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【2024年12月03日14:31 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その37

ドアを開けると部屋の隅から巨体をもてあますように、人間に比べてあまりにも大きい存在がのっそりと身を起こした。部屋が暗いため正体はよくわからないが……
「でかー」
シガンが呆れたような声を出しながら斬りかかる。


すべらぎのみことのりを承りてわが國の大和歌を撰ぶこと


シガンの槍は見事巨人の体をとらえる。だが……
「かってぇ!」
あまりの硬質な感覚にシガンが舌を巻く。
その言葉を受けてケイツが巨人の防御力を下げるため呪文を詠唱する。
「客行新安道、喧呼聞点兵……モーリス!」
しかし……
「えぇっ!?」
意外そうな声を出すケイツ。
渾身の力ある言葉は巨人によってプロテクトされ効果を顕すことはなかったのだ。
「あぁもう! ケイっちゃんは続けてモーリスお願いっ!」
そういって剣を振るうレイラ。だがそれも浅く、巨人を怒らせただけだった。
「だったらこれはどうだぁ!」
ファールもムラマサを構え突進する。その後ろからは愉快な形状の殺戮武器、カシナートの剣を構えたカザル……だが、その剣が届くよりも巨人の動きのほうが早かった。
巨人は大きく息を吸い込み、そして大きく息を吐き出す。
「あいたぁっ!」
氷のブレス。カザルはなんとか耐えたものの最前線でムラマサを振り上げていたファールは左腿に大きな氷の刃を受け、転倒した。
そのまま巨人がファールを踏み潰そうと足を踏み出すが、それはカザルの剣に押され後退する。
「……ファール立てるか?」
「ん、なんとか」
カザルによって一命は取り留められたもののファールは青い顔でふらふらと立ち上がった。氷の刃は動脈を傷つけており、溢れた血は止まりそうもない。
「かっこ悪いなぁ……」
苦笑するファールに向かってシガンが回復の呪文の詠唱を始める。
ミルーダも眠りの呪文を唱えるもののやはり巨人によって無効化されていた。
「こりゃあ剣じゃないほうがよさそうね」
呟き、剣を投げ捨てるレイラ。
それと同時に鎧の留め金もはずし、兜も脱ぐ。
ニンジャ本来の姿。トモエに敗れて以来の久々の戦闘スタイルだった。
しかしその間も巨人の猛攻はやむことはない。
ようやくケイツの呪文が効果を発揮したもののカザルは攻撃を避わされ、逆にその丸太よりも太い腕で殴られ膝をついていた。
ファールも回復したもののあまりにも急激に血液を失ったため満足に攻撃が出来る状況ではない。
巨人は満足に攻撃が出来ないパーティを見、一瞬笑うと再びブレスを吐くべく大きく息を吸い込む。

そしてそれが大きな隙となった。

玄室の壁面を蹴り、巨人の頭部近くまで一瞬でジャンプしたレイラ。
巨人もそれに気づき、一瞬前まで簡単に踏み潰すことの出来ると思っていた存在が目の前までジャンプしていることへの驚愕に目を見開きながら払い落とそうと手を挙げようとするが……もう遅い。

