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【2025年03月04日14:00 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その8

「はぁい? どなたー?」
「あ・た・し」
ノックの音に反応しアドベンチャラーズイン、スイートルームのベッドの上で食べていたフライドポテトを咥えたままドアのほうを向いたファールはドアの向こうからの返答にげんなりした。
「帰れ」
「ひっどいこというなぁ」
けらけら笑いながらレイラが室内に入ってきた。


男もすなる、日記といふものを、女もしてみむとて、するなり


リルガミンの街中を歩く3人の女。
「あの……買い物に行くのはいいとして……なんで私もなんです?」
「たまにゃあ付き合いなってばさ~」
ケイトの当然といえば当然ともいえる疑問にけらけら笑いながらレイラが答えた。

レイラの言葉はそれなりに簡単なものだった。
「今の自分じゃニンジャの力を生かしきれてないからねぇ。だったら装備の力を借りたほうが戦力足りえるし……装備買いに行くから付き合ってちょ」
言葉は簡単でも今までニンジャとして素手で戦ってきた矜持を捨てるのは簡単ではなかっただろう。
レイラはそれを笑いながら2人に言っていた。

「でも……私……装備のこととかなにも知らないし……って聞いてないですね、ふぅ」
ファッションの話に興じるレイラとファールを横目にドワーフ少女は溜め息をついた。

「すねあて、肩当て……次は~、っと……あれなに? なまくらな剣? 呪われたブツをそのまま売っとくなぁっ!」
レイラはテンション高かった。
リルガミン市中に存在するボルタックの店。
リルガミンの武器取り扱い店として老舗であるこの店はダバルプスの時代からずっとこの街に存在しているという。
不確定アイテムの鑑定、迷宮内で発見したアイテムの買取、呪われたアイテムの解除など冒険者にとって必須の店ではあるものの売値は買値の半額。また鑑定も同様の値段を請求される……ボルタックの店では未鑑定のアイテムの買取は絶対に行われないため……という冒険者から『ボッタクリの店』などと呼ばれる、しかし冒険者にとって絶対に必要な店であった。
店主のボルタックは寡黙なドワーフの老人であり、一説にはトレボー時代からずっとあの店を経営しているとも言われていた。またいつ行っても変わらない対応や、そのあまりの愛想のなさからボルタック、という人物はこの世に存在せず、店番をしているのは精巧な自動人形なのではないか、と噂すらされるほどの人物であった。
「これなんかよくない?」
「胴鎧? う~ん、肩のとこ、かっこ悪くない?」
ファールにダメだしするレイラ。
「え? 超かっちょいいじゃん。私のほうが着たいくらいだってば」
「趣味悪っ!」
迷宮内では装飾よりも実用であることが重視される。
ただ同程度に実用であれば、華美なほうに目が動くのは当然といえよう。
後ろで2人が騒いでいるのをよそにケイツも商品を見回していた。
後列のマジックユーザーなだけに、それほど高価な装備は必要ない……とはいえ上を見ればきりはなく、また……
「……うぅ」
自分の薄汚れたローブと壁にかかった真新しい緑色のローブを見比べてへこむケイツ。
値札を見る……
ケイツは溜め息をついた。
「ケイっちゃん、なぁに溜め息ついてんのかなぁ~」
「きゃあっ」
後ろからいきなり抱きつかれケイツは悲鳴を上げた。
「ケイっちゃんって誰よ」
「ケイツちゃんの愛称。かわいいじゃん」
抱きついたレイラを見ながら不思議そうに問いかけるファール。
『かわいいかなぁ?』などと首をかしげている。
「んでー? なに見てたのなに見てたの? 緑のローブ? あ~、悪くないんじゃない。値段も……うん、それほど高いーッ! ってほどでもないんだしさ。ね? ね?」
やたらテンションが高いレイラ。
「……いや、そ、それはともかくっ。買い物は決まったんですかっ?」
「あ~、それがねぇ」
少し言い出しづらそうにファールを見るレイラ。
レイラは肩をすくめる。
「このワガママニンジャはあっこに飾られてる『アレ』がご所望だそうよ」
ケイツはファールが親指でさした『アレ』を見て絶句する。
ファイアーソード。
今、ボルタックの店に置かれている剣の中で間違いなく最高級品であろう。その値段はなんと10000ゴールド! アドベンチャラーズインのロイヤルスイートルームにも20日間も泊まれる金額! ……普段、馬小屋で寝起きしているケイツにはあまり関係ないが。
「ちょ……ケイっちゃん、大丈夫?」
「……いえ、あまりの金額に眩暈がしただけです」
それはあまり大丈夫ではないんではなかろうか。
「えっと、で、ただちょ~っと持ち合わせが足りなくて……ちょっと貸してくれないかなぁ?」
「……無理です」
すまなさそうに借金をお願いしてくるレイラに、これまたすまなそうにケイツが答えた。
「いや、ほら、パーティの装備が揃えばみんなの生き残る確率が上がるわけだし、それ考えるとファイアーソードって悪くはないと思うのよ」
雰囲気が悪くなることを嫌ったファールがフォローを入れる。
「……いえ、そうじゃなくて。私、冒険で儲けたお金って全部弟たちに送金してるんで……ほんとにお金がないんです」
ケイツは『ほら』と財布代わりの皮袋をあけてみせる。15ゴールドはいっていた。
「……ごめん」
「……気にしないでください」
ファールがフォローを入れようとした雰囲気はもっと悪くなってしまった。
「あー! よし、おじさんがその緑のローブおごっちゃる!」
レイラが叫ぶように言った。
「え? ……いや、悪いですよ」
ケイツが断ろうとするが相変わらず無視される。というか誰だ、おじさんって。
「ファール、金貸せぇ!」
「私かよ!」
ツッコミをいれながらファールが財布を開けた。
「でもファイアーソード分のお金は出さんからね」
「ぇー」

