる。
「でもいい雰囲気じゃん」
「ん~、それを認めるのはやぶさかではない。宗教家同士、息が合うのかね」
レイラの言葉に肩をすくめるファール。
「うちの実家の教義はニルダ神信仰よ。エロガキんとこはカドルト神信仰でしょ?」
「あぁ、教義違うのかぁ……じゃあ……」
ファールはやや苦笑を交えた仏頂面をする。
「なんか……将来的にエロガキのことを義弟って呼ぶビジョンが頭に浮かんじゃってねぇ」

【2006年12月08日15:16 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その11

「し、師匠っ! なんとか言ってくださいっ!」
「クフォー、こっちだ」
とかなんとかぎゃーぎゃーうるさい中、ユーウェイはそのとき入り口に所在なさげに立っていた少女に向かって大声を出していた。
「……ん?」
「どしたんだ、ファール? 微妙な表情で?」
妙な顔をするファールにシガンが問いかける。
「いや……クフォーってうちの実家の苗字なんだよねぇ」
「こちらでしたか、ユーウェイ様……ってお姉さまーっ!?」


行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず


「ミルーダ・クフォーと申します。ミルーダとお呼びください」
その小柄なエルフの少女は静かに頭を下げながら、ちらちらと姉と呼んだファールの様子を伺っていた。確かにその漆黒、という言葉がふさわしい黒い髪の色はファールとそっくりではあるが……
そのファールは、といえば仏頂面でエールのカップを傾けていた。
「……まぁ、冒険者引退は昔から考えておってな……というのも我輩の妻がな……」
「妻ーッ!?」
説明しようとするユーウェイの発言をさえぎってレイラが大声を上げた。確かにそれくらいショッキングな話題ではあるが。
「なんだ、いきなり大声を出して……まぁ、妻が妊娠中でな。もうじき生まれるらしいことを……それ、ここの店のウェイターたるカルーは我輩と同郷でな。聞いていたのだ」
「お子さんーッ!?」
再び叫ぶレイラ。いたのか、この人に、そんなもんが……
ユーウェイがこの街に来たのがおよそ半年ほど前なので妊娠したことがわかるかわからないか、というころからそれを放って旅を続けた、ということか。
一同は心の中で『側についててやれよ』と思った。
「ま、まぁ、そういう事情ならユーウェイさんのパーティ離脱は仕方ねぇな」
カザルがまとめるように言い、ユーウェイがうむ、と頷く。
そして……
「……バル、不機嫌だねぇ」
「……その名前で本人に呼びかけたらもっと不機嫌になりますよ」
こそこそとレイラがケイツに耳打ちし、ケイツも耳打ちで返答する。返答の内容はどうでもいいことだったが……
「なるほど、それでミルーダ……さんね。あ~……うん」
カザルも困ったような笑顔を浮かべる。
ユーウェイは再び腕組みをしたまま動かなくなる。
「よろしくっ!」
満面の笑みで歓迎していたのはシガンだけだった。エロガキだから。
「先日よりユーウェイ様にご指導を賜りまして本日、ようやく司祭位をいただきました。私などがお役に立つことが出来れば、と思い……」
「お~や~く~に~た~つ~?」
鼻で笑いながらファールがはじめてまともにミルーダの方向を向いた。
「迷宮のことをなんも知らん甘ちゃんがいってくれんじゃないの。あんたなんか第1層でオークに食べられて終わりだっつの。だいたいあんた、生き物を殺せるの? ……うちらが迷宮でやってるのはつまり、どんなに奇麗事を言ったところで生き物の生命を奪う行為だよ?」
刺すような視線を向けるファール。しかしミルーダはそれを笑って受け流す。
「殺せますよ、私にだって……自分の大事なものを守るためならモンスターどころか人だって殺せます……もちろんお姉さまだって私にとって大事な人です。そしてこの国も……」
にっこりと笑うミルーダにファールは再び仏頂面になりそっぽを向く。
「バル照れてるね」
「確実に照れてますね」
小声で囁きあうレイラとケイツ。
「あんたがなんでここにいるのか、とか……どうせあんたのことなんだろうから修行のためなんだろうけど」
「ご明察です。お父様もお母様もお姉さまが歌を歌いたいのならば、と今ではその道を止めることは考えていらっしゃいませんよ。私は……もともと神の道に進むことを子供のころから決めていましたし、その意味でも適材適所といえるでしょう……だからすべて終わったら顔を見せるだけでかまいませんから家に戻っていただけませんか?」
たおやかなミルーダの笑みにファールは『ふん』と鼻を鳴らした。
「まぁ、あれだ。決を採るか……ミルーダさんのパーティ入りに賛成のものは手を挙げろー」
悪い雰囲気ではないことに心底胸をなでおろしたカザルが発言する。
「はーい! はーい! ミルーダちゃんはかわいいので賛成でーす!」
ロードとも思えない理由で賛成するシガン。
「あ、あの……よろしくお願いしますね」
小声で賛同を表明するケイツ。今回はみんな聞いていた。
「よろしくねぇ、ミルファちゃん」
握手を求めるレイラ。でもさっそく名前を間違えている。
カザルはリーダー。ユーウェイは推薦者。
従って一同の目は揃ってまだ発言していないファールの方向に向けられる。
「な、なによ?」
少しびびりながらファールが口を開く。
「なにって、わかってんでしょおー?」
意地悪そうに笑うレイラ。
「ふん……エール。大至急持ってきてー」
気にせず注文するファール。
そして本当に大至急で運ばれてきたエールをテーブルの、ミルーダの目の前に置いた。
「飲んどけ、新入り。先輩からのおごりだ」
ファールは仏頂面のままそう言った。

