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【2024年04月20日08:05 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その11

「し、師匠っ! なんとか言ってくださいっ!」
「クフォー、こっちだ」
とかなんとかぎゃーぎゃーうるさい中、ユーウェイはそのとき入り口に所在なさげに立っていた少女に向かって大声を出していた。
「……ん?」
「どしたんだ、ファール? 微妙な表情で?」
妙な顔をするファールにシガンが問いかける。
「いや……クフォーってうちの実家の苗字なんだよねぇ」
「こちらでしたか、ユーウェイ様……ってお姉さまーっ!?」


行く川の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず


「ミルーダ・クフォーと申します。ミルーダとお呼びください」
その小柄なエルフの少女は静かに頭を下げながら、ちらちらと姉と呼んだファールの様子を伺っていた。確かにその漆黒、という言葉がふさわしい黒い髪の色はファールとそっくりではあるが……
そのファールは、といえば仏頂面でエールのカップを傾けていた。
「……まぁ、冒険者引退は昔から考えておってな……というのも我輩の妻がな……」
「妻ーッ!?」
説明しようとするユーウェイの発言をさえぎってレイラが大声を上げた。確かにそれくらいショッキングな話題ではあるが。
「なんだ、いきなり大声を出して……まぁ、妻が妊娠中でな。もうじき生まれるらしいことを……それ、ここの店のウェイターたるカルーは我輩と同郷でな。聞いていたのだ」
「お子さんーッ!?」
再び叫ぶレイラ。いたのか、この人に、そんなもんが……
ユーウェイがこの街に来たのがおよそ半年ほど前なので妊娠したことがわかるかわからないか、というころからそれを放って旅を続けた、ということか。
一同は心の中で『側についててやれよ』と思った。
「ま、まぁ、そういう事情ならユーウェイさんのパーティ離脱は仕方ねぇな」
カザルがまとめるように言い、ユーウェイがうむ、と頷く。
そして……
「……バル、不機嫌だねぇ」
「……その名前で本人に呼びかけたらもっと不機嫌になりますよ」
こそこそとレイラがケイツに耳打ちし、ケイツも耳打ちで返答する。返答の内容はどうでもいいことだったが……
「なるほど、それでミルーダ……さんね。あ~……うん」
カザルも困ったような笑顔を浮かべる。
ユーウェイは再び腕組みをしたまま動かなくなる。
「よろしくっ!」
満面の笑みで歓迎していたのはシガンだけだった。エロガキだから。
「先日よりユーウェイ様にご指導を賜りまして本日、ようやく司祭位をいただきました。私などがお役に立つことが出来れば、と思い……」
「お~や~く~に~た~つ~?」
鼻で笑いながらファールがはじめてまともにミルーダの方向を向いた。
「迷宮のことをなんも知らん甘ちゃんがいってくれんじゃないの。あんたなんか第1層でオークに食べられて終わりだっつの。だいたいあんた、生き物を殺せるの? ……うちらが迷宮でやってるのはつまり、どんなに奇麗事を言ったところで生き物の生命を奪う行為だよ?」
刺すような視線を向けるファール。しかしミルーダはそれを笑って受け流す。
「殺せますよ、私にだって……自分の大事なものを守るためならモンスターどころか人だって殺せます……もちろんお姉さまだって私にとって大事な人です。そしてこの国も……」
にっこりと笑うミルーダにファールは再び仏頂面になりそっぽを向く。
「バル照れてるね」
「確実に照れてますね」
小声で囁きあうレイラとケイツ。
「あんたがなんでここにいるのか、とか……どうせあんたのことなんだろうから修行のためなんだろうけど」
「ご明察です。お父様もお母様もお姉さまが歌を歌いたいのならば、と今ではその道を止めることは考えていらっしゃいませんよ。私は……もともと神の道に進むことを子供のころから決めていましたし、その意味でも適材適所といえるでしょう……だからすべて終わったら顔を見せるだけでかまいませんから家に戻っていただけませんか?」
たおやかなミルーダの笑みにファールは『ふん』と鼻を鳴らした。
「まぁ、あれだ。決を採るか……ミルーダさんのパーティ入りに賛成のものは手を挙げろー」
悪い雰囲気ではないことに心底胸をなでおろしたカザルが発言する。
「はーい! はーい! ミルーダちゃんはかわいいので賛成でーす!」
ロードとも思えない理由で賛成するシガン。
「あ、あの……よろしくお願いしますね」
小声で賛同を表明するケイツ。今回はみんな聞いていた。
「よろしくねぇ、ミルファちゃん」
握手を求めるレイラ。でもさっそく名前を間違えている。
カザルはリーダー。ユーウェイは推薦者。
従って一同の目は揃ってまだ発言していないファールの方向に向けられる。
「な、なによ?」
少しびびりながらファールが口を開く。
「なにって、わかってんでしょおー?」
意地悪そうに笑うレイラ。
「ふん……エール。大至急持ってきてー」
気にせず注文するファール。
そして本当に大至急で運ばれてきたエールをテーブルの、ミルーダの目の前に置いた。
「飲んどけ、新入り。先輩からのおごりだ」
ファールは仏頂面のままそう言った。

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【2006年12月07日16:38 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは方丈記。無常まくり~。

さてユーウェイさん退場です。ま、これは当初の予定通りだったり。
んで悪PTやってたんですけど新キャラってことでいったん戻って~……

ソードワールド クィンティア・マーリンヴェール(ミルーダ)
やっぱチャ・ザ司祭です。でもリディアと姉妹じゃありませんでした。もっとおしとやかだったしね。
ちなみに姉妹苗字のクフォーはサッカー選手からとってきてます。くふぉー。
【2006年12月07日 16:43】| | 上杉霧音 #9a7c4ed52d [ 編集 ]
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