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【2006年12月04日15:39 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その7

う~ん、まだもうちょっと……眠いんだけど……
ささやき。
ふにゃ……むぅ……
詠唱。
む~ん、あとちょっと。あとちょっとでいいから……
祈り。
あ~……わかったわよ……起きる。起きるってば……
念じろ!


雨晴れて月おぼろにかすむ夜


パーティのメンバーには1人足りない。
5人が瀟洒な扉の向こうを気にしながら沈痛に沈んでいた。
カザルは木の粗末なベンチに腰掛け、頭を抱えながら……
ファールは腕組みをして壁にもたれかかりながら……
ユーウェイはあごに手を当て、なにかを考えながら……
シガンはベンチの背に思い切りもたれ、放心したような表情を浮かべながら……
ケイツはうつむいたまま微動だにもせず、祈りの言葉だけを小声で呟きながら……
……ただファールの蘇生だけを念じていた。

リルガミンにおいて死は絶対のものではない。
老衰や病死であるならともかく、外傷によって仆れたのであれば僧侶魔法のディやカドルト、そしてカント寺院が行う蘇生術……といっても街中の清潔な場所で万端の準備をもって行うというだけで、やっていることはディ、カドルトとかわらないのだが……によって復活する可能性がある。
万が一蘇生呪文によって注ぎ込まれるエネルギーに肉体が耐え切れなかった場合は、その肉体は灰と化してしまう。
だがここからもさらにもう一度復活を試みることが出来、それでもなおかつ蘇生に失敗したものが完全な死……消滅を迎えることになるのである。
当然ダンジョン内部でディ、カドルトを行うよりも、例えばアドベンチャラーズインのロイヤルスイートで万全の準備ののちに蘇生魔法を唱えることができればカント寺院で行うのと同じ程度の確率での蘇生成功が望めるであろう。
しかしリルガミン市内での呪文の使用は禁じられており、だからこそ街中で呪文の行使が厳しく罰せられるのはカント寺院の利権を守るためである、とは口の悪い冒険者の弁であり、多分に真理であった。

トモエの剣に仆れたレイラは一度、カントの蘇生術に失敗し、今、灰からの蘇生術が施されている最中であった。
後悔の言葉を吐くものはいない。
レイラの死は全員の責任ともいえるべきものであり、後悔だけに溺れるようであれば今後、自分自身が迷宮で生き残ることすらおぼつかないからだ。
やがて……
施術室の分厚い扉が開かれ、冒険者たちが一斉にそちらに注目する。
そこには術を施したであろう中年の神官と、それが押す車輪つきの簡易寝台に寝かされたレイラの姿があった。
「……やぁ、しくっちゃったねぇ」
レイラは薄く目を開け、メンバーに向けて弱々しく微笑む。
蘇生したばかりであり、その命の炎は今にも消えそうであった。
だが、蘇生には、成功した。