【2006年12月07日16:38 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その10

転職の儀。
訓練所で行われるこの仕組みを知っている冒険者は決して多くない。
儀式自体はすぐに終わる。その職業の基礎知識を一瞬で冒険者に植えつけるための魔方陣の上に乗り、あとはしばらくじっとしていればよい。
その魔方陣は冒険者に精神的な負荷を強いることになるため、実際の年齢は変わらずとも冒険者として活動できる肉体年齢としては5、6年加齢されることになる。


祝へ大漁平戸の濱へ


そして今日、カザルたちのパーティからロードが誕生した。
「なんだよぅ、エロガキも成長してたんだねぇ」
「エロガキっていうなよぅ」
ファールのしみじみとした呟きに真新しい白銀の鎧に身を包んだシガンが抗議の声を上げる。
全員がギルガメシュの酒場に集い、祝杯をあげていた。
転職を行ったことによりシガンは知識や腕力など、すべての能力が大幅に減退していた……これもまた転職魔方陣の特性のひとつであった。
「で、なんかかわったんかー?」
カザルの質問に考え込むシガン。
「ん~、と……そうだなぁ。ディオスが使えそうな気がする」
「お前は元司祭なんだから当たりめぇだっつの」
他の誰がツッコミを入れるよりも早くカザルがツッコむ。
「んじゃあ……カティノも覚えてる」
「それも司祭の特性だ……というかロード関係ねぇ」
二度目のツッコミも早かった。
「ん~……あんまり実感ないんだよねぇ。ただ明らかに腕力は落ちたと思う」
手をぐーぱーぐーぱーと握りながら感触を確かめるようにシガンが言った。
「そうかそうか……まぁ、お前はしばらくは後列で徐々に慣らしていけ。とりあえずこの前拾ったハルバードを武器にしてりゃいい」
「う~い」
そのままカップのエールをちびちびとなめるように飲むシガン。
「……で、でもこれから鑑定が大変になりますよねっ?」
やはりテーブルに着いたままエールを飲んでいたケイツがカップから口を離して質問した……が、誰も聞いていない。
「はぅぅぅ」
泣きながらのの字を酒場の床に量産し……
「うわぁ」
「ぐあっ」
忙しそうに注文を他のテーブルにとりにいこうとしていたウェイターのひざに側頭部を直撃され悶絶するはめになった。
「なぁに遊んでの、もう~」
「……い、いえ、あ、遊んでるわけでは……決して……」
パーティメンバーたちが呆然とその状況を見守る中、ケイツはしばらくひくひくと死にかけのゴキブリのように蠢いていたがファールに手を借りながらふらふらと立ち上がり、目をしばたかせた。かなりグロッキー状態である。
案の定、テーブルについてからも前後に揺れている。その様子は風になびく夏草に似ていた。それほど爽やかなもんでもないが。
「……えっと……あれだ。舌とか噛まなくてよかった」
シガンが小さな幸せ探しをするが、ここでそれをする意味がわからない。
「……で、シガンが転職しちゃってさ。これから鑑定とかどうなるわけ?」
やはりお金は重要である……が、それは先ほどケイツも聞いていた。
「あぁ、それに関しちゃユーウェイさんがあてがあるらしい」
カザルが腕組みをしたまま微動だにしないユーウェイを見て言った。
「む? ……うむ」
自分の話題になったためユーウェイは一瞬薄目を開けるが問いに答えるとすぐにまた目を閉じた。
「いや、うむ、だけじゃなくて。あてっていってもどういうことなんです?」
歯切れの悪いユーウェイにいらいらしたようにレイラはその大きい肩を揺する。
「お、おぉっ!? ね、寝てないぞ」
……やけに静かだと思ったら寝てたのか。
「それで、なんなのだ?」
普通に問い返すユーウェイにレイラが呆れたような顔をし、再び問いを繰り返す。
「鑑定のあてって聞きましたけど、どういうことなんですー?」
「おぉ、その話題か」
納得したようにユーウェイは頷いた。
「うむ、最近のことだが我輩、訓練所に行く用事があってな。そこでいまだ訓練生ではあるもののなかなかスジのいい司祭候補の娘と知り合いになったのだ。あの娘も早ければ今日か明日にでも訓練所を卒業できるということでな」
一度言葉を切りエールを一口。
「まぁ、最初からはじめるということで序盤はあの娘も大変かもしれんが、それであればシガンも同様の条件であろう。我輩はその娘をスカウトすればよいと思っておる」
「なるほど、って……ダンジョンに一緒に潜れる最適人数は6人ですよ、師匠。ここには……1、2、3……」
レイラは人数を数えかけて、その指をゆらゆらと揺れるケイツのところで止めた。
「……戦力外通告?」
酷いことを言う。
「いや、我輩、冒険者を引退するし」
「なるほどぉ」
さらっと答えるユーウェイにさらっと頷くレイラ。
「……」
一瞬テーブルが静まり返り……
「ゆ、ユーウェイさん、どういうことですかーッ!?」
と、食って掛かるカザル。
「し、師匠っ!?」
と、目を白黒させるレイラ。
「そんな大事なことさらっというなー!」
と、わめくシガン。
「え? なに? ……どっきり?」
と、きょろきょろと辺りを見回すファール。
ケイツはいまだふわふわしていた。

