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【2024年03月29日20:13 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その37

ドアを開けると部屋の隅から巨体をもてあますように、人間に比べてあまりにも大きい存在がのっそりと身を起こした。部屋が暗いため正体はよくわからないが……
「でかー」
シガンが呆れたような声を出しながら斬りかかる。


すべらぎのみことのりを承りてわが國の大和歌を撰ぶこと


シガンの槍は見事巨人の体をとらえる。だが……
「かってぇ!」
あまりの硬質な感覚にシガンが舌を巻く。
その言葉を受けてケイツが巨人の防御力を下げるため呪文を詠唱する。
「客行新安道、喧呼聞点兵……モーリス!」
しかし……
「えぇっ!?」
意外そうな声を出すケイツ。
渾身の力ある言葉は巨人によってプロテクトされ効果を顕すことはなかったのだ。
「あぁもう! ケイっちゃんは続けてモーリスお願いっ!」
そういって剣を振るうレイラ。だがそれも浅く、巨人を怒らせただけだった。
「だったらこれはどうだぁ!」
ファールもムラマサを構え突進する。その後ろからは愉快な形状の殺戮武器、カシナートの剣を構えたカザル……だが、その剣が届くよりも巨人の動きのほうが早かった。
巨人は大きく息を吸い込み、そして大きく息を吐き出す。
「あいたぁっ!」
氷のブレス。カザルはなんとか耐えたものの最前線でムラマサを振り上げていたファールは左腿に大きな氷の刃を受け、転倒した。
そのまま巨人がファールを踏み潰そうと足を踏み出すが、それはカザルの剣に押され後退する。
「……ファール立てるか?」
「ん、なんとか」
カザルによって一命は取り留められたもののファールは青い顔でふらふらと立ち上がった。氷の刃は動脈を傷つけており、溢れた血は止まりそうもない。
「かっこ悪いなぁ……」
苦笑するファールに向かってシガンが回復の呪文の詠唱を始める。
ミルーダも眠りの呪文を唱えるもののやはり巨人によって無効化されていた。
「こりゃあ剣じゃないほうがよさそうね」
呟き、剣を投げ捨てるレイラ。
それと同時に鎧の留め金もはずし、兜も脱ぐ。
ニンジャ本来の姿。トモエに敗れて以来の久々の戦闘スタイルだった。
しかしその間も巨人の猛攻はやむことはない。
ようやくケイツの呪文が効果を発揮したもののカザルは攻撃を避わされ、逆にその丸太よりも太い腕で殴られ膝をついていた。
ファールも回復したもののあまりにも急激に血液を失ったため満足に攻撃が出来る状況ではない。
巨人は満足に攻撃が出来ないパーティを見、一瞬笑うと再びブレスを吐くべく大きく息を吸い込む。

そしてそれが大きな隙となった。

玄室の壁面を蹴り、巨人の頭部近くまで一瞬でジャンプしたレイラ。
巨人もそれに気づき、一瞬前まで簡単に踏み潰すことの出来ると思っていた存在が目の前までジャンプしていることへの驚愕に目を見開きながら払い落とそうと手を挙げようとするが……もう遅い。

レイラの手刀が巨人の眉間をえぐった。

「うやぁー、血が大変なことになってるよ」
巨人の血を真正面から浴び、全身が真っ赤に染まったレイラが情けなさそうな声を出す。
シガンがカザルの治療に取り掛かり、ケイツとミルーダが急いで魔物よけの結界を張る。
「おっつかれぇ」
ケガをした左腿を押さえらまま床に座り込み、青ざめ、しかしそれでも笑みを含んだ顔でファールがレイラを出迎えた。
「水浴びでもしたいもんだね」
ファールに苦笑して答えるレイラ。
「帰って公衆浴場でも行くか」
けらけらと笑うファール。
ようやく治療の終わったカザルが立ち上がった。
「そうだな……かなりのダメージを受けた上に敵も予想以上に強い。今日はそこの宝箱でも開けて、帰って寝るか」
そこ、とカザルが指差した先には、恐らく巨人が所持していたのであろう宝箱が落ちていた。
「もう~、人使い荒いなぁ」
口では文句を言いながら、それでもにこにこと笑って宝箱に近づくレイラ。
「んー、これはなんだぁ? 石化かな? 石化させるやつかな?」
手馴れた様子で宝箱のトラップを探り、そのまま解除しようとするレイラ。
「石化のやつはこのワイヤーを切ればオッケィ、っと……あれ?」
レイラは素っ頓狂な声を出した。
「ごめん。罠解除失敗しちゃった、んだけど~……なんも起こってないね。どうしたんだろう」
「ん? 俺も大丈夫だな……ほんとに失敗したのか?」
自分の体を見回して異常がないことを確認するカザル。
他のパーティメンバーも大丈夫そうだ。
「ん~、失敗した手ごたえだけはあったんだけどなぁ」
「そんな手ごたえをつかむよりもっとまともな手ごたえを頼むぜー」
カザルの言葉は笑みを含んでいる……まだ。
「……あ」
急にケイツが小さな声を漏らし、そしていきなり宙を見回したりなにかをぶつぶつ呟いたりしだした。
「んあ? どうしたケイツ」
「あっ、あのっ、さっきのワナ、マジックドレインです」
震えた声でカザルに答えるケイツ。
「……マロール、使えなくなりました」
パーティメンバーにその意味が浸透するまでしばらく時間がかかった。

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【2007年01月03日18:38 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは新勅撰和歌集。

さて地味ピンチです。よくあるよね、こういうの。すっごい困るの。
こういうときに鍵ってスリッパも用意してなくてあぁもう!
次回から帰還編です。
【2007年01月03日 18:40】| | 上杉霧音 #5d0aeeb6ac [ 編集 ]
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