レイラの手刀が巨人の眉間をえぐった。

「うやぁー、血が大変なことになってるよ」
巨人の血を真正面から浴び、全身が真っ赤に染まったレイラが情けなさそうな声を出す。
シガンがカザルの治療に取り掛かり、ケイツとミルーダが急いで魔物よけの結界を張る。
「おっつかれぇ」
ケガをした左腿を押さえらまま床に座り込み、青ざめ、しかしそれでも笑みを含んだ顔でファールがレイラを出迎えた。
「水浴びでもしたいもんだね」
ファールに苦笑して答えるレイラ。
「帰って公衆浴場でも行くか」
けらけらと笑うファール。
ようやく治療の終わったカザルが立ち上がった。
「そうだな……かなりのダメージを受けた上に敵も予想以上に強い。今日はそこの宝箱でも開けて、帰って寝るか」
そこ、とカザルが指差した先には、恐らく巨人が所持していたのであろう宝箱が落ちていた。
「もう~、人使い荒いなぁ」
口では文句を言いながら、それでもにこにこと笑って宝箱に近づくレイラ。
「んー、これはなんだぁ? 石化かな? 石化させるやつかな?」
手馴れた様子で宝箱のトラップを探り、そのまま解除しようとするレイラ。
「石化のやつはこのワイヤーを切ればオッケィ、っと……あれ?」
レイラは素っ頓狂な声を出した。
「ごめん。罠解除失敗しちゃった、んだけど~……なんも起こってないね。どうしたんだろう」
「ん? 俺も大丈夫だな……ほんとに失敗したのか?」
自分の体を見回して異常がないことを確認するカザル。
他のパーティメンバーも大丈夫そうだ。
「ん~、失敗した手ごたえだけはあったんだけどなぁ」
「そんな手ごたえをつかむよりもっとまともな手ごたえを頼むぜー」
カザルの言葉は笑みを含んでいる……まだ。
「……あ」
急にケイツが小さな声を漏らし、そしていきなり宙を見回したりなにかをぶつぶつ呟いたりしだした。
「んあ? どうしたケイツ」
「あっ、あのっ、さっきのワナ、マジックドレインです」
震えた声でカザルに答えるケイツ。
「……マロール、使えなくなりました」
パーティメンバーにその意味が浸透するまでしばらく時間がかかった。

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【2007年01月03日18:38 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その36

「ふぁ」
翌日大きく伸びをしながら右手であくびをかみ殺し、いつものようにメンバーの中で一番遅れて待ち合わせ場所に到着したファールの前にミルーダとシガンが立った。
「ほら、ミルーダ」
「はい……お姉さま、昨日はすいませんでした」
シガンに促され姉に頭を下げるミルーダ。
「ふにゃ……うん……」
ファールは寝ぼけ眼で曖昧に頷いた。


更科の里、姥捨山の月見んこと


「おぉ、階段発見!」
奥の院に到着して何日目だろうか、パーティはようやく第4層へと向かう上り階段を発見していた。
「よし、まだ余力もあることだし、覗くだけ覗きにいってみるか。ただし無理はせずに、ちょっと見て回ったらすぐに帰還するぞ」
カザルの宣言にメンバーの顔がいっそう引き締まる。
奥の院に到達して初めての階層移動。ダバルプス呪いの穴ですら階層移動すると強い敵が現れていたのだ。ましてや奥の院においてどれほどの悪魔が出てくることだろう。
静かに緊張感を持ったままメンバーは階段を上った。