体力を消耗したレイラをアドベンチャラーズインに放り込み、ケイツはギルガメシュの酒場を訪れていた。
お目当ての人物は……いた。
奥のテーブルでちびちびとエールを飲んでいるさえない中年の男、ゼムン。
ケイツがテーブルに歩を進めるとゼムンも近づくケイツに気づき顔を上げる。
「……あぁ、蘇生は成功しましたか」
ケイツの顔だけ見て、ゼムンは何事もなかったかのように再びエールに視線を落とす。
「成功したもなにも、私たちはレイラが死んだことを言っていない。なぜ貴方はそれを知っているの……そして迷宮で彼女に言った言葉……」
右からの斬撃に気をつけてください。嫌なビジョンが見えるので。
「……あれはどういうこと?」
詰問するケイツの口調にゼムンは苦笑する。
「私がなにかしたとでも?」
「そうは言ってない。ただどういうことか知りたいだけ」
肩をすくめて『なるほど』と呟くゼムン。
「種明かしすることはなにもないのですがね……私には子供のころから未来が見えたんです。レイラさんの右肩から刃が突き抜けるビジョンが見えた……ただそれだけですよ」
「……そんな」
眉をひそめるケイツ。
「信じていただけなくても結構ですよ。子供のころはずいぶんそれで周りの連中に鬼魅悪がられたものです……今となってはうまく制御もできていますがね」
苦笑交じりに呟くゼムン。
「……だったら、どうしてあのときもっと強く引きとめてくれなかったの!」
珍しいケイツの大声に酒場の他の連中が好奇の顔を向ける。
「種明かしをしたあなたですら今、半信半疑だった……迷宮に慣れきったと慢心したあの時点のあなた方に私の言葉が聞き入れられたとでも?」
「……ッ!」
ケイツは唇をかみ締める。
レイラが死んだのは誰か他の人間の責任、と罪を擦り付けたかった。
だがルビーのスリッパをその手に持ちながら、それを使うタイミングを見誤ったのは彼女自身だ。
カザルの指示ではない。彼女自身の意思で脱出を図るべきだったのだ。
「だ……」
「だいっきらい、ですか」
口を開きかけたケイツはゼムンの先回りの言葉に口を閉ざされる。
苦笑しながらゼムンは飲み終えたエールのジョッキをテーブルにおいて立ち上がった。
「……だったら強くおなりなさい、お嬢さん。誰よりも、です」

【2006年12月03日20:55 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その6

「んっ、とルビーのスリッパと……この胸当ては呪われてんなぁ」
シガンが鑑定したアイテムをケイツに手渡す。
「スリッパ? えらく履きにくそうだな」
カザンはケイツに手渡された、宝石のあしらわれたスリッパを見て眉をひそめる。
「いやいや、これって魔法のアイテムなんだよぅ。これを砕いたらパーティ全員が休息地……つまりこの場合はリルガミンに戻ることが出来るんだよ」
「ほ~う」
シガンの解説に感心したような声を漏らすカザン。
「ま、売るけどね」
頭をぽりぽりとかきながらシガンが言った。


祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり


「ずいぶん慣れたんじゃない?」
玄室と玄室をつなぐ通路を歩きながらレイラが腕をぐるぐると回しながらご機嫌な声を出した。
「レイラよ、油断するな」
「大丈夫ですってばぁ」
ユーウェイの言葉にレイラが軽く答えるが、誰がどうヒイキ目に見ても油断している。
「慣れたのは確かだけど……まだマップも埋まったわけじゃないんだし」
ケイツが小声で注意するが小声すぎて残念ながら誰の耳にも届いていない。いいこと言ってるのに。もったいない。
カザルも苦笑しつつも、レイラを注意することはない。
第6層に到達してから、あまりにも順調な探索行にパーティメンバーの心にも緩みが生じていることは確かであった。

