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【2025年03月04日17:39 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その3

「あ、あれ? 爆弾箱、2個あるよ!?」
迷宮第4層にファールの素っ頓狂な声が響く。
「……」
「……」
しばし考える一行。
「ま、どっちでも一緒っしょー!」
「そうねー。あははー」
考えた割に結論はアバウトだった。


春はあけぼの。やうやう白くなりゆく山ぎは


「うぅ~む……かなり精巧な仕組みであるな。正直なところ、我輩はこの爆弾トラップは解除できぬ」
「へぇ~、そんなすごいんだぁ」
戦士の休息場、リルガミン市内にあるギルガメシュの酒場に集った一行は今日、生き延びられたことに祝杯をあげつつ箱を見ていた。
シガンによる箱の鑑定結果は宝箱……まんまである。
その宝箱を無骨そうに見えて、何気に繊細なユーウェイが指を這い回らせた結果がその感嘆だった。
ただその話を聞いているのはニンジャのレイラだけであった。
ファールはステージの上で気持ちよさそうに恋歌を歌っていた。
彼女はもともと精霊神ニルダを祀る僧門の出身なのだが、芸の道に憧れ家を飛び出し……そして今は迷宮に潜っている。なぜかは不明。彼女は彼女なりにいろいろあるのである。
芸人を志しただけあって、その歌声は堂に入ったものでありそれだけでお金を稼ぐことも不可能ではないと思わせるのではあるが、今のところファールは迷宮に潜るのをやめるそぶりは見せていない。
ケイツはシガンに何事かを話しかけ、そのことごとくを無視されていた。
その様子にレイラは苦笑を浮かべるが、いつも自分も無視する側の立場であることは棚に上げている。
パーティ最年少のケイツは弟たちを養うために迷宮に潜っていた。彼女は早くに両親を流行り病で亡くし、3人の弟たちを抱えながら路頭に迷っていたのを彼女に魔法を教えた師匠に拾われたのである。彼女の師匠の、そのまた師匠に当たるのがタイロッサム。つまり彼女にとって自分の師匠を嘆かせるタイロッサムは絶対に許せない存在であった。
シガンはといえばよだれでもたらしそうな顔で酒場で働く半裸の女たちに見入っている。
その様子こそただのエロガキではあるもののもともと生命神カドルトに仕えるエリート司祭であった。
順調に出世コースに乗っていた彼がなぜ冒険者を志したのかについて彼がまともに語ることはまだないが、義憤、だけではないようである。
そして……
「あれ? バージャルは?」
レイラがきょろきょろと辺りを見回す。
「カザルか?」
「そう、それ」
相変わらず適当な発音であった。
「……お、おぉぉぉぉぉ」
シガンが目の前を横切る尻にかぶりつくように見つめていると尻がシガンを殴った。正確にはその尻を持った女性がシガンを殴ったのである。シガンは一発でテーブルに突っ伏し動かなくなった。
「やっほぉ。諸君、元気ぃ?」
ニヤニヤと笑いながら尻……いや、女性が突っ伏したシガンの後頭部にひじをつく。
ハロゥ。レイラもたいがいにして薄い服を身にまとっているが彼女の服はさらに薄い。着る意味があるのか、すら不明な、南方出身者特有の日に焼けた肢体を見せることに特化した服装である。
彼女はシガンと同門の生命神カドルト神官であり、シガンの姉弟子に当たる女性である。もともとシガンは司祭であるがゆえに冒険当初は初歩の回復魔法すら取得してはいなかったのだが、傷つき、リルガミンに帰還したパーティの回復を彼女が担当してくれていたのである。
もっとも悪戒律である彼女に、パーティは決して安くない金を支払っていたのは事実ではあるが……
「あんまりうちのメンバーをいじめんでくれるか?」
「いやいや、姉弟子として弟弟子が淫らな道に足を踏み入れないようにするための教育だってば」
苦笑しながら後ろから現れたカザルはもう1人の男を伴っていた。
「マリクは俺たちがまだ足を踏み入れていない第5層、北西を探索済みだってことでな。話を聞いてたんだ」
マリク。外見は長く伸ばした金髪を背で無造作に縛っている一見すると優男である彼はハロゥのパーティメンバーであり悪戒律の戦士。そして……
マリクはにっこりと微笑みながらレイラに近寄る。
「やぁ、レイラ。久しぶりだね。まだ僕のところに帰ってくる気はないのかな?」
レイラのあごを持ち上を向かせる。彼女の目に飛び込んでくるのはかつて自分が悪戒律だったころにパーティを組み、そして恋人同士だったときと変わらないあのころの笑顔。
しかし、レイラはマリクの手を片手で振り払う。所詮は過去の話だ。
「冗談でしょ?」
「冗談だとも」
レイラの言葉にマリクは肩をすくめてから酒場の奥に消えた。
「ま、そういうこったから。そっちもなんか情報を手に入れたら教えなさいよ」
シガンをもてあそぶことに飽きたか、ハロゥもマリクを追って酒場の奥に消える。カザルは苦笑しながらそれを見送り……ゆっくりとテーブルにつきながら口を開いた。
「で、だ。宝箱をそのまま爆発させたら俺たちもそれに巻き込まれちまうだろ? だがマリクが言うには第5層北西にちっちゃな時計が落っこちてるらしいんだ。それを使ったら、俺たちが逃げてから爆発させるような、時限装置が作れねぇかな、と」