階段を上った先は十字路、によく似た形の部屋だった。
東西南北、それぞれの先に扉がある。
ただの十字路でないところは北北東、北北西、西北西、西南西、南南西、南南東、東南東、東北東の8箇所にもそれぞれ扉が設けられていたことだ。
合計12箇所の扉に囲まれてメンバーは一瞬途方にくれた。
「こういう手がかりがない場所はどうも苦手だな」
呆れたように頭をかくカザル。
「ま、逆言えばどっちからでも攻められるってことでしょ。とりあえず北いってみよう、北」
レイラの言葉に軽く肩をすくめて北の扉を開けるカザル。
「んあ~、なんだこりゃ」
扉の先は左右に伸びる通路。その両端に右に上り階段、左に時空の裂け目があった。
「まだこの階層に来たばっかで階段なんぞ上りたくねぇし……この裂け目ってどうせあれだろ? 別の場所に行くっていう……まだ早ぇだろ」
「じゃあ別の扉開けようぜ」
シガンの提案に頷き、今度は東の扉を開けたメンバー……が……
「……あら」
意外そうな声を出すケイツ。それもそのはずで北側の扉の奥とまったく同じ構造であり、扉の先に左右への通路、その先に右の階段、左の裂け目となっていたからだ。
「次に行きましょう」
ミルーダが促し、メンバーは今度は西の扉を開ける。
しかしそこもまったく同じ、階段と裂け目以外になにもない場所だった。
再び中央部に戻り、考え込むパーティメンバー。
「こりゃあ……もしかしたら階段と裂け目で移動しまくって他の階層を探索しながら進む、っていう……何層かで1階ってタイプなんじゃねぇだろうな、ここは」
暗い迷宮の中でも鈍く光る明るい金色のヒゲを左手で撫で付けながらカザルは眉をひそめる。
「まだ決まったわけじゃないですよ。私も何層かで1階ってタイプの迷宮のような気はしますけど……あくまで気がするだけで確証はないですし」
ケイツが上目遣いでカザルに言う。だが無視された。
「はぅぅ」
「ま、なんにせよ南側の扉が残ってるし、そっちにいってみない?」
ケイツが悲しそうな声を漏らす中、レイラがドアを指さした。
「そうだな。よし、南にいってみよう……もし同じように階段と裂け目があるようなら階段を上ってみよう……ケイツは念のために脱出用のマロールの準備を頼む」
ケイツがカザルの言葉に頷き……そして南のドアが開かれた。
「あ、うわ」
あまりにも予想外の光景にファールが眩暈を起こしたようにふらつく。
扉の先が左右に伸びる通路、そこまでは北西東変わらない。だが北西東側はすぐに階段なり裂け目なりが確認できたのに対して南の通路は左右の通路があまりにも長く伸びている。
「ん~、向こうが見えませんね、っと」
ミルーダが気づいたように普段隊列の先頭にいるファールのムラマサの先端に灯かりをともす呪文を唱えた。
ファールがその灯かりを通路の奥に照らしつけようとするが奥までがあまりにも遠すぎてどうなっているのか確認できない。
「変化がありすぎるってのも困りもんだな」
苦笑するカザル。
「とりあえず右側にいってみよう。突き当りまで行きゃなんかあるだろう」
カザルの号令により歩き始めるメンバー。
どのくらい歩いただろうか、迷宮内において時間を示す太陽など当然のようにありはしない……だからこそパーティメンバーにとってはあまりにも長い時間、最初と変わらない通路が奥へと延びていた。やがて……
「やっと行き止まりか」
カザルの言葉どおりムラマサにともされた灯かりの向こうに扉が浮き上がる。
「まだこの階層にきてから戦闘なんてしてないからな。この扉の向こうが玄室だとすりゃ、この扉を開けたら、それが初戦闘になるだろう……まずは様子見ながら行くぞ」
カザルの言葉にやや緊張感を漂わせた、しかし笑みを含んだ顔でファールが扉を蹴破るためにそっと足をかける。
「レディ?」
「イエー」
やはり軽い表情でレイラが親指を立て、カザルも答えこそしないものの頷く。
シガンも槍を、ミルーダとケイツもそれぞれ杖を構えた。
「ゴゥ!」
ファールが扉を蹴破った。

【2007年01月02日07:03 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その35

「なぁ、ミルーダ、超落ち込んでんぞ」
「はぁ?」
珍しく連れ立って酒場に出かけたファールはシガンの言葉に眉を跳ね上げた。
「あのねぇ……あんたがあの子に平手打ちの一発でもしてりゃ私がわざわざ嫌われ役にならんですんだんだっての」
ファールは不機嫌そうにエールをあおった。


秋のけはひたつまゝに


ミルーダは迷宮の中でミスを犯した。
モンスターの姿を見て自失する。それによりシガンが瀕死の重症を負ったことは確かだ。

「……でも生きてんだから、そんな気にすんなって」
帰るなり食事もとらずにアドベンチャラーズインの部屋に閉じこもり、ドアを開けようとしないミルーダに困ったようにシガンがドアを叩く。
ドアは開かない。

