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【2024年04月27日00:28 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その6

「んっ、とルビーのスリッパと……この胸当ては呪われてんなぁ」
シガンが鑑定したアイテムをケイツに手渡す。
「スリッパ? えらく履きにくそうだな」
カザンはケイツに手渡された、宝石のあしらわれたスリッパを見て眉をひそめる。
「いやいや、これって魔法のアイテムなんだよぅ。これを砕いたらパーティ全員が休息地……つまりこの場合はリルガミンに戻ることが出来るんだよ」
「ほ~う」
シガンの解説に感心したような声を漏らすカザン。
「ま、売るけどね」
頭をぽりぽりとかきながらシガンが言った。


祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり


「ずいぶん慣れたんじゃない?」
玄室と玄室をつなぐ通路を歩きながらレイラが腕をぐるぐると回しながらご機嫌な声を出した。
「レイラよ、油断するな」
「大丈夫ですってばぁ」
ユーウェイの言葉にレイラが軽く答えるが、誰がどうヒイキ目に見ても油断している。
「慣れたのは確かだけど……まだマップも埋まったわけじゃないんだし」
ケイツが小声で注意するが小声すぎて残念ながら誰の耳にも届いていない。いいこと言ってるのに。もったいない。
カザルも苦笑しつつも、レイラを注意することはない。
第6層に到達してから、あまりにも順調な探索行にパーティメンバーの心にも緩みが生じていることは確かであった。

一般にそれを慢心と言う。
それは心に巣食う病のこと。
たやすく他人に伝播する疫病のこと。

「では扉を開けるぞ」
「ほ~い」
ユーウェイは緊張感をもてあそぶレイラに一瞬眉をひそめるが気を取り直したように弓を構えながら扉に足をかけた。
ドカン、という音を立てて扉が蹴破られ、それと同時にパーティが列を整えつつ部屋に侵入する。
部屋の中には数人の『奥女中』と呼ばれるダンジョン内でなにかに仕える薙刀を持った女戦士。そして2人のハタモトと呼ばれる中位のサムライ……それ以外にもうずくまる人影や鎧を着た女がいるようだが部屋の入り口からでは明かりが届かずよく見えない。
「春眠不覚暁、処処聞啼鳥……カティノ」
敵の数が多いと見たケイツがすばやく手で印を切りながら眠りの呪文を唱えると何人かの奥女中が睡魔に負けよろめく。
「自有五白猫、鼠不侵我書……コルツ!」
シガンもハタモトの魔法を封じるためにパーティの目の前に不可視の障壁を張り巡らせる。
パーティの奇襲に瞬間動揺したモンスターたちも体勢を立て直そうとするが……
「西京亂無象、豺虎方遘患……ツザリク」
ハタモトのそのすばやい魔法の拳はシガンの生み出した障壁に阻まれパーティまで到達することなく効果を消す。
魔法戦は不利と見たもう1人のハタモトが手にした刀で斬りかかるもののファールの刀によって受け止められてしまった。
眠りに落ちた奥女中のうち3人に、それぞれカザルとレイラ、そしてユーウェイが止めを刺す。
緒戦はパーティの完全有利。
しかし……
「秋風蕭瑟天氣涼、草木搖落露爲霜……」
「……っ!?」
入り口から見えなかった人影が唱える呪文の詠唱を耳に入れ、ケイツが顔色を変えた。
「みんな、注意して……!」
シガンのコルツだけでこれに対抗は難しいか……
だったら二度がけで障壁の強度を上げればなんとかなるだろうか。
ケイツがさらにコルツを唱えようとするが……

間に合わない。

「ティルトウェイト」
力ある言葉が紡ぎだされ爆風が室内に吼え狂った。
シガンの魔法障壁はあっけなく打ち破られ、パーティの全員が致命的ともいえる大ダメージを受けた。
「ぐ、ぉぉ……」
「なんだと……?」
やがて霧間に陽光が差し込むかのように熱風がとぎれ、視界も元のように戻ってくる。
カザルはすばやくメンバーの状態を確認した。
死人はいない。最悪の状況は免れた……
だが最悪の一歩手前、といっても間違いはないくらいに状況は悪い。
「撤退するぞ!」
しかしその素早い号令も、部屋の奥にうずくまっていた男……マスターニンジャによって退路を絶たれたあとでは意味を成さない。
ティルトウェイトを放った鎧の女は抜き身の刀を手にしながら嫣然と微笑んでいた。
迷宮内には似合わしくないほどの優美さ……
「トモエ……」
その姿にやや顔を青ざめさせたファールが呆然と呟く。
サムライ発祥の地、ヒノモトにおいてかつて勇名をほしいままにした男に従いながらも、その最後の戦についていくことが出来ず彼を看取ったあと出家し菩提を弔った女将軍……以来その名は、女性として最高位を極めたものに与えられる称号となっていた。
「逃げることはあるまい。もっと妾と遊んでくりゃれ」
トモエは微笑みながら歩を踏み出す。その姿に一部の隙すら見出すことは不可能であった。
「後ろがダメなら……前へッ!」
マスターニンジャに後ろを取られたまま、レイラがトモエに飛び掛る。敵のリーダー格であるトモエさえ倒すことが出来れば活路は開けるからだ。
トモエまでは14歩……しかし……
「意気込みはよし。じゃがそのような凡庸な腕でなにを得るつもりか」
空中に留まったレイラの目の前に、数瞬前までは距離があったはずのトモエの顔があった。
驚愕の表情を浮かべるレイラの右肩から腰にかけて熱いものが横切り……レイラは絶命した。
「レイラっ!」
ファールがレイラに駆け寄ろうとするが一刀のもとにそれを斬り殺したトモエのプレッシャーに押され動くことが出来ない。
「チクショウっ! ……ケイツ!」
カザルがケイツに声をかけるのとルビーのスリッパが砕かれるのはほぼ同時だった。

そして迷宮に静けさが戻る。
「蛮勇を誇るものどもよ。またこの地にてあいまみえようぞ」
トモエは微笑し、闇に溶けるようにその場より歩き去った。

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【2006年12月02日19:55 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは平家物語。うぬ。

さて、レイラ死んだけど気にせず元キャラ紹介。

モンスターメーカーRPG アリエル・ファーシード(レイラ)
私のキャラが『貧乏!』もしくは『ブサイク!』のどっちかで固まりだしたのは大学のコロだったっけかなぁ~?
このキャラは貧乏でありながら明るい子を目指しましたねぇ。まぁ、レイラは貧乏ってファクターなくなってるけど。まぁ、貧乏はケイツだけでいっか、と。まぁ、うん。
【2006年12月02日 20:01】| | 上杉霧音 #936416630c [ 編集 ]
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