酒場には今日もファールの歌声が響く。
「……くすん」
無視され続けたケイツが悲しそうな顔で両手に持ったカップの中のエールに口をつけた。

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【2006年11月29日20:36 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その2

ダバルプスの呪いの穴。
かつてリルガミンを恐怖のどん底に叩き落した魔人ダバルプスがかつて生み出した迷宮洞窟。
反逆者タイロッサムはこの洞窟の奥底に潜み……今もまたモンスターたちを召還し続けているはずであった。
その第5層……彼らは今、ここにいる。


つれづれなるまゝに、日ぐらしすずりにむかひて


「わーッ!」
突然大声で叫んだシガンの口を慌てた様子でファールとカザルがふさぐ。
ケイツが警戒するようにあたりを見回し……
洞窟の奥のほうより落盤の音が響いた。
「うふ、うふふぅ」
なにかツボに入ったのだろう、その音を聞いてシガンが笑う。
「あ、あああ、あほか、こいつはぁ!」
カザルが動揺したように小さな声で叫び……
それがまた落盤を呼ぶ。
第5層……ここは地盤がもろく落石が相次ぐ危険な場所であった。
「いや、だって、おもしろくてさ」
にっと笑いながら言うシガンに力が抜けたようにファールがへたり込む。
「あぁ~……生きて帰れるのかなぁ」
「大丈夫だって。ほら、戦闘中だったらもっと大きい音してるのに、まだ一回も死んでないってことは、この程度じゃ死なない死なない」
やたらポジティブにレイラがファールの肩をぽんぽんと叩く。もちろんそのセリフになんの根拠もない。
「死んでたら生きてないし!」
動揺しているのか、ファールの口から出たのはよくわからないセリフだった。
「うむ、ファールよ。意味がわからん」
ユーウェイが重々しく頷いた。
遠くから落盤の音が響いた。

この迷宮が何層からなるのか、知っているのはもうタイロッサムだけであろう。
かつてダバルプスがこの迷宮を支配していた当時は全6層からなっていたこの迷宮は当時の面影をまったく残さず、地形すら変わった状態でそこにあった。