シガンがドアを叩いている。
部屋の隅でミルーダは膝を抱えた。
修練場で教わった冒険者としての最低限のモラルが頭に思い浮かぶ。
『自分が死んだとしても仲間はその死体を担いで冒険を続けることになる。その行為に善も悪も中立も関係ない。自分が死んでそれですむと思ったら大間違いだ。1人が死ぬことによってパーティの戦力が落ちるだけでなく、それを担いで行動することによって仲間の負担も増える。だから冒険者は出来る限り死んではならない。死なないように最大限の努力をしなければならない』……その言葉はとりもなおさず仲間の迷惑になってはならない、ということを意味する。
冒険者として『仲間の迷惑にならない』ということが最低限のモラルなのだ。
なのに……
ミルーダは膝を抱える腕に力を込める。

子供のころより姉は奔放な人間で父親に懐いていたようであったが、ミルーダは敬虔な母親に懐いていた。
……本当に懐いていたのだろうか?
母親は精神的に不安定な人間であり、常に経験であれと子供たちに教え諭していた。
ただ神を崇めることのみを真理と信じ、父や姉が芸術に興味を持つことを『悪魔によって堕落させられている』と嘆き、しかしそれでも『堕落させられ悪魔の尖兵となったものに弱みは見せない』と仲のいい夫婦を演じていた。
だから姉が楽団についていこうとしたとき父親が辟易するほど姉の処断を求めたのは母であり……そこに肉親の情は存在しなかった。
母はミルーダを抱き毎晩のように語り掛ける。
「あなたは天使なのだから、この部屋の外にいる有象無象の悪魔どもに汚されてはだめ」
またミルーダが父と会話をした日の夜などは……
「お前まで悪魔の仲間になるつもりかっ! 私を1人にするつもりかっ!」
とヒステリックに叫びながらミルーダを殴り、蹴りつけた。
ミルーダはただ家族で仲良く暮らしたかっただけなのに、父も姉も知らないところで母にそうやって殴られ続けることだけが家族のバランスを保つ唯一の方法だった。
父は母を貞淑な妻と信じ、客にそう紹介する。母は笑顔で頭を下げながら『悪魔』とさげすむのだ。
ある日、姉が屋敷から脱走する。
父は慌てふためき家人をやって姉を探そうとするが、見つからなかった。
そしてこの日を境に……恐らく姉がいなくなったことが契機になったのだろう母は回復した。
母は悪い夢を見ていたかのように今までのことをすべて覚えていた。そして自分の夫、そして腹を痛めて産んだ実の子を悪魔と信じていたことを後悔し嘆き悲しんだ。
ミルーダが母を慰めようとすると、ミルーダの目の前を星が飛んだ。
星?
ミルーダは一瞬自分が殴り飛ばされたことに気がつかなかった。
母は倒れたミルーダに対し殴りかかる。
丸くなって耐えようとする彼女に投げかけられた母の言葉をミルーダは一生忘れることはないだろう。
「お前があの子が悪魔じゃないって教えてさえくれれば! あんたは私の実の娘を悪魔じゃないって知ってたんだろう! そして知りながら娘を蔑む私の姿を見てあざ笑っていたんだろう! 悪魔! お前こそが悪魔だ!」
ミルーダに彼女を弾劾することなど出来なかった。
彼女はそれで精神に均衡をとろうとしているのだ、と気づいてしまったから。
だからミルーダは父も使用人たちも知らないところで母親の虐待を受け続けることになる。
春の日も。
夏の日も。
秋の日も。
冬の日も。
また巡って春の日も。
しかしミルーダはもうすでに限界が近づいてきていた。
母はもう夫に対し、限りなく貞淑な妻であり、母のことを知っているのは自分だけだったのだから……だからもう自分が家を出ても大丈夫だと思った。
自分がリルガミンに遊学にいきたい、と言ったとき、父はそのころには姉の件があったためずいぶんと丸くなっており簡単にそれを許し、ミルーダはリルガミンで新しい生活が始められる、はずだった。
しかし遊学先の神殿に母親の手紙が届けられる。
『どこへ逃げても無駄だ。悪魔め』……ミルーダは天を仰ぎ、寄宿先を出て母親から逃げようとした。

そのときに目の前にあったのが冒険者修練場だった。

だから自分はなにかの目的があって冒険者になろうとしたんじゃない。崇高な目的なんてなにもない。
ただ逃げただけ、だ……
タイロッサムにそれを見透かされたときミルーダは母親にまた殴られることを思い恐怖していた。
自分は逃げているだけ……