一般にそれを慢心と言う。
それは心に巣食う病のこと。
たやすく他人に伝播する疫病のこと。

「では扉を開けるぞ」
「ほ~い」
ユーウェイは緊張感をもてあそぶレイラに一瞬眉をひそめるが気を取り直したように弓を構えながら扉に足をかけた。
ドカン、という音を立てて扉が蹴破られ、それと同時にパーティが列を整えつつ部屋に侵入する。
部屋の中には数人の『奥女中』と呼ばれるダンジョン内でなにかに仕える薙刀を持った女戦士。そして2人のハタモトと呼ばれる中位のサムライ……それ以外にもうずくまる人影や鎧を着た女がいるようだが部屋の入り口からでは明かりが届かずよく見えない。
「春眠不覚暁、処処聞啼鳥……カティノ」
敵の数が多いと見たケイツがすばやく手で印を切りながら眠りの呪文を唱えると何人かの奥女中が睡魔に負けよろめく。
「自有五白猫、鼠不侵我書……コルツ!」
シガンもハタモトの魔法を封じるためにパーティの目の前に不可視の障壁を張り巡らせる。
パーティの奇襲に瞬間動揺したモンスターたちも体勢を立て直そうとするが……
「西京亂無象、豺虎方遘患……ツザリク」
ハタモトのそのすばやい魔法の拳はシガンの生み出した障壁に阻まれパーティまで到達することなく効果を消す。
魔法戦は不利と見たもう1人のハタモトが手にした刀で斬りかかるもののファールの刀によって受け止められてしまった。
眠りに落ちた奥女中のうち3人に、それぞれカザルとレイラ、そしてユーウェイが止めを刺す。
緒戦はパーティの完全有利。
しかし……
「秋風蕭瑟天氣涼、草木搖落露爲霜……」
「……っ!?」
入り口から見えなかった人影が唱える呪文の詠唱を耳に入れ、ケイツが顔色を変えた。
「みんな、注意して……!」
シガンのコルツだけでこれに対抗は難しいか……
だったら二度がけで障壁の強度を上げればなんとかなるだろうか。
ケイツがさらにコルツを唱えようとするが……

間に合わない。

「ティルトウェイト」
力ある言葉が紡ぎだされ爆風が室内に吼え狂った。
シガンの魔法障壁はあっけなく打ち破られ、パーティの全員が致命的ともいえる大ダメージを受けた。
「ぐ、ぉぉ……」
「なんだと……?」
やがて霧間に陽光が差し込むかのように熱風がとぎれ、視界も元のように戻ってくる。
カザルはすばやくメンバーの状態を確認した。
死人はいない。最悪の状況は免れた……
だが最悪の一歩手前、といっても間違いはないくらいに状況は悪い。
「撤退するぞ!」
しかしその素早い号令も、部屋の奥にうずくまっていた男……マスターニンジャによって退路を絶たれたあとでは意味を成さない。
ティルトウェイトを放った鎧の女は抜き身の刀を手にしながら嫣然と微笑んでいた。
迷宮内には似合わしくないほどの優美さ……
「トモエ……」
その姿にやや顔を青ざめさせたファールが呆然と呟く。
サムライ発祥の地、ヒノモトにおいてかつて勇名をほしいままにした男に従いながらも、その最後の戦についていくことが出来ず彼を看取ったあと出家し菩提を弔った女将軍……以来その名は、女性として最高位を極めたものに与えられる称号となっていた。
「逃げることはあるまい。もっと妾と遊んでくりゃれ」
トモエは微笑みながら歩を踏み出す。その姿に一部の隙すら見出すことは不可能であった。
「後ろがダメなら……前へッ!」
マスターニンジャに後ろを取られたまま、レイラがトモエに飛び掛る。敵のリーダー格であるトモエさえ倒すことが出来れば活路は開けるからだ。
トモエまでは14歩……しかし……
「意気込みはよし。じゃがそのような凡庸な腕でなにを得るつもりか」
空中に留まったレイラの目の前に、数瞬前までは距離があったはずのトモエの顔があった。
驚愕の表情を浮かべるレイラの右肩から腰にかけて熱いものが横切り……レイラは絶命した。
「レイラっ!」
ファールがレイラに駆け寄ろうとするが一刀のもとにそれを斬り殺したトモエのプレッシャーに押され動くことが出来ない。
「チクショウっ! ……ケイツ!」
カザルがケイツに声をかけるのとルビーのスリッパが砕かれるのはほぼ同時だった。