「う~ん」
ファールが唱えたデュマピックの呪文の効果による、宙に浮き出た地図を食い入るように見つめながらカザルがうなり声を上げ、立派なヒゲをしごいた。
デュマピックは一度でも足を踏み入れた場所をすべて映し出す魔法である。
パーティは第6層へ向かう階段もすでに見つけており、地図も北西の一部を除きほぼ埋まりつつある。
だが……
「むぅ」
第6層で彼らを待ち受けていたものは出口もなにもないただの小部屋であり、第6層に本格的に入るためにはなにかが必要なはず、なのだった。
第5層がこのような状況なのだから崩れそうなほどもろい壁はある。だが冒険者はあくまで冒険者であり、穴を掘る専門のものではない。
下手にもろい壁に穴を開けようとすれば、それこそ生き埋めになる危険性があった。
「きけん……きけん……うぅむ」
「危険……? はて?」
カザルの呟きにレイラが首をひねる。
「最近、どっかでその単語見たような……」
カザルと同じように考え込むレイラ。
「あの……第6層の小部屋の行き止まりに危険って看板に書いてありましたよ」
ケイツが答えを言った。
「う~ん」
「う~ん」
だが誰も聞いていなかった。
「はぅぅ、私なんて……私なんて……」
幾万もののの字を書き記すケイツ。彼女の心の手記はのの字で埋め尽くされていることであろう。
「あ、第6層に危険って看板なかったっけ?」
ファールが思い出したように顔を上げた。内容はケイツが先ほど言ったことと一緒だが。
「あ、それだ!」
レイラも顔を輝かす。
「ん? そんなのあったっけなぁ……一応だし、一回確認しに行くか」
首をひねりながらもカザルはパーティメンバーに告げる。
「お~う」
元気に叫んでシガンが走り出した。もちろん第6層への階段とは逆方向に。
「うぅっ……私なんて」
しゃがみこんで呟き続けるドワーフ少女の頭にやけに大きな手が乗せられる。
「いくぞ、ケイツ」
「ユーウェイさぁん」
ユーウェイの声にケイツは涙交じりの声を上げる。
「大丈夫だ。ケイツには我輩にはマネのできない能力があるではないか。みなもそれはわかっておろうよ」
「……のう、りょく?」
驚いたように瞬きをする少女。
「うむ……ここまで無視されるのは才能としか言い様がない。すばらしい芸風ではないか」
「そっ! それって微妙ですぅ~! しかもすごく微妙っ!」

「お~、確かに危険とか注意とか書いてあるなぁ」
第6層。
その看板は落盤の恐れがあるので爆弾と呪文を使用禁止するものであった。
「爆弾?」
モンスターが落とす宝箱にも爆弾のワナは存在するが、ユーウェイが思い浮かべたのはそれではなく……
「そ、そういえば……第4層に5000ゴールドで爆弾宝箱を売ってるおじいさんがいましたよねっ」
かつて一行が『5000ゴールドも払うんだからそうとうなブツに違いねぇ。ひゃっはー』と買い取った箱が爆弾であり、腹いせに第1層のザコモンスターにぶつけて粉みじんにしたことがあった。
「う、うぅむ……あれはそういう使い方をするものであったか」
珍しくメンバー全員が聞き取ったドワーフ少女の言葉にユーウェイが渋い顔をする。
大金なのだから出来れば払いたくはないが……
「ま、背に腹は変えられんか」
カザルが肩をすくめた。

【2006年11月28日21:33 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
Wizardry外伝1 受難の女王 その1

ガキーンッ!
硬質のものがぶつかり合ったとき特有の音とともに一種、ほの闇が火花によって照らされる。
片や不気味な仮面を身につけた異相の集団……ダンジョンに巣食う魔物、カナバル。
片やカタナを振るう10代後半の黒髪の女サムライ。その長い耳から種族はエルフであると知れる。
硬質の音はカナバルの手にする斧とエルフサムライのカタナが交差した音であった。
「あまり突っ走らないで、バル!」
女の後ろから、それに注意を促す別の女の声。その姿は闇に溶けており見えないが。
「私の名前はバルじゃなくてファールだぁーッ!」
バル……いや、ファールは絶叫にも似た声を上げながら、再びカナバルに斬りかかる。


月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也


リルガミン。
エセルナート大陸の西域に属する都市国家である。
精霊神ニルダの霊力を宿したニルダの杖の加護によって守られたこの国はかつてワードナ戦役や悪魔王マイルフィックの顕現、ダバルプスの反乱など幾多の危機も乗り越え、歴史を刻んでいた。
新たな騒乱は新しい女王アイラスが即位した1年前にはじまった。
即位の儀の最中にはじまった突然の天変地異。豪雨が続き王国湾岸部は津波に巻き込まれ、ニルダの加護のある市内であれば決して起こりえないはずの地震までもリルガミンを襲った。
そして一週間、それは続き……一週間後にはアイラスの姉、ソークスの姿が消えていた。
それからも天変地異は続き、人々がニルダの杖の加護が薄れてきたことを噂しあう中、今度はアイラス、ソークス姉妹に魔道を教授していた宮廷魔術師タイロッサムが突如、ダバルプスの迷宮に籠城し、魔物の召還を始めた。
これによりアイラスは世界より冒険者を募り、タイロッサムを反逆者として討伐する布告を出した。