ドカン!
部屋のドアが吹き飛んだ。
その向こうにはシガンが槍を構えて立っている。
殴られる! 殴られる! 殴られる!
私が悪い子だから殴られる!
身を硬くするミルーダにシガンがゆっくりと近づき……
「よし、腹減ったからメシ食いに行こうぜ」
ミルーダの頬に手を添え、明るくそう言った。
ミルーダはシガンを見上げる。その目から涙がこぼれた。

【2007年01月01日02:26 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その34

「……ふぅん」
「あ、あの……お姉さま」
薄暗い部屋の中でだらしなくひじをつきながら本のページをめくるファールにミルーダが珍しく狼狽した声を上げる。
「なぁに? 言いたいことがあるんだったらとっとと言いな!」
少し強い口調でミルーダをたしなめるファール。
周りにいた僧侶たちがファールを一斉に睨みつけた。
「……蔵書室では静かにしてください」


白川のわたり、中山の麓に


蔵書室のある神殿から退出し、ファールはこきこきと首の骨を鳴らした。
「やっぱ神殿なんて死んだり呪われたりしない限りくるとこじゃないねー」
神殿からまだそう離れてもいないのに大声で言う。神殿の門に立っていた神官戦士が睨みつけるが気にしていない。ミルーダはそっちのほうにぺこぺこと頭を下げるが、姉をたしなめることはしなかった……もう諦めているから。
「でも珍しいですね、お姉さまのほうから神殿へのお誘いを受けるなんて」
姉妹の実家は精霊神ニルダを祀る修道院の長の家系であり、本当であれば神殿に立ち入ったとしてもおかしくはない。
だがファールは父親を激怒させた上、家を捨て歌の道に入ったため滅多なことでは神殿に立ち入ろうとはしなかった。
「ま、調べたいことがあったからね。ここらへんで王宮の資料室以外では一番蔵書が充実してるのは神殿だろうし」
「なるほど」
ファールの言葉に頷くミルーダ。
「調べ物は見つかりました?」
「それなりにね。リュクルゴスっておっさんのこととか」

「リュクルゴス? なんだそりゃ?」
奥の院に向かう回廊でカザルは間抜けな声を出してファールを振り向いた。
「ほら。昨日のライカーガスってやつ、人間として生まれて限界を超えたから悪魔になったとかなんとか言ってたじゃん? それだけ強大な魔力を持ってた人間だったらどっかにそういう記録って残ってないかな、って調べてみたんよ」
いかにも肩がこったといわんばかりに腕をぐるぐる回すファール。
「その生前ってのがリュクルゴスっていう名前なのか?」
「……なるほど。リュクルゴスでしたか」
初耳といわんばかりのカザルと理解した風なケイツ。
「知ってんのか、ケイツ?」
「そんな詳しいわけじゃないですけど……古代の法学者で古代帝国の法制定をした、って伝説が残ってます。貧富の格差の解消や軍整備などその功績は計り知れません。哲学者としても著名な人物でしたからもしかしたら叡智を求めるあまり定命の人間ではなく悪魔となったのかもしれませんね」
ケイツの解説にふぅん、と曖昧な表情で頷くパーティメンバーたち。
そんな古代人の妄執に巻き込まれても困ってしまう。
「ま、どっちにしろ迷惑なおっさんってことだね」
ファールが適当に話をまとめた。