そして迷宮に静けさが戻る。
「蛮勇を誇るものどもよ。またこの地にてあいまみえようぞ」
トモエは微笑し、闇に溶けるようにその場より歩き去った。

【2006年12月02日19:55 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その5

ず、ず、ずぅぅぅん……
第6層で爆弾を爆発させることによって頭上から落盤の音が響いてくる。
「生き埋めにならんだろうな……?」
カザルが不安そうに天井を見るが、今のところその心配はなさそうだ。
第5層にあった、あのもろい壁も崩れているかもしれない。その奥になにがあるのかは知れたものではないのだが。
「このやり方、スマートじゃないよね」
ファールが肩をすくめて第5層への階段に向かって歩き出した。


月にはかられて、夜深く起きにけるも


予想通りというべきか、意外にもというべきか、もしくは『なぜか』と疑問符でも発するべきか……
第6層へ向かうもうひとつの下り階段は第5層、もろい壁の向こう側に存在していた。

そして1週間、一行は第6層の探索を開始していた。

「あぁッ! 朽ち果てやがれッ!」
カザルの全体重をかけた渾身の上段斬りを受けることが出来ず、キメラが不気味な悲鳴を上げ血煙の中へ倒れ伏す。すばやく仲間のフォローに入ろうとするが、仲間たちもすでにおのおのの目の前の敵を打ち倒したところだった。
「……ふぅ、この階層のやつらはなかなか手ごわいな」
カザルは剣を鞘に納めながら息をついた。
「まぁ、もっかしたらここが終着点かもしれんからね。ある程度手ごわくないと拍子抜けしちゃうってばさ」
レイラがニヤニヤ笑いながらいう。
「……手ごわいよりも楽なほうがいいですよ」
ケイツが小さな声で呟くが案の定、誰も聞いていない。
ケイツが泣きそうな顔をするのもいつもどおり。
いつもどおり、であった。ここまでは……
「よし、じゃあ次の玄室にいこうか」
カザルの声でメンバーが立ち上がる。