【2006年12月06日23:29 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その9

真新しいブーツの紐を結ぶと気持ちがきりっとしたような気がした。
今日からは今までの素手に頼った戦い方ではなく、武器の能力をフルに生かしていかなければならない。
「よしっ」
レイラは自分の頬を叩き、気合をいれた。


かくありし時過ぎて、世の中にいとものはかなく


「へぇ」
「ふむ」
買い物に付き合っておらず、レイラが装備を揃えたことを知らなかった男たちはレイラが待ち合わせ場所である街外れに姿を見せたときに揃って声を上げた。
「いや、なにその微妙なリアクション~。もっとほら、こう、あるでしょ? かわいいね、とか。きれいだね、とか。ナイスだね、とか」
「寝癖がついてるね、とか?」
朝からテンションが高いレイラに後ろから遅れて姿を見せたファールが声をかける。
「うそっ!? ついてる」
「んにゃ、ついてない。おはよう」
やや眠そうに朝の挨拶をパーティメンバーと交わすファール。
「なにそれなにそれぇ。感じ悪ぅい」
ぶー、と唇を尖らせながらレイラがわめく。それを昨日のうちにおごってもらった真新しい緑のローブに身を包んだケイツが呟いた。
「……朝から血圧高いですね」
「……人を病気扱いしないでもらえるかな、ケイっちゃん」

鱗の生えた馬……のような蛇のような……微妙な生物、マウモリスクが炎のブレスを吐き出そうと息を吸い込む。
「にゃろっ!」
ブレスを吐かせてなるものか、とばかりにシガンがモーニングスターを叩きつける、がやや浅い。
ひるみはしたもののマウモリスクはブレスを吐き出した。