カザルが玄室のドアを蹴破ると中のモンスターたちが臨戦態勢をとった。
槍を構えるその姿にミルーダが一瞬手を止める。
「……な!?」
2人の……背の羽の色こそ漆黒ではあるものの、流れるほどの金髪と美しい顔立ち。その姿こそ宗教画に描かれる『天使』そのものだったからだ。
しかしそんな躊躇も天使たちが目を開けた瞬間に消し飛んだ。その瞳の色は真紅。
人間が迷宮の闇にとらわれ、モンスターとなってしまうように天使たちも闇にとらわれ堕天し、悪魔となってしまうことがあるという。それが目の前にいる存在であった。
玄室に入ると同時にファールとレイラが息のあった攻撃を見せ1人の堕天使を屠る。
カザルもすぐさま残る1人に一太刀を浴びせ、あとはシガンが攻撃をすればいいだけであった……
ミルーダが躊躇したのはほんの一瞬。しかしシガンはそのミルーダに気をとられる。戦闘において一瞬とは恒久の長さにも等しいのだ。
カザルに斬られた堕天使はシガンに襲われる前に呪文の旋律を唱える。
「ぐ、がッ!?」
シガンは堕天使が唱えたなんらかの魔法により石畳に突っ伏した。
「あ、ラバディ!? ……くっ!」
対象の生命力の大部分を吸い取る魔法が効果を発揮するのを目の当たりにしたケイツが危険を判断し、急ぎ魔力障壁を張る。
シガンはあまりの深手に動くことが出来ず……またその光景を見てミルーダも動けずにいた。
「んなぁー! もうっ!」
鋭い顔をしたファールが残る堕天使の首を刎ねるまで、その戦闘は続いた。

「たっからばこ~♪」
さっそく堕天使の残した宝箱に取り掛かるレイラ。シガンも自分の回復魔法によって体力を回復している。
ただ、ミルーダだけが立ち直れずにいた。
「……あ?」
へたり込んだミルーダの前に立ったファールが有無を言わせずミルーダの頬を張った。
「おい、なにすんだよ!」
ミルーダをかばうように前に出るシガン。しかしファールはそれにかまわずミルーダの胸倉をつかみ強引に立たせる。
「他の誰もあんたのことを叱らないから私が叱る。あんたがぼやっとシガンは死にかけたんだ。あんたもパーティの一員であることを忘れるな」
ファールのあまりの静かな言葉、そしてあまりの激しい言葉にシガンすら言葉をなくす。
「まぁまぁ、反省してるみたいだしそこらへんにしときなーって、これ鑑定よろしく~」
箱の罠を無事解除したレイラがミルーダに長柄の武器を放りミルーダはしょげ返った表情で、それでも無意識にそれを受け取る。
「ん、あ……ガングニールスピアー、ですね」
「お? なんかかっくいい名前だな! んじゃ俺が使うわ」
重い雰囲気を払拭させるように明るく振舞うシガン。しかしミルーダは姉の視線を受け止めきれないでいた。

【2006年12月31日03:45 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その33

目の前に小人……背に蝶に似た羽を生やした掌ほどの大きさの生き物、フェアリー族なのであろうが闇に落ちた存在、エルマナヤンが震えていた。
「ふふふ、もう逃げられんからねー」
ファールの言葉に首を横に振って退路を探そうとするエルマナヤン。
「これから拷問して、この迷宮のダンジョンマスターを聞きだしまーす!」
「ごっ、拷問……?」
ファールの宣言になぜかケイツが怯えたような声を出した。