扉の前……
「……じゃあいつもどおり。ユーウェイが扉を蹴り開けた瞬間に俺、ファール、レイラが室内に侵入する。ユーウェイはそのまま姿を消しつつ奇襲を狙って……シガンとケイツはモンスターを確認してから適宜行動だ。マジックユーザーが大量にいたときは2人ともカティノから頼むぞ」
カザルが玄室の中にいるであろうモンスターたちに気取られないように小声で作戦を伝え、メンバーはそれに頷く。
「じゃあいくぞッ!」
カザルの声とともに蹴り開けられる扉。
しかしその中からパーティに襲い掛かったのはモンスターではなく目も開けていられないほどの灼熱の熱風であった。
「ティルトウェイト、ですって……?」
ケイツが熱波の波動から使用された呪文を割り出す。
「う……ッ!?」
ファールが目を灼かれないように腕をあげてかばいながら中の様子を探ろうとする。
やがて長く続いた熱波がようやくにしておさまり……視界が晴れていく。そこにいたのは……
「ここのモンスターは僕たちがいただいたよ」
赤く染まった視界に立つ青い鎧を身につけた金髪の優男、マリク。
そしてそのパーティたち。
カザルたち善戒律のパーティと行動を共にすることすらないが冒険者として同じ迷宮に潜っている以上、そこで鉢合わせるというのもありえる話であった……珍しいことであるのは事実だが。
「連戦で嫌になるものだね?」
マリクは微笑すら浮かべつつ、恐らくこの階層で拾ったのであろうサーベルを鞘に納める。
「確かにな……成果はあがってるか?」
「いや、まったくだね。強制テレポーターのおかげで帰還が楽だ、ってくらいかな。そっちはどうだい?」
カザルとマリク。リーダー同士が短い会話で情報交換する。確かにこの第6層ではいたる場所にリルガミンへ強制的に連れ戻されるテレポーターが配置されていた。
「こっちも似たようなもんさ」
苦笑しながらカザルは玄室に集ったメンツを眺めた。
「シガン~。童貞捨てた? 童貞」
「ぶっ! なにいってんすかぁッ!」
ハロゥは相変わらずの薄着に軽くローブを肩から羽織っただけの姿でシガンの髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回しながらからかっている。エロガキとエロ神官では勝負にもなるまい。
奥でローブについた埃を片手で払っている、耳より少し下あたりで明るい茶色の髪を切りそろえたエルフの少女はディーナ。先ほどティルトウェイトを放ったのも彼女であろう。すべての魔術師魔法を使いこなす高位の魔術師であり……
……にこっ。
カザルの視線に気づいたか顔を上げてにっこりと微笑むディーナ。しかしその瞳の奥には血に飢えた猛獣と同じ色が見え隠れしている。自分の一見な天真さを武器とする、恐るべき少女であった。
「ふぁ、ふぁーな、ざん」
不明瞭な発音でファーナに近づく大男。ドルツ。ユーウェイと同じほどの逞しい体を持つサムライ……しかしそれ以上に目を見張るのは彼の外見のあまりにも醜いところであろう。
顔中を腫れ物が覆い、じくじくと膿を吐き出している。
「ご、ごれ……」
しかし彼の大きな手に握られていたのは可憐な花。それをドルツはファーナに手渡そうとしていた。
「私に? 嬉しい。ありがとう!」
素直に受け取るファーナにドルツは醜い顔で、それでも精一杯の笑顔を浮かべる。彼にとって、リルガミンにやってきてから自分を汚物扱いしないでくれたのは彼女が初めてだった。
「……もうよかろう。とっとと先に進むぞ」
今までずっとメンバーの一挙手一投足を逃さず観察していたくせに、タイミングを見計らったようにやや青みがかった黒髪の僧衣の男が口を開く。
高位の為政官の家系に生まれ、その才能で将来の大臣位を嘱望されながらも、あっさりとその地位を捨て、後の世に邪教と呼ばれ弾圧されることになる牙の教団に入信し司祭へと上り詰めた男、ラグラノール。
その言の葉はすべて計算で埋め尽くされている。彼の言葉はこれ以上自分たちから情報を引き出す価値がないと見切ってのことだろう、とカザルは納得する。
「そうだな。いこうか」
マリクが手を上げると、そのパーティは次の部屋へ向かい始める……ドルツだけはファーナともっと話したいようではあったが。
そして……
最後に40歳くらいであろう、人間の小男がレイラに小声で話しかける。
灰色の髪はもはや薄く頭頂部がやばいことになっている、一見して貧相な風采の男である……が、この男がレイラがマリクのパーティから抜けたあとに、そのあとを継いだニンジャ、ゼムンであった。
「追いかけなくていいの?」
「追いかけますよ。それよりも、レイラさん……右からの斬撃に気をつけてください。嫌なビジョンが見えるので」
ゼムンはそれだけいうとマリクを追って迷宮の闇に消えていった。
レイラは右眉を上げ、微妙な表情をする。

【2006年12月01日14:59 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その4

「泉……?」
地下水でもあふれ出したものか、第5層北西部でパーティを待ち受けていたものは濃い水の香りであった。
「つまり……この泉の底に時計の仕掛けが落ちてるてことか」
やれやれ、と首を振るカザル。
悪戒律のマリクのことだ。このような場所、ということはわざと黙っていたのに違いない。
「じゃあ……ユーウェイ、頼めるか?」
「委細承知」
しかし彼が潜るほどのことはない。
「あぐぉッ!?」
ユーウェイは足を水溜りに浸した瞬間、呻き声を発してその場に倒れ、それと同時に泉から奇妙な海洋生物が飛び出してきたのだ。
「マリクめ、これも黙ってたことかよッ!」
カザルが舌打ちをしながら剣を振りかぶる。


