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【2024年04月20日05:39 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その12

「きゃっ」
魔法の炎にひるんで後退するミルーダを横から突き飛ばしてファールが突進する。
「ぼんやりすんな、新入りぃッ!」
そのままカタナを袈裟に斬りおろす。
「……これが……戦場」
モンスターの断末魔を聞きながらミルーダは呟いた。


呉竹の一夜に春の立つ霞


「それでは達者でな」
3日間にも及ぶギルガメシュの酒場での別れの宴を経て、その言葉とともにユーウェイが実家へと帰っていったのが今朝のことだ。
ダンジョンに潜っているのに達者もなにもないもんだ、とそのときはそう思っていたのだが……
あれは自分に対しての言葉だったのだ。
第3層。パーティは名を失われた古代神を祀る地下寺院周辺でロードに転職したばかりのシガンとビショップになったばかりのミルーダに戦い方を教えていた。
戦争に敗れこの迷宮に逃げ込んだまま、迷宮の闇に飲み込まれてそのままモンスター化してしまったサムライ、落ち武者を倒し、その戦闘後、パーティはキャンプを張っていた。
自分と同じ立場であるはずのシガンは戦闘での役には立たなかったものの自分のすることだけは理解しており、立派に戦闘に参加していた。
では自分は……
しゃがみこんだままうつろな表情を石の床に向けるミルーダ。
「ミルーダちゃん、初陣おつかれ~」
シガンがにぱっと笑いながら声をかけてくる。
「いやぁ~、つらいもんだねぇ。やっぱもうちょっと慣れるまでなんもできんわ。ここは一発我々、ムノーモノ同盟を結成し、一緒にショージンすべきだと思うんだけどどう?」
明らかに使い慣れない言葉を無理して使いました、という発音でシガンが笑う。
「シガン様は……ご立派でしたよ」
ミルーダも無理して笑いながら言う。
多少は自分にだって才能があると思っていた。姉の役に立つ、どころか姉に必要だといってもらえると思っていた。それがこのざまだ。
なんの役にも立たないのならまだいい。だが自分は明らかに足を引っ張っていた。
ミルーダの笑みに自虐的なものが混じる。
「……いやいや、いかんよ、ミルーダちゃん。最初は誰だってそんなもんだって。むしろ上出来じゃねぇ?」
その言葉にもミルーダの表情が明るくなることはない。
「……ぅー……ほら、あれだ。俺なんてすごいよ? はじめて迷宮に潜ったとき! 急にションベンしたくなっちゃって、そこらへんでやってたらそこをモンスターに襲われちゃって……パーティメンバーが必死になって戦ってるから俺だけパンツの中にしまうのもあれなんで出したまま呪文唱えてたんよ? ぶら~んって! きゃー! 俺、恥ずかしーっ!」
大げさな身振り手振りで必死にミルーダを笑わせようとするシガン。
だがそのエピソードは当時ビショップ、現役ロードとしていかがなものか。明らかに人の模範となるようなエピソードではない。
「ぶら~んって出したままだったからモンスター、というかイヌみたいなヤツだったんだけど噛まれるところでした! これは危ないよ! マジ危ないですよ! どうして危ないとこだったか説明したほうがいい!?」
そこまで説明するとセクハラである。
「それにひきかえミルーダちゃんはすごい! なぜならパンツからはみださせてない! 俺としてははみ出してたほうが眼福で嬉しいので、俺にとってはしょんぼりです! でも冒険者としてはすごい!」
すごいか?
「だからあれだ、自信を持とう! あ、おしっこしたくなったらいつでも言ってね」
ゴン。
後ろから近寄っていたレイラに殴られた。
「いてぇ! だろ! なにすんだ、レイラー!」
「はいはい、なにすんだ、とかじゃないの。というか変態かお前は……っと、ミルファちゃん、落ち着いたら鑑定お願いしていい? あんま無理しなくていいからね。はじめてなんだからいくら時間かけてもかまわないよ」
「くす……はいっ」
必死で下ネタを連発するシガンとやはり名前を間違えているレイラに、ようやくミルーダの口から笑みが漏れる。多少ぎこちないものではあったが……

ミルーダにアイテムを渡し、そのままファールに近寄るレイラ。
「ミルファちゃん、なんとかやれそうだねぇ」
「まぁね……あんだけ大口叩いてくれたんだからやってくれないようだったら指さして笑ってやるところよ」
ファールが憎まれ口を叩きながら、少し離れたところでミルーダとシガンを見る。
「素直じゃないなぁ」
にやにや笑いながらレイラがツッコミを入れる。
「……ボーイ・ミーツ・ガールって感じよね」
「あぁ~? シガンにゃミルファちゃんはもったいなくね?」
エロガキと清楚なエルフ。また種族もシガンは人間であり釣り合うものではない……とはいえ人間とエルフはもともと価値観もそれほど離れているわけではなく人間とエルフのカップルも珍しいとはいえ、存在しないわけではないのだが。
シガンとミルーダが何事か話しているのを見ながらファールがもらした呟きにレイラが眉をひそめる。
「でもいい雰囲気じゃん」
「ん~、それを認めるのはやぶさかではない。宗教家同士、息が合うのかね」
レイラの言葉に肩をすくめるファール。
「うちの実家の教義はニルダ神信仰よ。エロガキんとこはカドルト神信仰でしょ?」
「あぁ、教義違うのかぁ……じゃあ……」
ファールはやや苦笑を交えた仏頂面をする。
「なんか……将来的にエロガキのことを義弟って呼ぶビジョンが頭に浮かんじゃってねぇ」

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【2006年12月08日15:16 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルはとはずがたり~。

なんかシガン、ただの変態やないですか、おい。

真・女神転生TRPG 井崎敏郎(ゼムン)
リストラされた中年サラリーマン。
その実態は自分の持つサイコメトリー能力が他の人にはない感覚だ、と理解できずに、他人との齟齬に苦しんでた人ですね。
奥さんとお子さんがいます、このキャラには。
【2006年12月08日 15:21】| | 上杉霧音 #9a7c4dd198 [ 編集 ]
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