らくの貞室、須磨のうらの月見にゆきて


目の前にぐったりとしたエルマナヤン。ヒモで体の自由を奪ったうえでファールがとった行動は……
「へっ……へっ……へっくち」
「ふふふ、今、そうとう恥ずかしい顔してるよぉ」
紙でこよりを作って鼻をこちょこちょとしていた。
「これは酷いな」
「……拷問じゃないけどな」
感想を言うシガンとカザル。
荒い息をつくエルマナヤンとなぜか嬉しそうなファール。
「ふえぇ……ふえぇ……」
泣きそうな顔でやたらとエルマナヤンに共感しているケイツ。しかし誰も気にしていない。くしゃみを出しそうな顔になって鼻を押さえている。
「これがお姉さま流の拷問ですか」
「……ん?」
ミルーダの呟きにレイラが顔を向けた。
「バル~。なんか妹さんがもっとちゃんと拷問しろってー」
「なっ!? 言ってません!」
ミルーダが反論しようとするがもう遅い。
「んじゃあアイテムその2を用意しよう。あと私はファールだ」
嬉しそうに道具袋の中をごそごそと漁り……
「じゃんっ♪」
ネコジャラシを取り出した。
「なんであんなもん持ってきてんだ」
「すごい準備がいいなぁ」
シガンとカザルが感心したように呟く。
「今度はこれで背中を……ふふふ」
ファールの笑いに怯えた顔をするエルマナヤン。
「方向性は変わらないんですね……ちょっと安心しました」
安心したといいながら呆れたようなミルーダ。
「う、やべぇ……ちょっと変な気分になっちまった」
エルマナヤンの怯える顔に股間を抑えながら前かがみになるシガン。
「うるっせぇ」
その後頭部にかかとを叩きつけ、黙らせるレイラ。
「う~ん、でもくすぐりって結構耐えられないんですよね」
「確かにその通り。耐えるのはかなり難しいね」
ケイツの呟きに答える男の声。
「そうなんですよね。私も……って誰ぇっ!?」
ケイツの大声に振り向き、臨戦態勢になるパーティメンバー。ケイツの言葉に頷いたのはローブを纏ったドクロだった。
「あ……あ……言ってません。まだ言ってませんでした!」
ファールの左手の中で青い顔をして叫ぶエルマナヤン。ファールはそれを不思議そうな顔で見ながら、しかし片手で腰のムラマサを抜く。
「でも言いそうだったじゃないかい。危ない危ない……そんな簡単に秘密を漏らしそうになる子はお仕置きだ」
ドクロが言いながらエルマナヤンを指さす。
「あっ! つっ!?」
ファールの手が燃えた。いや、ファールの左手の中のエルマナヤンが炎を発したのだ。
思わず手をエルマナヤンから離すファール。その手は重度の火傷を負い、そして手から離れたエルマナヤンはすでに絶命していた。
「てめぇ!」
先手必勝とばかりに斬りかかるカザル。しかし……
「あぁ、怖い怖い」
その斬撃はドクロの元には届かない。余裕を持って斬撃を避け、せせら笑うドクロ。
「ライカーガス」
ケイツが小さな声で呟いた。
「知ってるのか?」
「昔、師匠の書物でその名前を見たことがあります。バンパイアロードに並ぶ不死の王、と」
剣を避けられたことで、ドクロの追撃を嫌い元の位置に戻りながら問い返すカザルに、ケイツはやはり小さな声で答える。
バンパイアロード。
ワードナの迷宮で、常にワードナの側にあったという美貌の不死王。不死者の都ファールヴァルトの最後の王。その魔力はかつて1000年以上前の『最初の危機』においてエルフやドワーフの王族たちが悪魔王マイルフィックを倒す際に力を借りたほどだという。
それに並ぶ不死の王とは……
「なるほど、博識なお嬢さんだ」
ケイツの言葉に満足するように恭しく一礼して見せるライカーガス。
「ただ私と彼の者を同列に並べることはないよ。あのものはまごうことなき不死の王。私も元は人間で、今はこのような姿になっているものの不死者ではない。私は……そう、わかりやすく言えば人間として生まれ悪魔になったものと考えてくれればそれでかまわない」
「……人間として生まれた悪魔、だと?」
呆然と問い返すカザル。
「そうとも。人間として限界を超えるほどの魔力を有していればそれも可能なのだよ」
メンバーの脳裏にダバルプスの話が浮かぶ。あれも確かあまりにも強すぎた魔力を持つ人間だった。
「ということはお前らを召還したやつは悪魔になろうとしてるのか?」
「彼女には彼女の理想があるさ。今のところ悪魔になろうと考えてはいないようだけどね……まったく惜しいことさ、あれだけの魔力ならかなり高位の悪魔になれるものを……まぁ、話はここまでにしよう。私たちは第1層で待っている。早く来ることだね」
ライカーガスはそれだけ言い終え……恐らくなんらかの呪文を行使したのだろう、宙に掻き消えた。
「やっぱ彼女ってなぁ……『彼女』なのかぁ」
カザルが額を押さえ嘆息する。

【2006年12月30日00:44 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
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