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【2024年04月20日20:22 】 |
Wizardry外伝1 受難の女王 その42

カザルがマリクから聞いた悪魔の胸当ての使用法を説明するとパーティメンバーが初耳、という顔をした。
「すごいねぇ、呪われてるくせに」
ファールが感心したように言う。
「……くせに、って」
ケイツが呟くが相変わらず誰も聞いていない。


二月の中の五日は、鶴の林に薪尽きにし日なれば


奥の院第4層。
パーティは長い通路の探索はひとまず置いておいて、斜め方向へと向かう8つの扉から攻略することに決めていた。
「じゃあどこからいくか、だが……どれでもそうかわりそうにねぇなぁ」
頬をかくカザル。
「勘に任せて北北東から行くか」
ぎぃ……
扉を開けるさび付いた音。
その向こうからモンスターに襲われることはなかったが扉の向こうの通路の向こう側に暗闇がわだかまっているのが見えた。
「ったく、ダークゾーンかよ、よりによって。灯火の魔法が打ち消されるのも面倒だし、別の扉から開けていくぞ」
カザルがそういって引き返そうとして……
ゴウン。
いい音を立てて壁に正面からぶつかった。
「……!? ……!? ……!?」
鼻を押さえて正面を見るカザル。
そこにあったはずの扉は消え、目の前には壁だけがある。
「えっと……?」
念のためにファールが地図の魔法を唱えるがテレポーターに巻き込まれたということも、回転床で方向を間違えているということもない。つまり……
「一方通行かよ」
カザルが嘆くように呟いた。

ダークゾーンへ入りそこから南へ。その通路はすぐに行き止まりとなっており、そこでファールが再び地図の魔法をとなえると東北東の扉の向こう側であることが判明した。
「ほうほう、北北東と東南東の扉は中で繋がってるわけだな、よしよし」
「あんまよしよしでもねぇんじゃね? やっぱりこっちも一方通行なんだから」
地図を見ながら満足そうに言うカザルにファールが突っ込みを入れる。
地理を把握してからパーティはダークゾーンを北側に抜けた、が……
「ぎゃー!」
「ぐあっ」
ダークゾーンを抜けた瞬間パーティが足を踏み入れるはずの床は落とし穴。前衛3人が情けない格好で穴にはまることになる。
「はははー……一方通行にダークゾーンにピットとはなかなか面白い趣向じゃない」
額に青筋を浮かべながらレイラが口を開けてけらけらと笑う。
後衛3人に手を借りて穴から抜け出た前衛3人。その中でカザルは穴を覗き込みながら不思議そうな顔をしていた。
「どったん?」
「いや……この罠には殺意はねぇよな」
質問するレイラにカザルは歯切れ悪そうに答えた。
「いや、痛かったって。めちゃめちゃ痛かったって。ここ擦りむいたんだよ、ほらぁ!」
カザルに反論するようにファールが自分のひじの部分をカザルに向けた。ちょこっと皮が捲れて血が出ている。
ファールを手でどうどう、と落ち着けておいてからカザルは再び口を開く。
「でも擦りむいた、ですむ程度だろ? 例えばこの穴の下に槍なんぞが仕組んであったらどうだ? つまり穴に落ちたら突き刺さるような仕組みだな」
「ちょっと……やめてよ」
一瞬だけ体中が落とし穴の底に仕掛けられた槍で串刺しになって息絶えている姿を想像してしまったのだろう、青い顔になって止めるファール。
「でもそれほど難しい仕組みじゃねぇだろ? 時間さえあれば今の俺らにだってこの穴を致命的な罠に作り変えることが出来る」
確かにカザルの言うとおり、その意味でのこの落とし穴は生命を奪う要素を何一つ持っていない、甘っちょろい仕掛けであった。
「なぜここで俺たちを殺そうとしないんだ? やろうと思えば出来たはずだ……現にこの落とし穴に引っかかっちまったんだからな」
あごに手を当てて呟くカザル。
パーティメンバーも『言われてみれば確かに』と考え出す。
やがてケイツが口を開いた。
「……殺すつもりはなかった。でも仕掛ける意味はあった、ってことですよね」
「まぁ……そうだな」
ケイツの疑問にカザルが上の空で答える。
「殺すつもりはなかった、と言うより『殺さなくてもよかった』……つまりどっちでもよかった、と考えるなら時間稼ぎが目的なんじゃないでしょうか? 穴に落ちれば、どうしてもその治療とかのために時間使っちゃいますし、現に私たちだって今、こうやってこの穴の存在価値について話し込んじゃってるわけです。これって……例えばあとほんの少しだけの時間があればなにかを成し遂げることが出来る、って人間にとって十分な時間を稼げるんじゃないでしょうか……ってぇ」
ケイツは呆然とした。誰も話を聞いていなかったからだ。
カザルにいたってはケイツに一番最初に返事をしたのに聞いていない。
「うわ、すごい酷い」
驚いたように呟くケイツ。そのまま奥の院の石床にのの字を書き始めた。
「まぁ、ここで考えてても仕方がない。とりあえず前に進むぞ。ケイツもそんなとこでしゃがみこんでるんじゃない……なんで睨むんだ、お前は」
前進宣言をしたカザルはケイツにすごい目で睨みつけられた。

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【2007年01月08日17:31 】 | Wizardry小説 | コメント(1) | トラックバック()
コメント
無題
今回のタイトルは受験生におなじみ増鏡。

さて明日からなんですがまぁ、いろいろあってしばらく不定期更新になりますよー、というお知らせ。
まぁ、いろいろです。いろいろ。
【2007年01月08日 17:33】| | 上杉霧音 #92c9f3e5d1 [ 編集 ]
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