「うっげぇ、ちりちりするぜぇ~」
ぴりぴりとする火傷のあとを指で引っかきながらシガンは顔を歪める。
マウモリスクは一度のブレスを吐いたあとカザルの剣によって斬り伏せられていた。
「まぁ、しゃあないしゃあない。ほら、ブレスだってシガンが馬の体力削ったおかげで多少は弱まってた……はずだし」
レイラがフォローを入れるが歯切れが悪い。
ブレスを吐かせる前に倒してしまうのがやはりベターだからだ。
「司祭であるならば、まずは攻撃よりも防御を考えるべきである……倒すことなど前衛に任せておけばよい、っと……ほれ、鑑定を頼むぞ」
器用にワナをはずしたユーウェイがアイテムをほおり投げる。
「うわはぁ……う~ん」
よくわからない叫びを上げながらそれでもアイテムを受け取り、それに意識を集中する。
「……ハルバード、かな」
一見、長柄の槍。だがその横に斧状の刃が飛び出しその武器の殺傷力を上げている。
「う~ん、これなら……」
シガンは小さく呟いた。

「カザル、ユーウェイ、ちょっと時間いいかな? 相談があるんだ」
その日の探索を終え、地上に戻り思い思いのオフを楽しもうとするパーティメンバーにシガンが声をかけた。別にレイラ、ファール、ケイツがいてもよかったのだが、すでに彼女らは立ち去ったあとだったのだ。
「おう。んじゃあ酒場にでもいって悩める若人の話でも聞くかね……ユーウェイさんはどうします?」
カザルは軽く頷きながらユーウェイにも尋ねた……カザルはパーティ最年長者であるユーウェイに対しては敬語で話していた。
「うむ、それでかまわぬ」
「でも最近、ユーウェイさんって探索終わったあとどっかいっちゃってるじゃないですか? 女の子じゃないんですか?」
言外に待たせてもいいのか、と尋ねるシガン。
「女、であることは否定せんがな。まぁ、今日のところはよかろう」
否定しないのか……
シガンは少し驚いた顔で眉を寄せた。この黒人の巨漢と枕を共にする女の姿が想像できなかったからだ。

「で、なにを相談したいんだ?」
ウェイトレスにエールを注文し、カザルは自慢の金色のヒゲを手で撫でながらシガンに尋ねた。
「実は……」
「あぁ、ユーウェイさん!」
口を開きかけたシガンに被せるように後ろからユーウェイを呼ぶ男の声。ギルガメシュの酒場のウェイター、カルーである。
「ふむ……すまんが席を外すぞ」
ユーウェイはカルーの側に行き、なにかをぼそぼそと喋り始めた。深刻な話、ではないようだが……
「う~ん、まぁ、カザルだけにでも……実は俺、ロードになりたいんだ」
シガンはカザルに少し迷いながら打ち明ける。
「ぶっ」
「汚ー! 汚ー!」
エールが運ばれてくるまでの間、手持ち無沙汰にグラスに入ったガス入りの水を飲んでいたカザルはシガンの言葉に思い切り噴出した。対面に座っていたシガンは被害甚大である。
ロード……善戒律の冒険者であれば全員が憧れるであろう存在。戦士の腕力と僧侶呪文を使いこなすパーティの中核。ニンジャに並ぶ最高クラスの冒険者的存在、と言えるであろう。だがそれゆえに転職のために必要とされる能力は知恵や器用さなど多岐にわたり、またそれだけでなく運の強さのような目に見えないものすらものも必要なのだった。だが……
「能力は問題ないんだって……というか冒険続けてていつの間にか、俺もそれなりに育ってたみたい。ロードだったら体力だって今より高くなるし、今日のハルバードもそうだけど後列から攻撃できる武器だって豊富だろ」
シガンは眉間に皺を寄せながらカザルが噴出した水をハンカチでぬぐう。
「そうか……だが鑑定がなぁ」
「あぁ、そっかぁ」
カザルが難しい顔で呟く言葉にシガンも頭を抱える。
鑑定。これはビショップだけがそのアイテムの奥底に眠る『念』とでも呼べるものと同調することによって、その本質を探る技術であった。
未鑑定のアイテムはボルタックの店には引き取ってもらえないため、ビショップがいないパーティはボルタックで有料で鑑定してもらうしかない。その金額はなんと売値と同額なのであった。
しかしユーウェイがカルーとの話が終わったのであろう、近づいてきて言う。
「一応話はこちらにも聞き耳を立てていたので聞いていたのだがな。問題はない。シガンよ、転職するがよい」

【2006年12月05日15:49 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
前ページ | ホーム | 次ページ

忍者ブログ [PR]