「だからッ! 私の名前はファールだと何度言ったらッ!」
カナバルを何事もなく退けたファールは、戦闘中、自分のことをバルと呼んだ女性に食って掛かる。
「いやぁ、発音しづらいし……ファー……バール?」
にこにこと笑いながらファールをどうどう、と押しとどめる女性。赤毛を後ろで縛った20代前半の糸目の人間。その服装は迷宮の中には不釣合いなほどの薄着である。
だが、これこそが彼女本来のホンキの戦闘スタイルであった。
レイラ……本来であれば悪戒律のものにしかなれないはずのニンジャに、善戒律でありながらその職についている。もちろんニンジャであるということは彼女はもともと悪戒律であり、戒律が変更される『なにか』があったはずなのだが仲間たちがそれを詮索することはない。
「レイラよ、こちらへ参れ」
カナバルたちの死体の側にしゃがみこんでいた岩……いや、男が立ち上がった。
人間、ではある。
鼻の下にヒゲをはやした20代後半の黒人の大男である。その腕の太さは鍛え抜かれたファーナやレイラの太ももよりも一回り太い。
またその背もけして背が低くない2人が見上げるほどに大きい。節くれだったその指も男がそうとうに名のある戦士であると想像されるのだが……
「レイラよ、この箱に仕掛けられているワナをどう見る?」
「む、むぅ~……えっと……テレポーター?」
男がレイラの頭を叩いた。すごくいい音がした。
「い……ったぁ~い! じゃあなんなんですか、師匠!」
「うむ、これはな……」
男がひょいっと箱を片手で持ち上げ、そのまま近くの壁に投げつけた。
人間離れした膂力によって壁に衝突した箱は、そのまま無残にばらばらになる。その瞬間、カシャンという音がして石が飛び出すが、その方向には誰もいない。
「見てのとおり石礫だ」
ひょいっと肩をすくめる大男。
石礫。不用心に箱を開ける者に石をぶつける仕掛けではあるのだが、こうも身も蓋もなくばらばらにされてはどうしようもあるまい。
男の名前はユーウェイ。これでも腕利きの盗賊であり、盗賊の技術をレイラに教える先生でもある……『教官』と呼んだほうが似合いそうだが。
「……あ、あのっ。剣が落ちていますよっ」
なかなか進まない一行の話に業を煮やした小柄な茶髪の少女……10代半ばだろうが、その平均身長にも届かない。それもそのはずで少女の種族はドワーフである……が声を振り絞るが、振り絞っているだけで蚊が鳴くより小さい。
「……あのっ……聞いていませんね。うぅ……」
隅っこでいじけだす。
このドワーフ少女は名前をケイツ。高位の魔術師ではあるがいかんせん押しが弱い。
「お、剣が落ちてるぜぇ!」
今度は血圧の高そうな少年の声が響いた。
僧衣を羽織った10代後半の人間。黒いくせっ毛をそのままに嬉しそうにメイスに駆け寄る。
「……あっちゃぁ~、呪われてらぁ~!」
メイスを鑑定し、なぜか嬉しそうに叫んだ。やたらテンションが高い。名前をシガンという司祭である。
彼の神は沈思がお好みではないのだろうか。
「まぁ、呪いの品でもよかろう。ボルタックであれば引き取ってくれる」
「そうね。儲けとしちゃ悪くないし」
腕組みして頷くユーウェイにファールが同意する。
「……うぅ、私のほうが先に見つけたのに」
床にのの字を書くケイツ。かなり達筆なのの字である。
「じゃあ今日のところは帰ろうか。もう呪文も少ないし」
まとまらないパーティメンバーを少し離れていたところで見ていた男が声をかける。
長めの金髪を香油でオールバックに撫で付けた20代前半のノームの青年。
顔を覆うヒゲも明るい金色である。
パーティリーダーであり、歴戦の戦士のカザル。
「じゃあマロールを……あれ? ケイツは?」
きょろきょろするカザルを恨めしそうな目でケイツが睨みつけた。

【2006年11月27日17:29 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
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