やまと歌は人の心を種として、よろづの言の葉とぞなれりける


泉から飛び出した海洋生物はメロウ……魔術師と僧侶の魔法を使いこなし、魔法無効化すら行ってくる強敵であり、しかもユーウェイがずっとマヒしたままではあったもののなんとかそれを退けたころにはパーティは満身創痍であった。
「ぬぅ、すまぬ」
戦闘の後半にようやくディアルコで麻痺から回復したユーウェイはその鉄拳を一度も振るうことなく戦闘は終了した。
「しゃあないって」
荒い息をつきながらそれでも微笑みつつファールが答える。
「バルの言うとおりですって。それよか師匠、仕事ですよん」
「バルじゃねぇー!」
ユーウェイはレイラとファールのいつもの言い争いを苦笑して眺めながらメロウの死体の片隅に落ちている宝箱にその繊細な指を這わせた。
「毒ガス、だな」
呟きながら鍵穴に針金を差込み、その内部を探る。
針金の先に目がついているかのようなその動きをパーティは固唾を呑んで見守り……
やがて……カチッというかすかな音。
「よし、あいたぞ」
ユーウェイは何事もないかのように宝箱を開ける。そこに時計が眠っていた。

第6層。
時計を手に入れたパーティは再びこの場所を訪れていた。もちろん箱を爆発させるため、である。
「うむぅ、この箱から伸ばしたワイヤーに時計のここを……こうして……よし、できた」
ユーウェイが持ち前の器用さで簡単な時限装置を作る。
「では仕掛けてくる」
シュタっと手を上げユーウェイが壁に爆弾を仕掛け、急ぎ戻ってくる。
そして爆発が……
爆発が……
ばく……
ば……

……しなかった。

「ぬぅあー! なぜ爆発せんのだぁーッ!」
はしゃぐユーウェイ。
微妙な表情で黙りこくるパーティ。これで道が開けると信じきっていたのだからその落胆もかなり大きい。
その微妙な空気の中、ケイツがはっと気づいたように顔を上げた。
「あ、あのっ! もしかして2つあった箱のうち、もうひとつじゃないと爆発しないんじゃ……」
「ぬぁーっ!」
しかしそのか細い声はユーウェイの図太い声にかき消された。
しゃがみこんで地面にのの字を量産するケイツ。
「あ、もっかしてもう1個の箱なのかな?」
しばらくしてレイラが不意に気づいたように顔を上げる……が、ケイツのと同じ内容だ。
「あぁ」
「そういえば」
しかしこっちはみんなが反応する。ケイツが泣きそうな目でメンバーを睨みつけた。
「よし、もう一度箱を取りにいってみよう。ケイツ、マロールをお願いできるか、って……なに不貞腐れてんだ?」
「……別に。なんでもないです」
カザルの言葉にケイツは口を尖らせてマロールの詠唱をはじめた。
「あ、まったまった!」
しかしファールの声がその詠唱を押しとどめる。
「もうお金払うのもバカみたいだしさ。箱のあった小部屋のほうに最初からテレポートすればお金払わなくてすむんじゃない?」
「おぉ!」
シガンが嬉しそうな顔をする。
確かに払わなくてもいい金を払うのは微妙だ。
「じゃあそれでいこう……頼めるか、ケイツ」
「……了解」
ケイツも肩をすくめてマロールの詠唱を再開する。

「ないじゃん!」
シガンのその叫びがパーティメンバー全員の心を代弁していた。
箱などなく、あるのは床に散らばったおがくずのみ。
つまりは……
「どう足掻いても5000ゴールド支払わにゃいかんか」
カザルが苦く呟いた。

「宝箱がほしいのかい? 今は2種類しかないよ。それでよければ5000ゴー……」
「うるせぇ、くらえー!」
箱売りの老人に5000ゴールドの詰まった布袋を投げつけるように渡し……というか実際投げつけているのだが、そして三度足を踏み入れた箱の部屋。
「……やっぱり2個ありますね」
「どっちだろう」
やはりあいも変わらず2つの箱が並んで置かれている。
「う~ん」
ユーウェイが箱の側にしゃがみこみ、しばらくいじっていたがお手上げ、というように手を振る。ユーウェイですらわからないのであれば他の誰にもわからないだろう。
確率は二分の一、であった。
もうお金を払うのはイヤだ!
せせこましくも切迫した感情が一行の目線を鋭くさせる。
そしてシガンが小さく呟く。
「2個とも持ってっちゃえばいいじゃん」
「あぁっ!?」

【2006年11月30日20:47 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
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